排他的な動きと批判、中国との協力を深化との見方-TPP大筋合意で政府や専門家-

(ロシア)

欧州ロシアCIS課

2015年10月15日

 環太平洋パートナーシップ(TPP)の大筋合意について、プーチン大統領はじめロシア政府関係者は排他的な動向と批判的にコメントした。ロシアへの影響について専門家は、TPPは大きな脅威にはならず、ロシアはユーラシア経済連合(EEU)を軸に、同じくTPPに参加していない中国との協力を深めていくとの見方を示した。

<内輪での取り決めと批判>

 105日のTPP大筋合意(2015年10月6日記事参照)に先駆けて、プーチン大統領は928日の国連総会演説で警鐘を鳴らしていた。大統領はTPPを名指しにはしなかったものの、「経済的な身勝手さ」の兆候があるとし、「交渉参加国の国民や企業、影響を受ける恐れのある他の国々には何も知らせずに、少数で特権的に利益を確保する新しいゲームのルールを作ろうとしている」と批判した。

 

 大統領は、排他的な政策ではなく、地域の経済統合体同士が連携する「統合の統合」を支持するとし、EEUと中国が提唱する「シルクロード経済ベルト構想」が相互に連携する計画を示し、さらに「EEUEUの統合プロセスを調和させることに大きな可能性も見いだしている」とも述べた。

 

 TPP大筋合意を受け、政府関係者からは大統領の国連演説に沿った懸念を示す発言が相次ぎ、TPP参加への関心は示されなかった。

 

 アレクセイ・ウリュカエフ経済発展相は、「(EEUWTOに)どのような影響をもたらすか述べるのは時期尚早」としながらも、「内輪での取り決めへと分かれていくことで、世界的な通商問題を根本的に誤った方向に導くのではないかと考える」と述べ、今後も注視していく意向を示した(ノーボスチ通信106日)。

 

 大統領府のドミトリー・ペスコフ報道官も、「ロシアの国益に適合するか入念に分析する必要がある」と述べた。TPPについて、一般論では「地域協力の一形態として、経済発展の環境を整備し、雇用を生み出すなど、確かに歓迎されることだろう」としたものの、大統領府としては、「プーチン大統領が国連総会での演説で、排他的な経済組織の設立がWTOや国際的な通商ルールに取って代わることになるのでは、と憂慮の声を上げている」と指摘した(ノーボスチ通信106日)。

 

<アジアでは中国と協力を推進>

 当地の報道では、米国のオバマ大統領の発言を紹介するなどして、TPPは中国によるアジア太平洋地域の国々の取り込みに対抗するもので、米国が中国に先駆けて通商ルールを形成する意図がある、などと伝えている。

 

 TPPによるロシアへの影響について専門家は、EEUを通じて周辺諸国との経済統合を目指すロシアはTPPと一線を画しており、TPPはロシアにとって脅威にはならないとの見方をしている。そして、アジア太平洋地域でロシアは、同じくTPP交渉に参加していない中国との協力を推進していくと考えている。

 

 グローバル化・社会動向研究所のワシリー・コルタショフ経済研究センター長は週刊紙「論拠と事実」(106日)のインタビューで、なぜTPPがロシアに扉を閉ざしているのかという問いに対し、「驚くほどのことではない」とし、その理由として、「米国がアジア太平洋地域でロシアを必要としていないからだ」と述べた上で、「米国政府は、ロシアによるEEUを通じた統合推進を、国境を越えた不遜な行為として捉えており、TPPに対する挑戦ともみているが、アジア太平洋地域でロシアを大きな脅威とみていない」と分析した。

 

 また、ロシア科学アカデミー東洋学研究所韓国・モンゴル課のアレクサンドル・ボロンツォフ課長も、「ロシアは(TPPよりも)中国のイニシアチブ(シルクロード経済ベルト構想)に密接に関係しており、協力する用意がある。既に中国とEEUとで戦略的対話に取り組む決定もされている。TPPがアジア太平洋地域におけるロシアの国益を脅かすことはないだろう」と述べた(「フズグリャド」紙105日)。

 

 一方、TPPが中国およびアジア太平洋地域に影響を及ぼすとの専門家の指摘もある。元駐日ロシア大使で、モスクワ国立国際関係大学のアレクサンドル・パノフ外交学部長は、「中国も独自の自由貿易圏を形成しようとしており、2つの経済連携が生まれて競合するおそれがある」と指摘し、このような状況は「地域が経済ブロックに分裂する第1段階となる」との見方を示した(「フズグリャド」紙105日)。

 

(浅元薫哉)

(ロシア)

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