食品や飲料品などのVAT税率を24%から9%に引き下げ-レストランやケータリングも対象に-

(ルーマニア)

ブカレスト事務所

2015年06月12日

 食品や飲料品(アルコールを除く)などにかかる付加価値税(VAT)の税率が6月1日、24%から9%に15ポイント軽減された。レストランやケータリングサービスも対象にし、税率を引き下げて納税しやすくなることで徴税率を上げる狙いがある。内需拡大を中心に国内経済にプラスに働くとみる向きが多いが、政府は税率引き下げによる税収減を補う代替策を講じていないため、財政面での課題が残る。

<食品加工のための食材なども軽減の対象>

 今回の食品などに対するVAT税率の引き下げは、414日付官報掲載の緊急政令2015年第6号に基づく。主な引き下げ対象は、食品・飲料品(アルコールを除く)、食品加工のための生きた動物・種・植物・原材料、レストランやケータリング(アルコールを除く)サービスで、食品と飲料品はペット用も対象となる。

 

 パンや小麦粉にかかるVATについては201391日に、24%から9%に引き下げられている(2013年9月11日記事参照)。今回は税率を先行しているパンなどに合わせ、対象品目を拡大したかたちだ。

 

<税率引き下げの狙いは脱税対策>

 税率引き下げの目的はパンの時と同じく、脱税対策だ。公共・財務省は税率引き下げについて、「(税率を下げることで納税しやすくなるため)脱税抑制に大いに貢献し得る」措置であり、「(消費者には値下げと映るため)内需拡大により国内経済成長の重要な一翼を担う」と説明する。国内の多くの専門家も「税率引き下げにより内需が最大10%増となり、これがGDP成長率を3%から4%へ1ポイント押し上げることになるだろう」とみている(「ナイン・オクロック」紙63日)。

 

 ルーマニアにおける脱税の状況について、財政諮問会議のイオヌツ・ドゥミトゥル議長は「2013年のGDPに占める脱税の割合は16%で、その12.2%相当分はVATの脱税からきている」と指摘している(「ナイン・オクロック」紙2014715日)。

 

 米国コンサルティング会社A.T.カーニーとビザ・ヨーロッパなどが作成した報告書「欧州の闇経済(2013年)」によると、一般的に闇経済の3分の2は闇労働、残り3分の1は課税対象の過少申告(脱税)だという。ルーマニアのGDPに占める闇経済の比率は2010年をピークに下がってきているものの、2013年は28.4%と欧州内ではブルガリア(31.2%)に次いで高いことからみると、脱税がまん延している国の1つかもしれない。

 

<税収減の代替策を欠き財政面に課題>

 政府は以前からVAT税率引き下げの可能性に言及していたものの、当初は20161月から全品目で24%を20%に引き下げるという案を中心に検討していた。今回、対象品目を食品などに絞り、引き下げ幅を拡大して導入時期を前倒しした要因の1つとして、低所得者層に広く支持されているポンタ政権が、2016年に予定される上下両院選挙や地方統一選挙を意識している点が挙げられる。

 

 ただし、政府は税率引き下げによる税収減の代替策を講じていない。財政諮問会議は512日、「政府は税率引き下げに伴う税収減を補填(ほてん)する代替策を講じていない。税率引き下げに伴う脱税の減少により(納税が進むことで)税収増となると政府は試算しているが、確実に税収増が見込める前にそのように試算するのは時期尚早」との声明を出している。また、IMF327日、政府を牽制するかのように同様の指摘をしている。

 

 なお、税率引き下げの効果についてドゥミトゥル議長は「理論上は全ての食品などを扱う流通業やサービス業で、引き下げられた税率分だけ価格が下がるはずだが、実際はその5060%程度しか実現されないだろう」とみている(「アジェルプレス」紙49日)。

 

 実際、税率が9%となった61日以降も、それ以前と同じ価格で商品を販売し、領収書の税率も24%のままのレストランがあると報道されている。

 

古川祐

(ルーマニア)

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