TPP交渉が大筋合意-高度で包括的な自由化や貿易ルールを取り決め-

(日本、シンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイ、米国、オーストラリア、ペルー、ベトナム、マレーシア、メキシコ、カナダ)

国際経済課

2015年10月06日

 環太平洋パートナーシップ(TPP)交渉が大筋合意に達した。TPP締約国は発効を目指してそれぞれ国内手続きに入る。発効すれば、高度で包括的な自由化や貿易・投資ルールがアジア太平洋諸国に広がることになる。日本をはじめ締約国が発表し始めた概要に基づき、日本企業にとって特に関心が高い分野について概説する。

<日本の工業品輸出を後押し>

 内閣官によると、TPPは計30章から構成される。このうち、第2章の「内国民待遇及び物品の市場アクセス」は加盟国の関税撤廃ルールを規定している。具体的な関税撤廃のスケジュールは公表されていないが、日本は工業製品について大幅な市場アクセスの改善を獲得したもようだ。

 

 日本を除く11ヵ国は、品目ベース・輸出額ベースともに11ヵ国で99.9%に当たる工業製品の品目を無税化する。締約国のうち、日本と経済連携協定(EPA)を結んでいない米国、カナダ、ニュージーランドは、日本製品の輸入に対して発効直後に工業製品の無税品目の割合をそれぞれ39%から67%、47%から68%、79%から98%に引き上げる。米国は、日本の主力輸出品である家電、産業用機械、化学に対して輸出額ベースの99%以上に当たる品目について発効後に関税を即時撤廃する。他方、日本からの乗用車輸入に対しては、現在2.5%の乗用車関税を発効後15年目から削減し始め、20年目で半減、25年目で撤廃することとなった。

 

 日本の牛肉、コメ、水産物、茶など輸出拡大の重点品目も関税撤廃の対象となる。例えば米国向け牛肉は、発効後15年目に関税が撤廃されるまでの間、現行の米国向け輸出実績を大幅に上回る数量が無税枠の対象となる。日本産酒類については全締約国が関税を撤廃する見通しだ。

 

 原産地規則(第3章)では完全累積制度が導入された。TPP締約国で関税削減・撤廃の対象となるためにはTPPで規定された原産地規則を満たし、TPP域内で製造したというTPP原産に認められる必要がある。完全累積制度とは、域内のサプライチェーンを考慮に入れ、TPP締約国のある原材料をいずれか他の締約国において完成品の製造過程で使用する場合、この原材料を締約国の原産と見なす規定のこと。例えば日本産の高付加価値部材をメキシコでの製造に使用し、最終的に完成した製品をTPP原産として米国やカナダ向けに免税で輸出することが可能となる。これにより、TPP域内全体でのサプライチェーンを活用した利用が可能となる。

 

<高度な貿易・投資ルールを導入>

 物品貿易以外でも高度かつ新たな貿易・投資ルールが導入された。投資(第9章)では、TPP締約国の投資家・企業が他の締約国に投資財産を設立する段階あるいは設立後において、内国民待遇・最恵国待遇を受けられるようになる。また、締約国は投資家に対してローカルコンテンツ要求、技術移転要求、ロイヤルティー規制、特定技術使用要求などを課すことが禁止される。投資家・企業と国家との間の紛争解決手続き(ISDS)も規定した。投資受け入れ国との間で問題が生じ、友好的な協議や交渉がうまくいかない場合、投資家・企業は投資紛争解決国際センター(ICSID)などの国際仲裁機関に申し立てをする権利が与えられる。

 

 政府調達(第15章)では、特定の調達機関が基準額以上の物品およびサービスを調達する際のルールを規定した。入札における無差別待遇、公正性や公平性、発効後でも適用範囲(地方政府を含む)のさらなる拡大のための交渉について規定している。TPP締約国のうち、日本、米国、カナダ、シンガポール以外の8ヵ国は、WTOの政府調達協定(GPA)に参加していない。また、マレーシア、ベトナム、ブルネイの3ヵ国は日本とのEPAGPA水準の政府調達規定を約束していないが、TPPの第15章により、これら締約国の政府調達市場のアクセスが改善されることになる。

 

 国有企業および指定独占企業(第17章)は、締約国の企業が他の締約国の国有企業と対等な競争条件で事業を行うことができる基盤を確保する。例えば国有企業などが物品・サービスの売買を行う際に、商業的考慮に従い行動すること、他の締約国の企業に対して無差別待遇を確保することなどが義務付けられた。ただし、締約国は特定の規律を自国の特定の国有企業や特定の活動について適用しないことを付属書で留保している。

 

 知的財産(第18章)では、WTOの「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS)」の規定を上回る水準の保護や知的財産権の行使を規定した。具体的には著作権の保護期間、新薬のデータ保護期間に係るルールの構築、商標権取得の円滑化や不正使用の法定損害賠償制度の設置、特許期間延長制度の導入、オンラインの著作権侵害対策の強化などが含まれる。

 

(水野亮)

(日本、シンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイ、米国、オーストラリア、ペルー、ベトナム、マレーシア、メキシコ、カナダ)

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