日本製継ぎ目なし鋼管に対するAD税の期間延長審査を開始

(メキシコ)

米州課

2015年11月13日

 経済省は11月6日、連邦官報において日本製の継ぎ目なし鋼管に課されているアンチダンピング(AD)税の適用期間の延長審査を開始することを公示した。日本製の継ぎ目なし鋼管には99.9%のAD税が課されており、同AD税の撤廃を望む事業者(日本の輸出者、メキシコの輸入者など)は28営業日以内に経済省に必要な情報を提供する必要がある。

<国内唯一の生産者が審査開始を要請>

 日本製継ぎ目なし鋼管に対するAD税は20001111日に適用が開始され、過去2回適用期限が延長され、20151111日に適用が終わる予定だった。WTOAD協定およびメキシコの貿易法に基づき、2015102日にベラクルス州にある継ぎ目なし鋼管製造大手のタムサ(TAMSA)がAD税適用延長審査の開始を要請、これに基づくかたちで116日、延長審査の開始が公告された。タムサは国内唯一の継ぎ目なし鋼管の生産者で、イタリア・アルゼンチン系鋼管大手テナリスの傘下にある。

 

 AD税の対象となっている継ぎ目なし鋼管は、メキシコ側のHS8桁で
7304.11.017304.11.027304.11.037304.11.997304.19.017304.19.027304.19.037304.19.99
7304.39.057304.39.067304.39.077304.39.997304.59.067304.59.077304.59.087304.59.99に分類されるもの。継ぎ目なし鋼管は、石油・ガス開発用の油井管や石油・ガス・液体資源の輸送用のラインパイプ(油送管)として用いられる。

 

 2000年に最初にAD調査が開始された際の申請者もタムサで、1998年の日本製継ぎ目なし鋼管の不当廉売により国内産業が打撃を受けた、と主張した。当時、日本から継ぎ目なし鋼管を輸入していた主な輸入者は、ヌエボレオン州のカデレイタ製油所の改修を石油公社(PEMEX)から受託したコンソーシアムのCONPROCA(韓国のSKエンジニアリングとドイツのシーメンスが形成)であり、同鋼管は主に製油所の改修工事に用いられた。

 

 1996年以降の日本からの継ぎ目なし鋼管(AD税対象)の輸入量をみると、年によってばらつきがみられるものの、米国やアルゼンチン、近年の中国やインドからの輸入量と比べると特に多いわけではない(表1参照)。また、ラインパイプの輸入平均価格をみると、日本製は1998年と2003年に1トン当たりそれぞれ659ドル、319ドルとなり、全世界平均の820ドル、957ドルを下回ったが、それ以外の年は全世界平均よりもはるかに高く、中期的にみて日本製が極端に低い価格で輸入されているわけではない(図1参照)。従って、カデレイタ製油所やミナティトラン製油所(20032011年に近代化工事を実施)などの改修工事が行われるタイミングで一時的に輸入量が増え、価格が重視される公共入札に呼応して販売価格が下がっているものとみられる。

<過去2回の延長審査に日本側関係者は参加せず>

 AD税の適用期間は原則5年だが、日本製継ぎ目なし鋼管に対するAD税は過去2回、タムサの申請により延長されている。官報に公示された過去2回のAD税延長決定公告(経済省決議)によると、20052006年、20102012年に行われた期間延長審査においては、経済省の呼び掛けにもかかわらず、日本側の利害関係者の参加が全くなかった。従って、タムサが提出した情報と主張を基に経済省がAD税の適用延長を決めたという。

 

 WTOAD協定の第6.8条は、利害関係を有する者が妥当な期間内に必要な情報の入手を許さず、もしくは提供しない場合には、「知ることができた事実(facts available)」に基づいて決定を行うことができると規定している。経済省は同条に基づき、タムサが提供した情報(facts available)を独自で調査した情報で補足し、99.9%という高率のダンピングマージン(輸出国における国内販売価格と輸出価格との差額)を計算した上でAD税の延長を決めている。2回目の延長審査の対象期間である2010年には、日本製継ぎ目なし鋼管の輸入量は中国や米国と比べるとかなり少なかったにもかかわらず、AD税撤廃による国内産業への打撃については、日本の輸出供給能力やメキシコ鉄鋼メーカーの生産コストと日本の輸出価格との差額から、AD税がなければ日本からの鋼管輸入が増えるだろうと経済省は結論付けている(2012420日付官報公示経済省決議)。

 

<利害関係者の情報提出期限は1217日>

 今回の延長審査においても、日本側の利害関係者の参加と裏付け情報の提供がない場合、タムサの主張に沿った決定がなされる可能性があるため、利害関係者は何らかのかたちで審査に協力する必要があるだろう。日本メキシコ経済連携協定(日墨EPA)に基づき、日本製鋼管の関税率は全て0%となっているため、AD税が撤廃されれば税負担が大きく軽減される。

 

 貿易法第89Fに基づき、AD税の延長審査において利害関係者が自らの見解や根拠となる情報を経済省に提出する期限は、延長審査開始が官報で公示された翌日から28営業日以内(1217日まで)となっている。同条はまた、経済省が審査開始後100営業日後に、その時点で認識している利害関係者に対して2度目の意見提出の機会を与えることを定めているが、現時点で経済省が利害関係者として認識しているのは、タムサと在メキシコ日本大使館のみだ(116日付官報公示経済省決議の18)。従って、AD税により大きな不利益を被っている事業者があれば、経済省からの通知を待つことなく、審査に積極的に関与することが求められるだろう。

 

<鉄鋼関連を中心にAD税適用が増加>

 ここ数年の世界的な鉄鋼の供給過剰により、メキシコへの廉価な鉄鋼輸入が増えているため、2014年以降、鉄鋼関連を中心に政府によるAD調査も増加傾向にある20141225日記事参照)2015114日時点でAD税の適用数は64件となっており、分野別には汎用金属・同製品(鉄鋼および同製品が大半)が36件と半数以上を占める(図2参照)。原産国別では中国が27件と圧倒的に多く、米国(8件)、ブラジル、ロシア、インド、ウクライナが各4件などと続く(図3参照)。ちなみに日本は継ぎ目無し鋼管の1件のみだ。

 2015年に新たに適用されたAD税をみても、鉄鋼および同製品が9件と多く、自動車産業向けを中心に日本製の輸入が比較的多い熱延鋼板(対象はドイツ、中国、イタリア製)も対象になっている(表2参照)。今後、日本製の熱延鋼板が調査対象となる可能性も否定できないため、AD調査の動向には注意が必要だ。

(中畑貴雄)

(メキシコ)

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