一部品目への財源使用税の適用税率が0%に-コスト低下で対トルコ輸出に追い風-

(トルコ)

イスタンブール事務所

2015年04月27日

 トルコ政府は4月10日、輸入取引に係る一部品目に対する財源使用税(Resource Utilization Support Fund:RUSF)の適用税率を6%から0%へ変更すると閣議決定した。国内製造業にとって不可欠な中間財・資本財の輸入を促進する狙いがあるとみられる。この実質的な減税措置により自動車部品などをトルコに輸入する際のコスト低下が予想され、多くの日本企業にポジティブな影響を及ぼすことが期待される。

RUSFはトルコ独自の課税制度>

 RUSF(注)はトルコ独自の課税制度で、銀行から借り入れを行う際、あるいは商品などを輸入する際などに所定のレートにより計算された金額が控除、回収される制度だ。借り入れ取引についてはその元本および利息(トルコリラ建て借り入れ取引については利息のみ)を基準とし、例えば、金融機関以外の在トルコ企業が短期(平均償還期間1年未満)で国外からの外貨建て借り入れを行う場合は、その元本および利息に対して3%のRUSFが課せられることになる。東京やロンドンなどの統括拠点からトルコ支店に運転資金などを融通した場合でもRUSFの課税対象となる可能性があり、企業にとっては資金調達コストの増加要因となっている。

 

 一方で、輸入取引についてはインボイス価格を基準にRUSFが課せられる。従前は基本的に全ての輸入製品に対して6%の税率が設定されていたため、在トルコ日系企業も含め、RUSFは大きな負担となっていた。輸入取引において、前払い決済〔現金前払い、信用状取引(引き受け信用状、後日払い信用状などを除く)、現金引き換え書類渡し決済など〕を行い、その証明書類などを当局に提出すればRUSFは課されないため、前払い決済を選択することでRUSFを回避する企業も多いが、一方で決済資金確保に係る金利負担などの資金調達コストが上昇するため、特に資金力に乏しい中小企業にとってはビジネス上の大きな障害となってきた。

 

<対トルコ輸出品目の多くが適用対象に>

 今回変更されたのは、輸入取引に係る一部のHSコード品目に対するRUSFの適用税率だ。410日以降に0%のRUSFが適用されることとなった品目は、添付資料の表1のとおりで、輸入時に信用取引や後日払い信用状取引など後払いとなる決済を行った場合でも適用される。この実質的な減税措置の対象品目は幅広く、機械類、自動車部品、鉄鋼といった日本からトルコへの主要輸出品目のうち、多くが0%適用の対象となる(添付資料の表2参照)。

 

 例えば、HSコード品目別で対トルコ輸出額が最も大きい第84類(原子炉、ボイラーおよび機械類ならびにこれらの部分品)を財務省貿易統計に基づいて分類すると、84類の2014年対トルコ輸出総額9114,000万円のうち、96.3%を占める約8774,000万円に相当する品目が今後は0%適用の対象となる。同様に、87類(鉄道用および軌道用以外の車両ならびにその部分品および付属品)では49.5%(約2023,000万円)、72類(鉄鋼)では100.0%(1611,000万円)、85類(電気機器およびその部分品ならびに録音機、音声再生機ならびにテレビジョンの映像および音声の記録用または再生用の機器ならびにこれらの部分品および付属品)では64.9%(約877,000万円)、40類(ゴムおよびその製品)では90.9%(115億円)の品目が0%適用の対象だ。

 

 この結果、自動車部品などの中間財を輸入してトルコで加工・製造を行うメーカーや貿易商社などにとっては、後払い決済でもRUSFの支払いが不要となることで、キャッシュマネジメント上の大きなメリットを享受することになる。産業界からも好意的な反応が寄せられており、トルコ自動車部品工業会(TAYSAD)のドゥダルオール会長は「投資財や中間財に適用されるRUSF0%となることで、生産コストの低下や国内製造業の国際競争力の向上につながる」と述べ、エーゲ輸出組合のウンルトゥルク組合長は「これまで企業はRUSFを回避するために前払い資金を銀行から借り入れていたが、今後は不要になる」とのコメントを発表している。

 

 なお、最終製品の輸出を前提とした部品などの輸入時には、再輸出加工制度(Inward Processing Regime)によりRUSFを含む諸税の免除を受けることができるが、経済省への申請手続きが煩雑なことから、同制度の利用を回避できることを歓迎する声も聞かれる(ただし、付加価値税などRUSF以外の税金の免除のためには、引き続き同制度の申請が必要)。

 

<今回の減税措置は政府の経済対策パッケージの一環>

 ダブトオウル首相は42日に雇用、投資および国内製造業支援のための総額29億ドルの経済対策パッケージを公表したが、今回のRUSFの適用税率変更措置も、この政策パッケージの一環として実施されたものだ。首相は同日の会見で「中間財・資本財の輸入に係るRUSF0%とする」とコメントしており、今回0%適用の対象となっている品目の多くが、国内製造業の生産拡大および競争力強化に不可欠な中間財・資本財が中心とみられる。

 

 トルコ産業界では製造業における高付加価値製品の欠如が最大の課題の1つとなっており、政策パッケージでも産業の高度化につながる投資や研究開発(RD)にさらなる高インセンティブの付与が盛り込まれているが、RUSF減税により国外の高品質の部品などの輸入を促進することで、総合的な国内製造業強化につなげる狙いがあるとみられる。

 

 ただし一方で、トルコ大手ガラスメーカーであるシシェジャムのクルマン最高経営責任者(CEO)が「トルコはガラス製品の純輸出国だが、今回RUSFが撤廃されたガラス品目の大半は国内でも製造されているものだ」とコメントするなど、国外製品との競合にさらされる国内メーカーを中心に、競合する輸入製品の増加を通じて国内産業にネガティブな影響を及ぼすとの批判的な意見も多い。また、首相の発言に反して、最終財の一部もRUSF0%に変更された、と指摘する意見も聞かれる。

 

 トルコ経済紙「Dunya」(414日)によると、政府は税率変更後の影響評価を行っていて、場合によっては再度の制度変更の可能性もあると報じている。今回の制度改正はトルコでは珍しい減税措置で、大半の日系企業にとってポジティブに作用するものだが、本制度に限らず、トルコの各種税制・制度は頻繁に変更されるため、運用面も含めて今後も注視していくことがといえるだろう。

 

(注)RUSF制度の詳細は、トルコの税制に関するジェトロのウェブサイトを参照のこと。

 

(牛田遼介)

(トルコ)

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