厚板セーフガード税率、1年目は17.4%-日本企業への影響は軽微か-

(マレーシア)

クアラルンプール事務所

2015年07月17日

 マレーシア国際貿易産業省(MITI)は7月1日、熱間圧延鋼板(HPR)の輸入に、7月2日から2018年7月1日までの3年間、セーフガード関税を賦課すると発表した。税率は1年目が17.4%に設定され、2年目、3年目はそれぞれ13.9%、10.4%に軽減される。今回の最終決定では、マレーシア日本人商工会議所(JACTIM)がマレーシア政府に適用除外を要望した品目が対象外となるなど、日本企業への影響は深刻ではないとみられる。

<対象はHSコード上で3品目>

 マレーシア政府は201572日から201871日までの3年間、特定国からのHPRの輸入に暫定的にセーフガード関税を課す。税率は段階的に引き下げられる。当初17.4%の税率が201672日からの1年間は13.9%に軽減され、その後はさらに10.4%に引き下げられる(表参照)。HPRの輸入者は、当該適用期間における税率を物品・サービス税(GST)と合わせて税関に納付することになる。

 具体的にセーフガードが適用されるHPRは、HSコード7208.51.0007208.52.0007225.40.000ASEAN域内の場合は、AHTN7208.51.00007208.52.00007225.40.9000)の3品目。これら3品目においても、セーフガードの対象は用途が建設や産業機械などに使用される品目に限定され、規格やグレードによっては対象外品目もある(2015年税関通達:セーフガード税率に関する最終決定参照)。対象国は日本を含め、中国、韓国など42ヵ国となっている。なお、マレーシアセーフガード法によると、仮決定では対象だったが、最終決定で除外された品目は適用外となり保証金が返還される。一方、仮決定、最終決定とも対象となった品目については、暫定税率(23.93%)と1年目の税率(17.4%)の調整がなされないため、差額は返金されず、最終決定後も暫定税率が適用される。

 

<輸入品が国内生産量を上回る>

 セーフガード発動の発端は、地場鉄鋼のジ・カン・ディメンシー(Ji Kang Dimensi)の提訴を受けて、MITI20148月に、熱延鋼板(厚板)に対するセーフガード調査の開始を決定したことに始まる。同年1211日に、政府は調査を継続しつつも1214日から201571日までの間、中国や韓国、日本を含めた42ヵ国を対象として、措置対象の熱延フラットロール製品(対象となるマレーシア輸入HSコードは上記と同様)に対して、暫定セーフガード税率23.93%を適用することを決定した(2014年12月26日記事参照)

 

 マレーシア政府は調査の結果、201111日から20131231日までの調査期間中にセーフガード対象品目の輸入が急増した、と主張している。外国製品の流入が国内鉄鋼業のシェアを低下させ、販売の減少や財務状態の悪化につながったことが今回措置を導入した背景にある、としている。輸入量は2011年に138,429トンだったのが、2013年には82.9%増の253,201トンに増加した。また、国内生産量に対する輸入品の割合は同期間内に88%から162%に拡大した。

 

<日本メーカーの要望の大半受け入れ>

 マレーシアが輸入する該当品目の日本のシェアは、例えばHSコード7208.51.000の場合、39.4%と4割近くに及ぶ。しかし、HSコード72(鉄鋼)の対日輸入からみた当該品目の割合は3.6%にとどまる。さらに、該当HSコード3品目全てにセーフガード税率が課されるわけではなく、対象規格・グレードから外れるものは対象外となっている。従って、日本からマレーシアへの輸出には実際に大きな影響は及ばないとみられる。

 

 政府のセーフガード税率設定について、JACTIM20149月に「マレーシア鋼板厚板セーフガード調査開始に対する意見書」をマレーシア政府に提出し、直接関係のある産業界や取り扱い商材への影響だけでなく、マレーシア経済に与える影響にも懸念を抱いている、と伝えた。また、20151月に提出した「マレーシア鋼板厚板セーフガード調査の仮決定に対する追加意見書」では、暫定税率23.93%が需要産業に与える影響への懸念を伝え、日本から輸入され、マレーシア国内では製造困難な厚板の除外を要望した。今回の最終決定では、JACTIMが適用除外対象に要望した特定用途・耐摩耗鋼は対象から外れるとともに、日本の製鋼メーカーが追加で適用除外要望を行った厚板製品の大半が対象外となっていることを受けて、関連企業は本措置に一定の評価を示している。

 

 経済紙「マレーシアン・リザーブ」(71日)は、自動車や電気・電子といった高付加価値製品の生産者は日本や韓国から輸入しているHRPを部材に使用しているので、産業界に大きな影響は及ぼさないだろう、と論評した。さらに同紙は、それ以外の普通のHRPを生産する企業にとって、今回のセーフガード措置は競合する中国製品の流入削減に資することで朗報になる、とのマレーシア鉄鋼連盟(MISIF)のソー・ティアンライ会長のコメントを紹介している。

 

(新田浩之)

 

(マレーシア)

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