2015年内の大筋合意に期待−日EU・EPAセミナーをベルリンで開催(2)−

(EU、日本、ドイツ)

ベルリン事務所・欧州ロシアCIS課

2015年02月09日

日EU経済連携協定(EPA)交渉の意義と進展を日独両国はどのように評価しているかについて、日独の有識者が見解を述べた。2015年内の大筋合意を期待する意見も出た。日EU・EPAセミナー報告の2回目。

<2015年大筋合意に向け日EU双方が交渉加速を>
経済産業省赤石浩一大臣官房審議官(通商政策局担当)は、日EU・EPAの意義と交渉の進捗状況について講演した。赤石審議官は、前回ベルリンでセミナーが開催された2014年3月以降、4つの点で情勢の変化がみられたと指摘(2014年4月17日記事参照)。第1に、ウクライナ・ロシア情勢の変化、アジアインフラ投資銀行構想など、多極化が進む地政学的変化、第2に、依然難航するWTO交渉、新サービス貿易協定(TiSA)や情報技術協定(ITA)などのプルリラテラル交渉(注)の進展や、EUカナダ自由貿易協定(FTA)と中韓FTAの進展などの貿易に関する課題、第3に、マクロ経済の観点から、デフレの進行などにより経済の「日本化」がいわれ始めた欧州経済と、成長のために日欧が推進する構造改革、第4は、既存の標準や規制などシステムそのものの本質的な改革を求めるIT革命等の急激なイノベーションの進行であり、これらの情勢変化は日EU・EPAに影響をもたらすとの考えを示した。

赤石審議官は、日EUが協力して直ちに取り組まなければならない多くの課題があり、世界の貿易ルール作りに貢献するためにも、日EU・EPAの早期妥結が重要と述べた。また、日EU・EPA交渉の現状について、欧州側のレビュープロセスを経て交渉は後半戦に入り、より本質的な議論が行われているとの認識を示した。さらに、目標とする2015年中の大筋合意を実現するためには、日EU双方がギアを上げて現在よりも交渉スピードを加速する必要があり、本セミナーや日EUビジネスラウンドテーブルなどにおける、産業界や学会による日EU・EPAに対する支持が重要であるとの考えを述べた。

<「日本を過小評価すべきでない」とドイツ連邦議員>
ドイツ与党のキリスト教民主同盟(CDU)所属のマルク・ハウプトマン連邦議員は、最近EUとカナダが大筋合意したEUカナダFTA(CETA)と比較して、EUカナダ間の貿易総額は約850億ユーロ、カナダの市場規模は3,500万人であるのに対し、日EU間の貿易総額は1,480億ユーロに上り、日本の市場規模は1億2,700万人に達すると説明。EUにとって、日本の市場規模や国際ルール作りへの影響力は対カナダのそれらと比べて非常に大きく、日本を過小評価すべきでないとし、日EU・EPAにドイツはより高い関心を持つべきだとの見解を述べた。

2013年4月に始まった日EU・EPA交渉はこれまでに8回の交渉を重ね、最近の欧州委員の交代、日本の衆議院選挙に加え、ドイツも2013年12月という比較的最近に新政権が発足し、日本、EU、ドイツとも新体制で交渉を進めている。その中で、2014年には日EUサイバー対話、日EU宇宙政策対話なども開始していることを紹介した。

日EU・EPAの交渉内容については、自動車、鉄道、加工食品、電子機器や金融の分野、ビジネスサービス関連法で日本側に解決すべき障壁があるとの認識を示し、いずれも中小企業に裨益(ひえき)する事項だと述べた。鉄道分野の調達については、日EU双方が相手国市場での競争に参加できることで、互いのサービスの質を高める効果が期待できるとした。

また、アジアの中で高いスタンダード、知的財産権の保護などを有している国は日本以外になく、アジアなどで日独が共通の貿易の議題に取り組んでいく意義があり、ドイツが進める情報通信ネットワークの連結と生産技術のデジタル化を目指す取り組み「インダストリー4.0」などの新しい分野でも協力の余地があると指摘した。さらに、EUが既にFTAを結んだ韓国とは、輸出入とも金額が増加し、GDPや雇用の増加にも貢献したことを挙げ、EUは米国とのFTAだけに目を向けるのではなく、アジアとの関係、つまりは日本との関係に着目すべきだと訴えた。

ハウプトマン議員は、日本は21世紀の貿易問題に取り組む上でEUの重要なパートナー、重要なプレーヤーであり、「2015年は日EU・EPAの大筋合意にパーフェクトな年だ」と講演を締めくくった。

(注)プルリラテラル(複数国間):通商関係において、WTO全加盟国の体制がマルチラテラル(マルチまたは多国間)、2者間の合意関係がバイラテラル(バイまたは2国間)と表現されるのに対し、任意で参加する複数国・地域間での合意の枠組み。

(平林孝之、木場亮)

(ドイツ・EU・日本)

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