自国民雇用促進策のフェーズ3が実施延期に-産業界からは歓迎する声も-
(サウジアラビア)
リヤド事務所
2015年04月27日
アデル・アル・ファキーフ労働相は4月8日、自国民雇用促進策(サウダイゼーション)の具体的な規制を定めるニタカット・プログラムの「フェーズ3」の実施を延期すると発表した。フェーズ3では主な業種におけるサウジ人雇用比率の引き上げを含む制度強化が予定されていたこともあり、この政策を必ずしも支持してきたわけではない産業界からは延期を歓迎する声が聞かれる。
<制度は4年前に導入されサウジ社会に浸透>
ニタカット・プログラムは2011年6月に自国民雇用促進のルールを明確化するものとして導入され(2011年6月16日記事参照)その後、フェーズ2でサウジ人女性の雇用促進に関する規則を盛り込むなどしながら、国内における企業活動を規制する根幹的な制度として定着してきている。その後、2014年には雇用達成率に応じた企業分類が4段階から6段階へ細分化されるなど改定され、今般はフェーズ3としてサウジ人雇用比率の見直し(多くの業種において引き上げ)が4月20日から実施されることになっていた。
制度導入時には、サウジ人雇用比率の達成度合いが高い順からエクセレント(プラチナ)、緑、黄、赤の4段階だった企業分類が、2014年10月末までには「緑」カテゴリー内で高(ハイ・グリーン)、中(ミディアム・グリーン)、低(ロー・グリーン)の3段階に細分化され、計6段階となった。当初から導入されてきた「達成率の高い企業にはインセンティブを、低い企業にはペナルティーを」の精神は分類の細分化後も引き継がれており、かつてインセンティブの対象だった「緑」に分類されてきた企業も、新たに「緑・低」に分類されると外国人ビザの新規発給の停止、スポンサー(身元保証人)変更の禁止といったペナルティーが科せられることとなった。
<サウジ人雇用義務を強化へ>
労働省が2014年11月に公表したフェーズ3におけるサウジ人雇用比率の達成度は、基本は強化の方向であるものの業種区分(公表時点で58業種)によって異なり、各業種における実態や、サウジ人雇用のしやすさなどを考慮して改定される予定だった。例えば、金融・銀行業はサウジ人を雇用しやすいと見なされていることから、従業員50~499人の場合は、サウジ人比率38~75%が黄、76~80%が緑・低、81~84%は緑・中、85~89%は緑・高、90%以上がプラチナと他業種より厳しい条件が設定されているが、外国人労働者が多くサウジ人雇用が難しい工業製品の製造業では、従業員50~499人の場合、サウジ人比率11~21%が黄、22~26%が緑・低、27~30%は緑・中、31~34%は緑・高、35%以上がプラチナとなっている。
また、政府がサウジ人女性の就業促進を強く推し進めていることから、託児所、女性用サービス・販売店の区分では、インセンティブが受けられる緑・中に分類されるためには、最低でも85%以上のサウジ人雇用比率の達成が必要となっている。
<産業界は性急な進め方に不満、さらなる人材育成を要望>
ニタカット・プログラムについては、自国民により多くの就業機会を提供できることから総論としては賛成の世論があるものの、必ずしも産業界から支持を得てきたわけではない。今回延期が発表されたフェーズ3に関しては、サウジ商工会議所連盟が導入に3年の猶予を求める書簡を労働相に提出するなど、数値目標を達成できない企業にはペナルティーを即座に科すという性急な政策に対して否定的な意見も出ている。
産業界の最大の不満は、サウジ労働市場における需要と供給のミスマッチだ。産業界が提示した条件に応じて就業を希望する人材が少ない、職種に見合う能力を有する人材が不足しているなどとして、ニタカット・プログラムを強化する前に人材育成にさらに力を入れるよう労働省に求めている。
ファキーフ労働相は、ニタカット・プログラムのフェーズ3の実施延期を発表するのとほぼ同じタイミングで、現行労働法の大幅改正の発表も行っている。改正内容の詳細の発表までにはしばらく時間を要するが、4月7日の当地英字紙「アラブ・ニュース」によると、改正は38項目に及び、さらなるサウジ人材の育成強化(企業義務の強化)、雇用契約の長期化、違法労働者の取り締まり強化、新たな休暇制度などが盛り込まれているという。
経済企画省中央統計局の発表によると、2014年末のサウジの人口は3,077万人で、内訳はサウジ人2,070万人、外国人1,007万人となっている。サウダイゼーションを推し進めつつ、産業界が必要とする外国人労働者とのバランスをどのように取っていくのか、進出外国企業にとっても重要な問題であり、引き続き動向を注視する必要がありそうだ。
(庄秀輝)
(サウジアラビア)
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