日独双方で中小企業国際化を支援−日EU・EPAセミナーをベルリンで開催(3)−

(EU、日本、ドイツ)

ベルリン事務所・欧州ロシアCIS課

2015年02月10日

日EU経済連携協定(EPA)は中小企業の国際化にいかに貢献し得るかについて、日独両国の有識者や、中小企業の国際化を支援するドイツ商工会議所とジェトロが見解を述べた。日EU・EPAセミナー報告の最終回。

<経済全体の好循環もたらす中小企業の国際化>
早稲田大学の戸堂康之教授は、中小企業の国際化の意義とEPAの及ぼす影響について講演した。中小企業の国際化は、国際化した中小企業自身だけでなく、国の経済全体に好循環を及ぼすと指摘。輸出が投資を促進し、国内企業の生産性を向上させ、輸出入活動を通じてさまざまなことを学び、規模の経済を増大させ、競争を促すためだ。

また、国内企業の収益の増加は内需を拡大する一方、企業の国際化は相手国企業にとっても技術移転を通じてベネフィットを与え、双方にウィン・ウィンの状況をもたらすと述べた。輸出している企業の方がそうでない企業よりも収益を伸ばしているという調査結果を紹介し、輸出している企業でも1つの国だけを対象としている企業はそのベネフィットは少ないと説明した。欧州の中小企業はアジア最大の国だけをターゲットとするのではなく、日本を含む他の国の市場も評価すべきだと述べた。中小企業の国際化により国内の雇用は失われるのではなく、増えていることが色々な研究で明らかになっており、国際化していない企業は雇用を減らしているとした。

その上で、日本の中小企業には海外展開をしている企業に引けを取らない製品を持ちながら、企業活動が日本国内にとどまっている「臥龍(がりゅう)企業」が存在すると指摘。こうした臥竜企業には中小企業に対する国などによる過度の保護、海外展開の知識の欠如を背景に海外展開の必要性を感じていない企業も少なくないとし、自由貿易協定(FTA)に加えて、海外市場に関する情報の提供、海外企業とのネットワーキング、中小企業の保護の見直しが国際化を促す、との考えを示した。

戸堂教授はまた、日EU・EPAは関税問題だけでなく、対内投資や相互の国・地域間の情報ネットワークの強化も併せて図ることで、日本の臥龍企業のEU市場への参入を促すと同時に、ドイツの「隠れたチャンピオン」と呼ばれる世界的な競争力を持つ中堅・中小企業が日本市場へ輸出を拡大することにもつながり、両国・地域にとってウィン・ウィンの関係をもたらすことを期待すると述べた。

続いて講演したドイツ国際政治安全保障研究所(SWP)アジア研究部長のハンス・ギュンター・ヒルペルト氏は、ドイツ側からみた日本市場と日EU・EPAの意義について説明。日本におけるドイツ工業製品の浸透度は、非関税措置とビジネスコストの高さにより十分でないが、高度なスタンダードの、しかも日本市場にフィットした製品を投入し、金融的な支えもあれば、日本の顧客は長期にわたりビジネスを約束してくれる市場だと指摘。日EUがオープンな姿勢でEPA交渉を進めれば、ドイツの中小企業にとって日本市場でのプレゼンスを向上させることにつながるため、日EU・EPAはドイツの視点からもベネフィットをもたらす、との考えを述べた。

<相互の違いを踏まえた協力でウィン・ウィンの関係に>
ジェトロ・ロンドン事務所の有馬純所長は、ジェトロなどの調査結果を基に、依然として多くの中小企業が国際化できていないことを指摘。その要因として、国外市場に対応できる人材と、相手国市場の規制への対応が課題となっていると述べた。これら中小企業に対する情報提供、人材育成、そして外国企業とのマッチメーキングが必要であり、ジェトロが地域間産業交流事業(RIT事業)で支援したドイツ企業EUTECTの持つ高度なハンダ付け技術と埼玉県の日特エンジニアリングの流通チャンネルを相互に活用する業務提携を例に挙げ、日EU・EPAを通じてこうした事例を増やすべきだと訴えた。

また、日本企業のFTA利用率を上げるためには、原産地証明などの取得コストをFTA利用のメリットが上回る必要があり、環太平洋パートナーシップ(TPP)や日EU・EPAはこれまでのFTAよりも包括的で自由化の野心レベルが高いため、FTA利用率を高めることが期待できると述べた。

EU企業が日本市場でのビジネスで課題に挙げる非関税措置について、日本はEUに交渉開始前からロードマップ(行程表)を示して取り組み、構造改革も推進しており、改善していると述べた。同時に、EU側にも高い関税、ビジネスコスト、労働許可やビザ取得の煩雑さの問題があることを指摘した。非関税措置を事後的に調整することは容易ではないが、今後導入される規制基準については日本とEUの協力により、第三国市場への浸透を含め、ウィン・ウィンの関係を構築できると指摘した。さらに欧州から日本への累積投資額は日本から欧州への3分の1であることを指摘し、日EU・EPAを通じて欧州から日本への投資増大を期待するとした。

最後に講演したドイツ商工会議所のフォルカー・トライアー副専務理事は、同時に交渉が進んでいるTPP、EUと米国の包括的貿易投資協定(TTIP)、日EU・EPAが互いに刺激を与える構造となっており、主要当事者である米国、EU、日本の中でドイツがフロントランナーとなるには日EU・EPAを推進して交渉が滞っているTTIPを進める推進力にすべきだと述べた。また、ドイツはこれまで日本を過小評価していると指摘。ドイツが国外市場を含めて産業と企業を育成しようとしているモビリティー(自動車)やエネルギーなどの分野は日本で盛んな産業になっており、ドイツ企業にビジネス機会は大きいとの見解を示した。このビジネス機会を獲得するために、また相互に景気回復や高齢化の進行という共通の課題を負っている中で、日独が連携を強める意義は大きい、と述べた。

さらにトライアー氏は、対日投資しているドイツ企業はアジア市場もカバーすることで収益を増している現状を紹介した。ドイツ企業の対日投資、日本企業の対独投資、日独企業が連携した第三国市場開拓などを促進するために、ジェトロと覚書(MOU)を2015年に締結する予定だと述べた。そして、日EU・EPAも2015年内に大筋合意されることに強い期待を示した。

(平林孝之、木場亮)

(ドイツ・EU・日本)

中小企業の国際化への貢献に期待−日EU・EPAセミナーをベルリンで開催(1)−
2015年内の大筋合意に期待−日EU・EPAセミナーをベルリンで開催(2)−

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