税関による課税標準価格の修正要求に注意を−通関問題ワークショップ(2)−

(アルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、ロシア)

モスクワ事務所

2015年04月16日

景気後退や経済制裁、原油価格の大幅下落などにより、ロシアの貿易額が減少している中、連邦税関局による関税徴収が強化されており、申告価格の修正を要求される企業が増えている。修正要求された場合の対応、あるいは要求されないようにする方法は何か。トリヤッチで開催された通関問題に関するワークショップの報告の2回目は貨物通関時の申告価格の評価について。

<新関税基本法の発効前にAEO資格取得を>
法律事務所DLAパイパーの貿易規制実務部長ウィルヘルミナ・シャフシナ氏は、貨物通関の課税標準価格の評価について、次のように講演した。

通関時の申告価格となる課税標準価格は非常に大きな問題となっている。2014年9月に連邦税関局が地方税関支部に送付した書簡「関税徴収の引当金について」では、貿易事業者を2つのカテゴリーに分類している。

第1のカテゴリー〔同書簡の添付1に記載されている153社の大企業。ゼネラルモーターズ(GM)、フォード、現代自動車、クナウフ、ロシュ・ダイアグノスティックス、ヘンケル、ヘネス・アンド・マウリッツ(H&M)、アフトワズなど外国および地場のほか、日系も多数含まれる〕については、「2014年10月1日までに貨物申告の詳細な分析を行い、リリースの前後で(申告時の関税分類に誤りがないかどうか)あらためて確認する」よう指示している。第2のカテゴリー(添付2に記載された373社の大企業。ほとんどがロシア企業)については、2014年12月までに連邦税関局により特定された関税の再評価徴収額を「直ちに関税を徴収する」よう指示している。

上記への対応を急ぐ場合、製造業であれば「ホワイトリスト」(2014年7月17日記事参照)に認定されること、もしくは認定事業者(AEO)の資格を取得することが重要だ。2014年の法改正によって、販売会社であってもAEOの資格の取得が可能となった。AEOとなった場合は通関書類の作成を事後にまとめて行うことができるため、通関手続きの負担が緩和され、自社倉庫で検査を受けることができる。他方、2016年に向けて新しい関税基本法が導入される予定だが、2016年以降はAEOにカテゴリー分けが導入されることもあり、申請する際の証明書の種類が増えるため、AEOになる手続きが複雑化する。新しい関税基本法が発効する前にAEOの資格を取得した方がよい。

添付2の企業については徴収予定の金額も詳細に記載されている。主にHSコードの間違いによって、追加徴税可能額を積み上げている。HSコードの間違いは税関当局が指摘しやすいポイントだ。事後調査のリスクを避けるため、連邦税関局からできるだけ適用範囲が広い分類コードを取得しておくことを勧めている。中央税関だけでなく、地方税関支部もHSコードの事前決定を行っており、一地方支部の判断であっても、全国の税関で有効となる。最近、特にリリース後1〜2年の間でも、税関当局が事後調査で税率を高いものに変更すべくHSコードを見直す動きがみられる。税関当局のみならず通関ブローカーまでが、関税額の高いHSコードでの申請を勧めてくるケースが散見される。また、もう1つの問題として、税関当局が他国で一般的に使用されるHSコードを採用しないケースが生じている。これについては世界税関機構(WCO)に照会することが肝要だ。連邦税関局からの修正要求は、WCOに鑑定してもらうことができ、税関当局に対抗できる効力を持つものとなる。

<申告価格の立証責任は企業に>
課税標準価格の算定については、国際的な決定に従いGATTのルールを採用している。インボイスに記載された取引価格をベースとし、運送、ライセンスなどの費用などが加算される。重要なことは、当該売買契約の当事者企業間がどのような関係かということだ。売り手と買い手が関係会社であり、相互関係が価格に影響しているという兆候を税関がつかんだ場合、税関は申告人(通関代理人)にこれを書面で通知し、追加検査を行う決定を下す。

もし追加検査が課された場合、申告価格や、売り手と買い手の相互関係による取引価格への影響の有無については申告した企業側に立証責任が課されている。税関側が作成した価格が申告価格と異なる場合は、申告者が立証責任を負う。ただし、実際には税関が追加検査で販売状況を調査することは少なく、追加検査で検証した価格と取引価格の差を確認する程度に限定される。価格に相互関係が影響していないことを証明する方法は、販売状況を特徴づけるデータの分析、もしくは輸入貨物の取引価格が検証価格の1つに近いことを証明する書類やデータの提出、となる。

取引価格に相互関係が影響していないことを証明する場合の問題点としては、a.相互関係のない相手先へ納入していない場合は申告人には同一または類似の製品の通関価格に関する情報がない、製品の製造コストや利益水準に関する情報は多くの場合、企業秘密でありメーカーは開示していない、などが挙げられる。

税関局からのクレームについては、クレームを受けた時点で法律会社に相談することが重要で、対応策として、関連するデータについて検証価格との差を小さくする努力が必要だ。

裁判になった場合、企業側が立証責任を負うため、能動的な対応が必要となる。企業が税関による処分を不服とする場合は、税関に対して行政訴訟を提起する。その際、行政裁判で企業側が提示しなかった証拠を第二審で提示しても、裁判所が却下する可能性がある点に留意する必要がある。最高商事裁判所は、企業側がその存在を知っていたにもかかわらず、行政裁判で提示しなかった証拠を新たに提示することはできない、という判例を出している。

(齋藤寛)

(ロシア・ベラルーシ・カザフスタン・アルメニア)

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