改正雇用法が成立、給与明細と雇用条件書の発行を義務化
(シンガポール)
シンガポール事務所
2015年09月07日
給与明細と雇用条件書の発行を雇用主に対して義務付けることなどを定めた改正雇用法が8月17日、国会で可決・成立した。今回の改正では、雇用主に新たな義務が課される一方、法の柔軟な適用や猶予期間の設定など、中小企業主に対する一定の配慮もみられる。施行は2016年4月1日から。
<施行は2016年4月1日から>
今回の改正で雇用主は、雇用法が適用される全ての従業員(注)に対して、表1の項目を明記した給与明細を発行する義務を負う。電子媒体、紙媒体のいずれの方法でも構わないが、少なくとも月1回、原則として給与の支払いと同時に発行しなければならない。
また、雇用主は給与明細の発行記録を保管する義務も負う。雇用中の従業員については直近の2年間分の記録を保管しなければならず、過去に雇用していた者についても離職直前2年間分の記録を離職後1年間は保管しなければならない。
<全従業員に共通する雇用条件はネット掲載も可>
雇用条件書の発行も今回の改正で新たに義務付けられる。雇用主は、以下の要件を満たす従業員に対して、表2の項目を記載した雇用条件書を雇用開始日から14日以内に発行しなければならない。
(1)2016年4月1日以降に新たに雇用される者であること
(2)雇用法の適用対象であること
(3)連続して14日間以上雇用される者であること
発行方法は、給与明細と同様に電子媒体、紙媒体のいずれの方法でもよい。また、どの従業員にも共通する内容については、社内のイントラネットへの掲載やハンドブックの配布に代えることができる。
<中小企業の雇用主に一定の配慮も>
改正について、リム・スイセイ人材相は「(給与明細と雇用条件書の発行義務化により)労働者は自身の給与や労働条件に対する理解を深めることができる。一方、雇用主は従業員との意見の相違を防ぎ、争いを最小限にすることができる。つまり両者にとってより好ましいことだ」と述べている。
給与明細の発行義務化については、前回(2013年11月)の改正時に事務作業の負担増を懸念した中小企業主からの強い反対があり、導入が見送られた経緯がある(2013年11月26日記事参照)。今回の改正に当たって、人材省は2014年4月に「2016年までに給与明細の発行が義務化される」と事前発表を行ったほか、人材省のウェブサイトに給与明細や雇用条件書の様式のひな型を掲載するなど、中小企業主に対して一定の配慮を行い、改正内容をスムーズに導入できるような取り組みを行っている。
さらに、中小企業主からの意見を踏まえ、人材省は今回の改正内容の適用に関して、施行日から2017年3月末までの1年間を「猶予期間」とし、改正内容を順守するよう雇用主に啓発していくとの方針を示した。
<軽微な違反に対しては「行政罰」を導入>
なお、改正に合わせて、一部の雇用法の違反に対しては刑事罰より緩やかな「行政罰」の枠組みがつくられた。改正前は、雇用法の違反の全てに対して刑事罰が科されていた。今回の改正の結果、給与明細や雇用条件書の不発行などといった軽微な違反については、100~200シンガポール・ドル(約8,400~1万6,800円、Sドル、1Sドル=約84円)の過料が科され、「権限を与えられた職員」による是正指導がなされる程度で、刑事罰は科されない(犯罪歴が記録されない)こととなった。
(注)給与が月額4,500Sドルを超えず、家事使用人、公務員または船員でない者は、おおむね雇用法が適用される従業員。
(阿部直樹)
(シンガポール)
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