外国人の幹部・専門職就労許可証、発給要件を厳格化-政府、地元中高年人材の登用を促す狙い-

(シンガポール)

シンガポール事務所

2015年07月23日

 政府は10月1日から、幹部・専門職の外国人就労許可証「エンプロイメント・パス(EP)」の発給要件を厳格化する。EP申請前の地元人材向け求人バンクへの広告に給与の記載を義務付けるほか、幹部・専門職への地元人材の登用が少ない企業へのEP審査を強化する。一方、6ヵ月以上求職活動をしている40歳以上の地元人材を幹部・専門職として雇用した企業には、最大で月給の4割を助成するなど、地元の中高年の登用に向けた支援を増やす。

<地元人材向け求人広告に給与の記載を義務付け>

 人材省は78日、外国人の幹部・専門職向けEPの発給要件を厳格化する一方、地元の中高年人材の幹部・専門職への登用を雇用主に促す支援策を発表した。まず101日から、EP申請前に掲載を義務付けている求人バへの地元人材向け求人広告に、新たに給与の記載を義務付け、記載がない場合はEPの申請を却下する。同省は201481日から、企業がEPを申請する前に求人バンクへの求人広告の掲載(14暦日以上)を義務付け、給与の記載を求めていたが、徹底されていなかった(注)。今回の給与記載の義務化について同省は「シンガポール人の求職者に対し就労条件を明確化するため」と説明している。

 

 また人材省は、幹部・専門職への地元人材の登用が少ないと判断した企業について、EP審査を厳格化する。同省は2014年から、幹部・専門職への地元人材の登用が業界平均と比べて極端に少ない企業や国籍差別に関する苦情が多い企業に対し、(1)国籍情報を含む組織図、(2)人材採用方法、(3)従業員の苦情処理方法、(4)従業員の昇進計画、(5)地元人材登用計画または外国人EP保持者への依存削減計画、の提出を求めているが、追加措置として101日から、EP申請時に、(1)求人バンクに掲載した求人広告に応募したシンガポール国民の人数、(2)応募した国民の面接実施の有無、(3)幹部・専門職における国民の比率、の情報提出を義務付けることにした。リム・スイセイ人材相によると現在、同省が幹部・専門職の国民登用が少ないと特定した企業は、ITや金融、コンサルタント、サービス業界の約150社に上るという(「ビジネス・タイムズ」紙79日)。

 

 このほか、同省は現在、EP申請時に虚偽の卒業証書などで学歴を詐称した外国人についてシンガポールでの就労を禁止しているが、今回の追加措置として、疑わしい教育機関で学位を取得した者についても申請却下の対象とするとともに、特に専門職種については申請者の経験内容をこれまでよりも重視する方針を示した。

 

 政府は、管理・専門職種の外国人にEP〔基本月給3,300シンガポール・ドル(約30万円、Sドル、1Sドル=約91円)以上〕、中技能向けに「Sパス(2,200Sドル以上)」、建設労働者や工場労働者など低技能向けに「ワーク・パミット(WP)」など、外国人の技能や学歴、就労経験、賃金に応じて異なる種類の就労許可証を発給している。EPには1社当たり雇用できる人数に上限がなく、SパスやWPと異なり雇用主に外国人雇用税が課されていない。

 

 シンガポールの外国人就労者は201412月末時点で1355,700人(うちEP保持者は178,900人)と、労働人口の3割以上を占める。政府は2010年以降、国民の労働生産性の向上を促すために、それまでの外国人労働者の積極的な受け入れから抑制へと方針を転換した。さらに、外国人労働者問題が争点の1つとなった前回20115月の総選挙以降は外国人の雇用規制を一段と強化しており、20148月からのEP申請時の求人広告掲載義務など、近年では規制の焦点がEPに移っている(2014年9月8事参照)

 

<地元中高年人材を登用した企業に給与の最大4割を補助>

 一方、人材省は101日から2年間、地元の中高年人材の幹部・専門職への登用を促す新たな支援策「キャリア・サポート・プログラム(CSP)」を試験的に実施する。同プログラムは、6ヵ月以上求職活動を行っている40歳以上の地元人材を幹部・専門職(月給4,000Sドル以上)に採用した企業に、その給与の一部を1年間にわたり支援するというもの(表参照)。同プログラムに基づく政府の支援額は、1人当たり最大25,200Sドル。給与補助の対象になるには、求職者が人材省管轄下の労働力開発庁(WDA)のキャリアセンターと組合系の雇用・能力開発所(e2i)に登録することが条件となる。

 またWDAは、就職先探しに苦慮する地元の中高年幹部・専門職について、民間の人材会社と協力して就労機会の拡大を図る。さらに、経済情勢の急速な変化に対応できるよう、政労使が協力して業界レベルで中高年の技術研修に取り組んでいく方針だ。このほか、人材省は2016年第1四半期に「労使紛争審判所(Employment Claims Tribunal)」を開設し、現在、雇用法の対象とならない月給4,500Sドル以上の幹部・専門職の給与をめぐる紛争について、速やかな法的解決手段が図れるようにする。

 

 人材省は「大卒者の増加により国民の学歴が向上していく中、幹部・専門職を目指す国民が増加し、労働力の中心を占めるようになる」と指摘。今回の一連の幹部・専門職への地元人材登用の支援策について、「幹部・専門職を求める国民と仕事とのミスマッチを最小限とし、最大限の就労機会を与えるのが狙いだ」と説明した。

 

(注)EP申請前の地元人材対象の求人広告掲載義務は、(1)従業員25人以下の企業、(2)基本月給が12,000Sドル以上、(3WTOのサービスの貿易に関する一般協定(GATS)で定義される企業内転勤者〔IntraCorporate TransfereesICT)〕、(4)短期(1ヵ月未満)就労者、については免除される。

 

本田智津絵

(シンガポール)

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