中国・香港間のサービス貿易協定が締結-2016年6月施行、香港企業の対中投資促進に期待-

(香港、中国)

香港事務所

2015年12月10日

 中国政府と香港特別行政区政府は11月27日、「サービス貿易協定」(以下、協定)に署名した。2016年6月1日に施行される。協定により、香港のサービス業の対中投資に関する規制が大幅に緩和されることとなり、香港を経由した日本のサービス関連企業の中国進出の円滑化も期待されている。

<サービス産業に特化した包括的協定>

 中国と香港の経済連携は、20036月に双方が締結した経済貿易緊密化協定(CEPA)に基づき本格的にスタートした。CEPA20041月に施行され、2013年まで10回にわたり「補充協定」が締結された。さらに201412月には、香港と広東省の間でのサービス貿易の自由化に関する協定(広東協定)が締結され、20153月に施行されている(2015年1月28日記事参照)

 

 今回の協定は、広東協定に基づき同省限定で実施されてきたサービス貿易の自由化措置を中国全土に拡大する内容で、CEPAとその補充協定、広東協定で規定されたサービス業分野の開放措置が全て盛り込まれている。

 

<拠点設立ではネガティブリスト方式を採用>

 協定では、WTOが定めた160のサービス貿易分野の95.6%に当たる153分野について、香港のサービス関連企業に対し全面的あるいは部分的に自由化措置を付与している(主な開放措置は添付資料参照)。特に、サービス貿易分野の4つのモデル(注)のうち最も典型的な形態である、現地法人、支店などの「業務上の拠点設立を通じたサービス提供」(第3モード:商業拠点)に関しては、62分野について香港企業に対し内国民待遇が適用されることとなった。また、当該モデルについては、134の分野で120項目のネガティブリストが設定されたが、広東協定と比較すると12項目減少した。

 

 一方、越境取引(第1モード)、域外消費(第2モード)、人の移動(第4モード)、および電信・文化サービス分野については、引き続きポジティブリスト方式が採用された。リストに記載された内容以外の事業展開は認められないものの、これらの分野でも新たに28項目が開放された。

 

 協定ではそのほか、投資の円滑化のレベルを高めるため、香港のサービス関連企業が協定で開放された分野に投資を行う場合、会社設立および変更に関する契約や章程について、これまでの事前の審査・批准から、一部を除き事後の登録管理へと変更された。香港のサービス関連企業が協定に基づき中国で会社を設立する場合は、商務部の「外資企業投資オンライン処理システム(外商投資線上弁事系統)」で登録することとなるが、登録に先立ち、工業貿易署を通じて「香港サービス提供者証明書」を取得しておく必要がある。

 

<香港企業の中国法規への理解が課題>

 香港特別行政区政府の曾俊華(ジョン・ツァン)財政長官は「調印により、中国と香港の間のサービス貿易の自由化は基本的に実現した」とした上で、「今後は双方が継続的に研究・交渉を行い、CEPAの内容をさらに豊富かつ充実させていくとともに、中国の全方位的な対外開放に協力し、香港は中国の秩序あるサービス業の対外開放の試験地としての役割を果たしていきたい。また、香港の産業を高付加価値の方向へ発展させていきたい」と述べた。

 

 香港の産業界も協定締結を歓迎している。香港総商会の彭耀佳主席は「協定は広東協定の『全国版』であり、開放の範囲、深度がさらに拡大した」とした上で、「香港経済に新たな動力を提供することとなったほか、中国と香港との間の各個別分野における協力と融合が促進される。さらに中国のサービス業のレベルアップ、香港企業に対しさらに多元的な投資機会が提供されることとなる」と、協定の締結を評価した(「文匯報」紙1128日)。

 

 一方、1128日の香港紙「大公報」は中国政府関係者の、「香港のサービス関連企業が中国で内国民待遇を享受するということは、中国の規定に基づき経営を行う必要があることを意味する。(中国の規定は)多くの部分で香港とは異なることを理解する必要がある。香港企業は中国の規定を理解し、それに適応していくことが最も重要だ」とのコメントを伝えている。

 

 さらに、同日の「大公報」によると、香港特別行政区政府の出先機関である各地の「経済貿易弁事処」は、中国の各地方政府との交渉を通じ、各都市政府部門に「CEPA緑色通道」(CEPA優先窓口)を開設させ、新たに会社を設立する香港企業がワンストップで、多部門にまたがる手続きを一括して行えるようにするなど、香港企業の中国における円滑なビジネス活動の実施に向けた環境整備に努めているという。

 

(注)サービス貿易の4つのモデルは以下のとおり。

1)第1モード(越境取引):ある国・地域のサービス事業者が、自国に居ながらにしてもう一方の国・地域の顧客に対してサービスを提供するケース

2)第2モード(域外消費):ある国・地域のサービス事業者が、もう一方の国・地域からきた顧客にサービスを提供するケース

3)第3モード(商業拠点):ある国・地域のサービス事業者が、もう一方の国・地域の領域において商業拠点(支店、現地法人など)を設置し、サービスを提供するケース

4)第4モード(人の移動):ある国・地域のサービス事業者がもう一方の国・地域に人を派遣しサービスを提供するケース

 

(中井邦尚)

(香港、中国)

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