キルギスの加盟時期により発効延期の恐れも-EEU新関税法セミナー(1)-

(ロシア、ベラルーシ、カザフスタン、アルメニア、キルギス)

モスクワ事務所

2015年05月21日

モノ・サービス・資本・労働力の移動の自由化を目指すユーラシア経済連合(EEU)が1月1日に発足したのに伴い、新たな通関規則であるEEU関税基本法の加盟各国議会での批准手続きが、2016年1月の発効を目指して進められている。4月15~16日に開催されたモスクワ商工会議所主催のセミナー「ユーラシア経済連合における関税法の改正見通し」の内容を2回に分けて報告する。前編は関税基本法案の批准状況について。

<キルギスの加盟準備作業進む>
 1月1日にEEU条約が発効した。EEU条約は2014年5月29日、関税同盟の3ヵ国(ロシア、べラルーシ、カザフスタン)の大統領により署名され(2014年6月2日記事参照)、10月にはアルメニア、12月にはキルギスが加盟に関する条約に調印し、2015年1月2日にアルメニアが正式加盟国となった。

 アルメニア加盟に関する条約には、同国の加盟条件と移行措置が記載されている(2015年1月16日記事参照)。また、関税率共通化の例外品リストが定められ、リストに掲載されている商品を移行期間中に輸入する際には特別な関税率が適用される。規格認証についても、アルメニアの事業者は加盟後1年間、アルメニアの規格か、EEUの統一規格制度のどちらかを選択することができる。知的財産権分野においては、加盟日から3年以内に権利の効力が全世界に及ぶ国際消尽原則から、EEU域内に限られる地域消尽原則に移行させる義務を負っている(ユーラシア経済委員会ニュースリリース3月4日)。

 キルギスのEEU加盟に向けた準備作業も進んでいる。5月4日には、加盟に関する議定書をキルギス政府が閣議決定し、5月8日にモスクワで開催された最高ユーラシア経済評議会において、同議定書に加盟国首脳が署名した。今後、同議定書の加盟国による批准を経て、キルギスはEEU加盟国となる(ユーラシア経済委員会ニュースリリース5月8日)。

 なお、EEUのポータルサイトが1月1日に開設され、英語版へのアクセスが可能となった。同サイトでは、加盟国に関する情報、統計データ、連合に関する法律の決定手続き、重要な法案などが掲載されている。

<ベラルーシでは批准完了>
 EEUの通関規則となるEEU関税基本法の策定作業は2014年12月に完了し、現在、加盟国の議会で批准手続き中だ。策定作業にはビジネス界も参加した。同法は、障壁の緩和と貿易事業者に対する条件の整備を目的としており、通関手続きの自動化や電子上での文書処理を目指している。

 4月15~16日に開催されたモスクワ商工会議所主催のセミナー「ユーラシア経済連合における関税法の改正見通し」で、ユーラシア経済委員会(EEC)通関法制課長のマリーナ・イスコスコワ氏は関税基本法の批准状況について紹介した。それによると、これまでにベラルーシで批准が完了したが、カザフスタンでは最近行われた国家機関の改革(税関と徴税機関が「国家歳入庁」へ統合)により批准手続きが複雑になったという。

 EEU関税基本法は、2015年末までに加盟国の議会で批准手続きを終え、2016年1月に発効予定だが、イスコスコワ課長によると、キルギスは加盟国にならない限り関税基本法の批准手続きに参加できないため、キルギスの加盟が関税基本法の発効後になる場合は、議会での批准を経ずに4ヵ国(ロシア、カザフスタン、ベラルーシ、アルメニア)で決定された関税基本法がそのまま適用されるが、キルギスの加盟が関税基本法発効前の場合は、キルギスでも同法の議会批准が必要となり、関税基本法の発効が延期される可能性が高くなるという。

(エカテリーナ・クラエワ)

(ロシア、ベラルーシ、カザフスタン、アルメニア、キルギス)

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