ロシアなど3ヵ国がユーラシア経済連合条約に署名−2015年1月1日に発効、域内の経済統合が加速−

(ベラルーシ、カザフスタン、ロシア)

欧州ロシアCIS課

2014年06月02日

ロシア、ベラルーシ、カザフスタンの首脳が5月29日、カザフスタンの首都アスタナで開催された最高ユーラシア経済評議会で、かねてから予定されていたユーラシア経済連合(EEU)条約に署名した。同条約は、2015年1月1日に発効する予定で、資本や労働力の移動自由化や域内のモノ・サービス市場の統合プロセスが始まる。アルメニア、キルギスも同連合への加盟作業を進めている。

<アルメニア、キルギスも加盟作業を推進>
最高ユーラシア経済評議会(以下、最高評議会)に出席したカザフスタンのナザルバエフ大統領、ロシアのプーチン大統領、ベラルーシのルカシェンコ大統領が、EEU条約に署名した。今後、3ヵ国が国内議会で条約の批准を済ませると、条約は2015年1月1日から発効する。

条約では、2010年7月に発足した関税同盟(2010年7月2日記事参照)に関する規定のほか、統一のマクロ経済政策、競争政策、知的財産権制度、エネルギー市場などの一般原則や統一への移行措置内容が規定された。例えば、統一の金融市場規制は2025年までに導入される。統一の石油ガス市場の創設に関しては、2015年末までに構想を固め、2017年末までに統一化作業を実施、2023年末までに統一市場を形成する。

<統一市場で競争促進、政治的主権は堅持>
条約署名後にカザフスタン、ロシア、ベラルーシの大統領が声明を発表した。今回の最高評議会議長を務めたナザルバエフ大統領は、条約締結を祝福したのに続けて、EEUは加盟国の国民の繁栄のための経済力の統合が目的であるとし、「加盟国における国家の独立や政治的主権には影響を及ぼさない」と述べた。また、「どの加盟国も産業空洞化や、伝統産業や農業への悪影響を期待しているわけではない」と自国への配慮もみせた。

プーチン大統領は、条約締結が「歴史的で画期的な出来事」と評価した。一方で、締結は容易ではなかったとし、「全ての課題で合意に至るには困難があった」と認めた。統合効果として、プーチン大統領は「ビジネス環境の改善に注目すべきだ。ロシア、ベラルーシ、カザフスタンの統一市場において競争が促進される」と述べた。また、EEUを軸として、既に開始しているベトナムとの自由貿易協定締結交渉を加速させるとともに、通関分野で中国と協力を強化する方針も明らかにした。

ベラルーシのルカシェンコ大統領は、条約を締結しても特に加盟国間貿易に関する課題を認識すべきとし、「加盟国間の共同作業を空転させずにしっかりと前進させなければならない」と提起した。また、「条約締結で終わりではない。(統合への)重要な過程の始まりといえる。何よりも国民にとって正しい方向に進まなければならない」と述べ、ナザルバエフ大統領と同様に国益を念頭に置いた発言をした。

<ロシアのメリットが大きいとの見方も>
EEU創設の影響について、ロシアの政策シンクタンクである現代発展研究所のニキータ・マスレンニコフ顧問は、ロシアのメリットが大きいとみる。「EEUによって、ロシアは(域内で)、特に機械製造や石油化学分野でバリューチェーンを築くことが可能になる」と分析した(「ロシア新聞」5月30日)。

カザフスタンのアルマトイ市企業家会議所のエルラン・スタムベコフ会頭は条約締結を歓迎したが、加盟国間で段階的に導入されている統一の技術規則が自国製品の域内市場参入の際に障壁となっていると指摘した。しかし最大3年程度でその作業が完了するため、問題も解消されるだろうとの見方を示した(「カズインフォルム」5月29日)。輸出志向を持つ企業はチャンスと受け取っている。カザフスタンの蓄電池メーカー・カイナルAKBのムラト・トレゲノフ第1副社長は、ロシア、ベラルーシでの取引先拡大に期待を寄せる。同社は製品の多くを輸出しており、EEUが創設されることで生産および輸出の拡大が見込めるという(同5月28日)

ベラルーシのエコノミスト、セルゲイ・チャーリー氏は、EEUが発足しても、数年間はベラルーシ経済に対する影響は大きくないとみている。加盟国による経済政策や金融市場規制での協調政策は2018年から2025年にかけて導入されるためだ。しかし、懸念すべき点として、ベラルーシがロシアに依存する石油製品に対するロシアの輸出関税を挙げた。ベラルーシとロシアの間で2015年の輸出関税額を15億ドルと決めたが、それ以降は具体的な金額が設定されていない(「ベラパン」5月29日)。

EEUにはアルメニアも加盟する見込みだ。同国のサルグシャン大統領が、最高評議会拡大会合に出席、6月15日までに加盟に関する条約を締結する意向を明らかにした。

同じく加盟を希望するキルギスのアタムバエフ大統領も拡大会合に参加、2014年末までの加盟実現に期待を示した。最高評議会では、キルギスの加盟に関する工程表も承認された。

(浅元薫哉)

(ロシア・ベラルーシ・カザフスタン)

ビジネス短信 538be118a7f80