ウラジオストク自由港法案、7~8月にも成立の見込み-沿海地方政府関係者に聞く-

(ロシア)

欧州ロシアCIS課

2015年07月06日

 ロシア沿海地方のウラジオストク周辺地域などを特区化するウラジオストク自由港法案が下院で審議に入った。沿海地方の政府関係者らへのインタビュー(6月15日)によると、7~8月中の法案成立が見込まれている。現地では、外国人の入国ビザの緩和によって観光客増加の経済効果が期待されている。

<外国人の滞在期間を8日間に延長>

 201412月にプーチン大統領が、ウラジオストク港を自由港にする方針を明らかにしたのをきっかけに、自由港の制度に関して法案化が進み、3月にその内容が明らかになった(2015年4月24事参照)

 

 64日の連邦政府の閣議で法案が承認され、同16日に下院に提出された。同法案によると、自由港の対象地域として、ウラジオストク周辺および中国・北朝鮮と隣接する地域で計13の行政地区が指定されている。

 

 3月時点の法案では、対象地域内の空港や港からロシアに入国する外国人は、72時間以内の滞在であればビザが免除され、出国する場所は問われないとされていた。その後、滞在期間を7日間に延長した法案も出されたが、64日の閣議でメドベージェフ首相が、滞在期間をさらに延長して8日間にすることを明らかにした。ただし、ビザは免除ではなく、国境で発給することとした。

 

 この経緯について、地元の大手自動車販売企業テフノホールディング・スモトリ社長で、20152月に沿海地方知事顧問に就任したビタリー・ベルケエンコ氏(注)は、沿海地方政府による強い働き掛けの結果だと述べ、「72時間であれば、ウラジオストクと頻繁に航空便がないとメリットはない。8日間なら日曜日にロシアに入り、次の日曜日まで滞在できる」とメリットを強調した。ちなみに、ウラジオストクと日本の間には、成田空港発着の直行便が火曜、木曜、日曜の週3便運航されている。

 

<大統領主導の経済フォーラム開催>

 法案の成立時期の見込みについて、沿海地方投資誘致庁のエレーナ・ヤスケビッチ第1副長官は、夏季休暇が始まるまでの国会の春会期中に承認され、78月ごろに成立するのでは、と期待している。ベルケエンコ氏も同様の見方を示した上で、制度の導入時期については、ビザの緩和措置を91日から先行して導入し、その他の優遇措置については20161月から導入したい、と述べた。

 

 9月にビザを緩和する狙いは、935日にウラジオストクで東方経済フォーラムが開催されるためだ。同フォーラム開催はプーチン大統領の主導によるもので、国内外から多くの参加者を受け入れる予定だ。大統領は6月30日、同フォーラム参加者に対してビザなしでの出入国を認める大統領令(6月29日付大統領令第326号)を発表した。

 

 プーチン大統領は619日のサンクトペテルブルク経済フォーラムで、「自由港入居者はさまざまな多くの恩典を享受することができる。税優遇だけでなく、簡易ビザ制度、自由貿易地域、出入国手続きの簡素化も含まれる。9月にウラジオストクで開催される東方経済フォーラムで、外国投資家に対して詳細を提示する」と表明した。ベルケエンコ氏は、プーチン大統領は93日に中国を訪問した後、同フォーラムに参加するのではないか、と予想している。

 

<観光分野の経済効果に期待>

 ベルケエンコ氏が社長を務めるテフノホールディング・スモトリは、ウラジオストク空港付近のアルチョム市にサーキット場「プリムリング」を2011年に開設した。ベルケエンコ社長は、ビザ緩和措置の経済効果に大きな期待を寄せている。観光客が増加すれば観光バス、レンタカー、タクシーなどの自動車関連需要も高まると見込んでいるほか、「プリムリング」周辺の観光インフラ整備も視野に入れている。

 

 自由港法案とともに下院に提出された法案注釈書によると、自由港制度の導入に伴い、沿海地方で2021年までに84,700人、2034年までに468,500人の雇用が創出されると予測されている。域内総生産(GRP)は、2021年に11,060億ルーブル(約24,332億円、1ルーブル=約2.2円)、2034年には21,577億ルーブルになるとの予測で、2013年(5,7561,540万ルーブル)と比べると、それぞれ1.9倍、3.7倍となる。

 

(注)ベルケエンコ氏によると、同氏はミクルシェフスキー知事によって沿海地方政府に招かれた。同地方の投資誘致戦略を策定するため、同地方政府の経済発展戦略局が改組されて新たに発足する企画・戦略発展局長に就任する見込みだという。

 

(浅元薫哉)

(ロシア)

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