2015年GDP成長率予測を0.8％に下方修正－フラン高で輸出停滞、消費者物価も下落－

＜フランの上限撤廃が影響＞

　2011年9月から実施していたスイス国立銀行による対ユーロ1.20フランを上限とする無制限介入策の即時撤廃（2015年1月15日）は、スイス経済に大きな波紋を投じた（2015年4月3日記事参照）。対ユーロレートをみると、2014年が年平均1.2146フランだったのに対し、2015年1月から5月までの平均は1.0599フランとなり、フランはユーロに対して13％近く高騰している。その結果、2015年第1四半期は、財貨・サービスの輸出減および輸入増となり貿易バランスにネガティブな影響が及び、GDP成長率が前期比マイナス0.2％、また前年同期比ではマイナス1.1％増と減速した（2015年7月2日記事参照）。減速は、フラン高に加え、従来は景気や通貨レートに左右されず輸出を伸ばしていた化学・医薬品分野が第1四半期に3％減となったこと、レートの変動とは直接関係がない建設投資が停滞していることなどが理由だ。

　これらを受けてSECOは、2015年のGDP成長率予測を0.8％とし、前回発表（2015年3月）の0.9％から0.1ポイント下方修正した（表参照）。一方、SECOは堅調な内需の継続、米国など世界経済の回復を前提として、フラン高によってスイス経済が大きく後退することはないとみており、2016年のGDP成長率を1.6％（前回発表は1.8％）とし、徐々に景気が上向いていくと予測している。

　2015年第1四半期は、フラン高により、消費者物価、生産価格、輸入価格、輸出価格が同時に下がった。SECOは消費者物価指数上昇率について前回発表と同様、2015年マイナス1.0％、2016年0.3％と見込んでいる。また、輸出価格の下落は、フラン高による商品の競争力低下を最小限に抑えるため、財貨・サービスを輸出する企業がやむを得ずマージンを削って価格を下げたことによる、としている。輸出中心の産業など、今後も不透明感を残す分野があり、失業率は2015年が3.3％、2016年は3.5％と予測した。

＜ギリシャ問題や「大量移民制限」などがリスク要因＞

　SECOは、今後のリスク要因として、ギリシャの債務問題解決の行方、近年スイスの輸出先としてウエートが置かれていたロシアの経済後退、アジア新興国の景気停滞などを挙げ、経済成長率をさらに下方修正する可能性を示唆した。また、2014年2月の国民投票で可決、成立した「大量移民制限」（2014年2月12日記事参照）がスイスとEUの関係を不安定にしていることにも言及し、新たな通貨政策（マイナス金利など）と相まって、スイスへの投資環境が悪化していく懸念を示した。

　SECOと前後して、各経済観測機関が独自の景気予測を発表した。ローザンヌ大学マクロ経済研究所（CREA）は5月31日、2015年GDP成長率を0.8％、2016年を1.5％とし、SECOとほぼ同様の見込みを示したが、スイス連邦工科大学チューリヒ校経済研究所（KOF）はそれぞれ0.4％、1.3％とやや厳しい見方だ（2015年6月12日発表）。KOFはユーロに対するフラン高について、アジアや北米に輸出する企業への影響は少ないものの、欧州向け輸出を中心とする企業はマージン縮小を余儀なくされるとし、雇用削減やスイス国内から国外への製造拠点移転の事例を挙げて、輸出回復の困難さを指摘した。

＜預金のマイナス金利を維持＞

　スイス国立銀行は6月18日に発表した経済状況評価で、政策金利（3ヵ月物ロンドン銀行間取引金利、LIBOR）の目標をマイナス1.25～マイナス0.25％に据え置くとした。預金金利についても、過去最低のマイナス0.75％を維持した。マイナス金利により、フランでの投資が魅力を失えば、過大評価されているフランがいずれ軟化するとの見解だ。また、フランが及ぼす景気やデフレの状況を照らし合わせて、必要であればスイス国立銀行が為替市場に介入する用意があることをあらためて表明した。なお、インフレ見通しについては、2015年がマイナス1.0％、2016年がマイナス0.4％と予測。2017年以降に、プラスに転化するとみている。

（ブリショー雅子）