日本の成長戦略やアジアで進むFTAに欧州側関心寄せる−日EU・EPAセミナーをベルリンで開催−

(EU、ドイツ)

ベルリン事務所・欧州ロシアCIS課

2014年04月17日

ジェトロは3月13日、ドイツ連邦経済エネルギー省や外務省、与党キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)などの関係者やドイツ企業からの出席者81人を対象に、日EU経済連携協定(EPA)の交渉の現状と日本の取り組みを紹介するセミナーをベルリンで開催した。

<EPAを通じたビジネスフレンドリーな環境整備>
セミナー冒頭、ジェトロの長島忠之理事があいさつし、日欧の経済のさらなる成長のために重要性が増しているのが、外国企業にとってのビジネスフレンドリーな環境の整備だとし、日欧が相互に投資を行う環境を整備して、投資交流を活性化することが重要であり、そのプラットホームとして日EU・EPAが位置付けられる、との見解を表明した。さらに、アベノミクスで日本が内需主導型成長を遂げている中、日本を基点としたアジアの成長の取り込みという観点でドイツ企業の日本におけるビジネス機会が拡大している点を紹介。ジェトロは対日投資の中核機関としてドイツ企業のさらなる投資を積極的に支援していると述べた。また、日本の公共調達に欧州企業がより参入しやすくなるよう、ジェトロでは日本政府とともに約100の自治体の公共調達案件情報を英文で見ることができるポータルサイトを運営していることを紹介、日本市場が欧州企業に開かれていることを強調した。

<日EU間経済関係にとどまらないEPAの意義>
続いて経済産業省の田中繁広通商機構部長が、「日EU経済連携の新時代」と題する講演の中で、日本市場の大きさや日EU間の貿易規模が世界の中でいかに重要な位置を占めているかに触れ、日EU間の経済関係を説明した。また、アベノミクスの「3本目の矢」に位置付けられる成長戦略の中で日本経済が成長するためにさまざまな規制緩和が行われており、日EU・EPA交渉でもEU側関心事項として取り上げられている非関税措置については対応が進められている、と説明した。

EU側が関心を持つ自動車の非関税措置や鉄道分野の公共調達についても触れ、自動車については日本も積極的に取り組んでいる基準認証の調和(ハーモナイゼーション)の動きに国際的な枠組みでの日EUの協力によるアプローチが重要との考えを示し、鉄道分野は日EUの貿易バランスではなく、そもそも低い水準にとどまっている双方の貿易規模の拡大に取り組むという視点が求められるとした。また共通の価値観を持つ日EUがEPA交渉を進めることは、世界の中での日EUのポジションを決めるものであり、双方がEPAの早期締結に取り組むべきとの見解を示した。

慶應義塾大学の渡邊頼純教授は、日EU・EPAなどメガ自由貿易協定(FTA)における取り組みが、2国・地域間の貿易・投資自由化にとどまらず、WTO交渉を進める新しい機運になる可能性があることにも意義を持つとの考えを示した。現在の状況をみると、欧州、米州、アジアの3極の中で、EU、北米自由貿易圏(NAFTA)および南米南部共同市場(メルコスール)、ASEAN+6といった経済統合が進んでおり、さらに地域間の統合の枠組みとして、APEC、アジア欧州会合(ASEM)、米EU間のトランス・アトランティック・マーケットプレイス(大西洋沿岸諸国市場)が存在する。これらAPECなどの地域間統合の枠組みに法的拘束力を持たせるものとして環太平洋パートナーシップ(TPP)協定、日EU・EPA、米EU間の包括的貿易投資協定(いわゆるTTIP)といったメガFTAが位置付けられる。このため、メガFTAを通じて3極間で進む法的拘束力を持つ貿易・投資自由化の議論は、世界の貿易・投資ルール作りにも影響を与え得るとした。

<アベノミクスに高まる期待>
こうした日本側の見方に対し、パネルディスカッションでは欧州委員会のペーター・ベルツ極東ユニット長から、アベノミクスの中で進む構造改革を通じて、日本が貿易やFTAに対する積極的な姿勢を示していることは欧州委を日EU・EPA推進に導いている重要な背景だと、日本の構造改革がEU側を良い面で刺激していることを指摘した。また、日本のFTA戦略について、日中韓FTA、東アジア包括的経済連携(RCEP)、TPPの動きに注目しているとした。日EU・EPAについては、自動車、鉄道などの日本側の非関税措置への取り組み、公共調達市場の開放にあらためて期待を示した。

ドイツ経済エネルギー省クヌート・ブルンネス国際経済政策部長も、アジアの成長をみる上で日本を見過ごすことはできず、アベノミクスで経済が回復する中、それを取り込んでいきたいと日独経済関係の意義を述べた。日EU・EPAについては、日本の非関税措置についてさらなる取り組みがなされることに期待を示し、欧州委がEU加盟国から日EU・EPAの交渉権限(マンデート)を付与される条件とされた交渉開始1年後のレビューについては楽観視しており、交渉は停止することなく継続されるとみているとした。

<中小企業にとって使いやすいEPAを>
質疑応答ではドイツ経済団体から、中小企業も使いやすいEPAを目指すべきとの意見があった。これに対し、欧州委のベルツ氏は、2011年7月に暫定発効したEU韓国FTAでは原産地規則に自己宣言制度を導入して使いやすさを確保したことを紹介。田中通商機構部長も、日本では中小企業のEPA活用度合いの統計を取って状況を把握しており、中小企業のEPA活用は重要なテーマと認識していると答えた。

(マリナ・リースランド、ユリア・クリューガー、木場亮)

(EU・ドイツ)

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