ウラジオストク自由港法案を公表
(ロシア)
モスクワ事務所
2015年04月24日
プーチン大統領が提案していた、ウラジオストク港を自由港とする法案が公表された(3月3日)。法案によると、自由港では自由貿易区域の設置や外国人の入国ビザ免除、優遇税制の適用などが掲げられている。しかし、自由港の導入については、連邦市民評議会から厳しい見方が示されている。
<プーチン大統領の演説が発端>
プーチン大統領は2014年12月の年次教書演説において、ウラジオストクにおける自由港の創設の可能性について触れ、それが自由港に関する議論を巻き起こした。議論は、関税の免除、港湾利用料の優遇、貿易手続きの簡素化といった内容をめぐるものだった。ウラジオストク港は、100年以上前の19世紀後半から20世紀初頭にかけて自由貿易港だったが、極東発展省は2015年2月末に以前の概念と異なる内容の法案を提出し、3月3日にその内容が公表された。主な内容は次のとおり。
○自由港の対象区域は、ウラジオストク市域に限らず、隣接する自治体の領域も含まれる。
○自由港内には、港湾型、産業型、科学型、観光型といった事業目的別の区域が設けられる。
○ウラジオストク港およびウラジオストク空港を経由して外国人が入国し、72時間以内の滞在の場合はビザ免除とする。
○優先的社会経済発展区域(TOR)と同様の企業に優遇税率を適用する(2015年4月14日記事参照)。
○自由貿易区域という形態を導入する(観光型区域を除く)。
<3月の議論では極端な提案も>
公表を受けて、地元当局の代表やビジネスパーソン、専門家の間で多くの議論が行われた。議論の中には、下記のような提案があった。
○ウラジオストク自由港の領域を、ナホトカ、ボストチヌィや中国、北朝鮮との国境ポイントを含む沿海地方南部の領域まで拡大する。
○外国人の入国ビザが免除される最長滞在期間を7日間まで延長する。
○自由港の対象区域に、特別な事業目的を導入しない。
○外国で発行された免許を基にした医療行為を承認し、外国の医療施設などを区域内に創設する。
○雇用主負担とされる従業員の社会保険料負担率を通常の30%から7.6%に軽減する。
○建設手続きを簡素化する。
○自由港領域内において英国法を適用する。
○輸送用機器を免税輸入する。
<大統領が最終決断>
政府活動や法案の内容を監視し、諮問するロシア連邦市民評議会は4月2日、いわゆる「ゼロ読会」(下院で審議される前の法案の予備審議)を開催し、自由港法案に厳しい見方を示した。自由港法案がTORに関する法律と内容が変わらないためだ(市民評議会はTORの法律も批判している)。また、「滞在7日間までの外国人入国ビザ免除」という提案に対しても、ウラジオストクの治安を悪化させかねないとしている。
同様に、本法案には財務省、経済発展省などの政府機関も批判的な見方をするとみられている。現在の税制、通関やその他のロシアの法制度から逸脱した内容になっているからだ。
しかし、ウラジオストク自由港をめぐる問題は、プーチン大統領が最終決断を行うことになるという政治的後ろ盾を得ている。4月3日にプーチン大統領は、極東発展問題に関する会合を開催した。会合には大統領のほか、ユーリ・トルトネフ副首相兼極東連邦管区大統領全権代表、アレクサンドル・ガルシカ極東発展相、アントン・シルアノフ財務相、アンドレイ・ベロウソフ大統領顧問(経済担当)が参加した。プーチン大統領は、下院の春季会期中での法律の採択を目指した法案策定作業の加速と、8月13~15日にウラジオストクで開催される予定の東部経済フォーラムでの発表を指示した。このフォーラムには、プーチン大統領の参加が見込まれている。
(タギール・フジヤトフ)
(ロシア)
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