通貨テンゲを完全変動相場制に移行

(カザフスタン)

タシケント事務所

2015年09月07日

 カザフスタンは通貨テンゲを完全変動相場制に移行した。ロシア通貨ルーブルや中国の人民元の切り下げ、原油価格の下落が背景にある。中央アジアの資源国カザフスタンが国民の自国通貨への信頼が取り戻せるか、金融当局のかじ取りが注目される。

<人民元の切り下げなどが引き金に>

 カザフスタン政府と中央銀行は820日、完全変動相場制への移行を発表した。同日、テンゲの対ドルレートは前日比26%安の1ドル=255.26テンゲとなった。モスクワ国際関係大学分析センター所長のアンドレイ・カザンツェフ博士は「ロシアと中国という主要貿易相手国の通貨が切り下がれば、カザフスタンにはもはや(切り下げ以外の)選択肢はなかった。世界的な資源価格の下落も追い打ちをかけた」(「カピタル.KZ821日)とし、中国人民元の事実上の切り下げなどが引き金となったことを示唆した。

 

 中銀は20139月、テンゲのドルとユーロ、ルーブルからなる通貨バスケットによる管理変動相場制に移行し、20142月には19%の切り下げを実施した(2014年2月13日記事参照)20154月の前倒し大統領選を経て、再切り下げがうわさされてきたが、20149月の1ドル=170188テンゲへの変動幅拡大に次ぎ、20157月には170198テンゲまで下限を引き下げていた。

 

 カイラト・カリムベトフ中銀総裁は移行に当たり、「相場は市場の需要によって決まり、中銀は介在しない。ただし、金融の安定性が危ぶまれる場合は為替介入の可能性はある」と発言、金融当局としての配慮をにじませた。820日付インターファクス通信は、ナザルバエフ大統領のコメントとして、20142015年にテンゲの買い支えのため280億ドルを費やした、と報じた。

 

<日系プロジェクト案件に遅延の可能性も>

 三菱東京UFJ銀行アルマティ駐在員事務所の郡嶋哲郎所長は「足元、投資家にとっては厳しい状況だ。急激なテンゲ安は出資金の為替差損を発生させる。他方、完全変動相場制導入はマクロ経済政策上、中長期的にはプラスに働く。外貨準備を使って買い支えることで、テンゲは長らく過大評価されていた。短期的には輸入品をはじめとする物価上昇や国民の購買力の低下を招き、カザフ経済に一定の悪化をもたらす可能性がある」と述べた。また、「結果として、3割前後の下げとなったが、完全変動相場制が導入されたことがポイントで、適正な相場水準は幾らかという問いには『これから市場が探ってゆく段階』と答えるしかない。テンゲに対する国民の信頼を取り戻せるかについては、これからだ」と語った(827日)。

 

 在カザフスタン日系商社の所長は「新規プロジェクトが遅れる可能性がある。客先は機材を外貨建てで購入するので、テンゲ安により一定の影響が見込まれる。また、プロジェクトの承認はテンゲ建てベースで行われているので、承認の見直しなどにより、遅延が生じる可能性もあるだろう」と述べた(827日)。

 

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