イスラム暦新年から自国民雇用政策を強化へ

(サウジアラビア)

リヤド事務所

2014年09月26日

各種報道や政府の発表によると、イスラム暦(ヒジュラ暦)による新年(1436年1月1日、西暦では2014年10月25日)からサウダイゼーション(自国民雇用)政策が強化される見通しだ。企業のサウジ人雇用比率を業種や従業員数によって細かく定めるニタカット・プログラムに新たなルールが導入されるとともに、女性関連製品を扱う小売店に対するサウジ人女性雇用の義務化が新たな局面に入る。

<ニタカット・プログラム導入から3年以上が経過>
2011年6月に自国民雇用強化策の柱として導入されたニタカット・プログラム(2011年6月16日記事参照)は、導入後3年以上が経過し、外国企業がサウジアラビアへの投資を検討する際に注意深い対応が必要な規制として、認識が浸透してきている。同規制の下では、国内全ての企業は属する業種、従業員数により達成すべきサウジ人雇用比率が細かく決められ、その達成度合いにより4段階にランク付けされている。現在では、導入当初の混乱はある程度収まり、日系企業を含む在サウジ外国企業はペナルティーのない上位2段階にランク付けされるよう、さまざまな努力と工夫を凝らしている。

サウダイゼーション政策は、国が取り組む政策の中でも優先順位が高く、当地のメディアに取り上げられる機会が多い。2014年8月ごろからは、それ以前よりニタカット・プログラムのサウジ経済への功罪が頻繁に新聞紙面に取り上げられるようになった。論調は総じて、同制度によりいかに多くの自国民雇用が生み出されたかという肯定的な内容だが、一部には同制度が建設事業の遅れや、公共部門における人材不足の原因になっているとの批判的な記事もみられ、同制度をめぐり何らかの見直しが検討されていることがうかがえた。

<外国人労働者の滞在期間制限に踏み込む>
サウジ労働省の発表によると、イスラム暦の新年1月1日(西暦2014年10月25日)から、ニタカット・プログラムの上から3番目に当たる黄色ゾーンに分類される企業で働く外国人労働者は、最長で4年間しかサウジ国内にとどまれなくなる。そしてこの制約は、6ヵ月後(2015年4月20日)には2年間にさらに短縮される。滞在期間の計算は労働ビザの発効日から起算するとされ、期間を超えてのビザ更新はできない。

黄色ゾーンに分類される企業数は労働省のレポートでは1万9,637社とされており、その85%は中小企業となっている。黄色ゾーンの企業は、a.新たに外国人労働者を雇用できない、b.労働者の職種変更ができない、c.他社から自社に従業員を招き入れることができない、など既にさまざまなペナルティーが科されているが、現在雇用する外国人労働者に対しても滞在期間制限が新たに設けられ、より厳しい労務環境に直面することになる。唯一の解決方法は、サウジ人の雇用を増やすことだ。サウジ労働省は人材開発基金(HRDF)がサウジ人材調達を手伝うとし、その活用を同時に呼び掛けている。

こうした政府による外国人労働者規制の強化策に対し、産業界からは一部批判の声が上がっている。ジッダ商工会議所は今回の規制強化は実行面で大きな困難を伴うとし、特に建設請負業、製造業では熟練した外国人労働者の存在が重要で、そうした熟練工の喪失はサウジ経済に深刻な影響をもたらす可能性があると警告を発している。同商工会議所はまた、4年で現場を去ることになる労働者に対し、企業はトレーニングを提供する意欲を失うだろうとも指摘している。

<自国女性向け職場を確保する規制も強化>
サウジ人女性の就業強化は2011年6月に発出された現国王の命令に基づくもので(2012年5月21日記事参照)、現在では大手スーパーのレジにアバーヤに身を包んだサウジ人女性が座ることも普通の光景としてなじんできている。サウジ労働省はさらに多くの女性向け職場を確保する目的で、前述のサウダイゼーション新規制と同じタイミング(10月25日から)で、女性関連製品を販売する小売店でのサウジ人女性雇用義務についても規制を強化する。

今回の措置は、フェミニゼーション(サウジ人女性就業強化策)の第3フェーズとして、従業員数5人以下の零細・小企業を含む女性関連製品を販売する全ての小売店においてサウジ人女性の雇用を義務付ける。女性関連製品として、香水、化粧品、下着、服飾、靴・バッグ、マザー・ケア、アバーヤ、生地が例示され、屋内・屋外に加え、仮設タイプの店舗も規制の対象に含んでいる。労働環境の整備にも配慮がなされており、店舗から50メートル以内に椅子を備えた休憩スペースや祈拝を行う場所を設置しなければならないとされ、女性の就業時間は店舗の営業時間にかかわらず、午前9時から午後11時までの間と定められている。

新規制には罰則も含まれ、文書による警告、罰金、政府サービス提供の停止、店舗閉鎖といった措置が段階を追って講じられる。政府は今後2年間で、女性関連製品を販売する全ての小売店でサウジ人女性が就業することを目標に掲げている。

<サウジ人雇用の実践迫られる外国企業>
2,000万人を超える自国民を抱え、その35%が15歳以下という人口構成を持つサウジアラビアがサウダイゼーション政策を緩める動きは現時点ではみられない。10月25日から始まる同政策強化の動きは、今後サウジでビジネスを行う、あるいは検討する外国企業にとって、サウジ人の雇用をどのように実現していくかを、より真剣に検討・実践していく必要があることを示唆している。

(庄秀輝)

(サウジアラビア)

ビジネス短信 54224ec568010