CEPA深化させた「サービス貿易自由化協定」3月から施行−広東省でサービス業の95%超を香港企業に開放−

(香港)

香港事務所

2015年01月28日

香港と中国本土の自由貿易協定である経済貿易緊密化協定(CEPA)をさらに深化させた「サービス貿易自由化協定」が、香港と広東省の間で3月1日から施行される。広東省との間で行われるサービス貿易に限定されているものの、CEPAに比べさまざまな踏み込んだ市場開放策が盛り込まれており、WTOが定める160種のサービス業のうち95%超が香港企業へ市場開放されることとなる。

<2003年から毎年改定し続けた結果>
中国商務部と香港政府は2014年12月18日、香港と広東省の「サービス貿易自由化協定」(以下、本協定)に調印、2015年3月1日から施行される運びとなった。香港と中国本土間の自由貿易協定としては、香港の財・サービスを中国本土に開放しようと、2003年に締結し、ほぼ毎年にわたり改定・拡大を続けてきたCEPAが存在するが、本協定は、市場開放する産業をサービス業に限定し、市場開放する地域も香港に隣接する広東省に限定して、CEPAを一層拡大・深化させる新たな自由貿易協定だ。

CEPAでは、香港企業に市場開放されている財・サービスの種類と、市場開放が認められる中国本土内の特定地域の組み合わせが細かく定められている。しかし、本協定では、既に中国本土の各地域で香港企業に市場開放されているサービス業については、全て広東省においても市場開放されることになった。

さらに、WTOが定める「サービス貿易の4態様」(注1)のうち、「国境を越える取引」「海外における消費」「自然人の移動によるサービス提供」について27項目の新たな市場開放措置を盛り込んだポジティブリストを加えた。また、ポジティブリスト方式よりも市場開放の度合いが大きいネガティブリスト方式(注2)を「(香港企業が広東省に設置した)業務上の拠点を通じてのサービス提供」の134業種に導入し、「132項目を除き、香港企業は中国本土企業と同等の待遇を受ける」といったより進んだ市場開放を目指している。

また、「(香港企業が広東省に設置した)業務上の拠点を通じたサービス提供」を行う場合には、58種のサービス業が完全に香港企業に市場開放され、中国本土企業と同等の待遇を得られることとなった。この施策に関しては、香港企業が広東省において会社を設立しやすくするため、所管官庁による会社設立の事前認可制度を廃止し、届け出のみで足りることとする制度改正も行うとしている。

本協定が定めるこれらの施策により、広東省では、WTOの規定する160種のサービス業のうち95.6%を占める153種類のサービス業が、香港企業に(完全あるいは部分的に)市場開放されることになる。

<銀行や法律事務所にも開放措置>
サービス業の開放措置の具体例は主に次のとおり。

(1)銀行
○広東省で人民元サービスを提供する香港の銀行に対して、開業年数と利益水準に関する制限が撤廃される。
○広東省で香港の銀行、消費者金融会社などの金融機関を設立する前に、駐在員事務所を設立する必要はない(これまでは、事前に広東省で駐在員事務所を設立する必要があった)。
○中国本土で設立した銀行に対して、広東省の支店に配分する最低営業資本金額に関する制限が撤廃される。
○香港の銀行が広東省で設立した銀行と中国本土商業銀行の業務範囲が統一される。

(2)法律事務所
○香港の法律事務所が、広東省の前海、南沙、横琴で本土の法律事務所と合弁会社を設立することを認める。

(3)娯楽施設
○香港企業が広東省の指定された場所に単独で娯楽施設(アミューズメントパークなど)を設立することを認める。

<自由貿易拠点としての優位性の強化>
本協定について、香港政府トップの梁振英(C・Y・リョン)行政長官は「サービス業は香港のGDPの9割以上を占めるため、本協定は香港の経済発展にとって非常に重要」と述べている。また、香港政府の曽俊華(ジョン・ツァン)財政長官は「本協定を通じて、香港・広東省間のサービス貿易を促進するとともに、互いにサービス業の競争力を高めていく。本協定は、2015年内に香港・中国本土間の全面的なサービス貿易の自由化を実現するためのモデルだ」と話している。

(注1)WTOの定める「サービス貿易の4態様」とは、「国境を越える取引」(外国のカタログ通販を利用する場合など)、「海外における消費」(外国で航空機などの修理を行う場合など)、「業務上の拠点を通じてのサービス提供」(海外現地法人が提供する流通運輸サービス、海外支店を通じた金融サービスなど)、「自然人の移動によるサービス提供」〔招聘(しょうへい)した外国人アーティストによる娯楽サービスなど〕を指す。
(注2)ポジティブリスト方式とは、営業できる条件の限定列挙方式の規制。一方、ネガティブリスト方式は、「できない条件に当てはまらない限り、全ての香港企業は中国本土で営業してよい」といった規制であり、一般的にポジティブリスト方式よりも規制の垣根が低いとされる。

(和瀬幸太郎、メーガン・クォック)

(香港)

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