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外資上限定めた憲法や国内法との整合性確保に難しさ−FTAのサービス貿易自由化に向けた取り組みの進捗(1)−

(ASEAN、フィリピン)

バンコク事務所・マニラ事務所

2014年12月08日

ASEAN経済共同体(AEC)の目指す「域内におけるサービスの移動の自由化」に向け、フィリピンの自由化スケジュールに遅れが出ている。その背景には、国内産業界との調整に加え、一部産業への外資出資上限を定める憲法と国内法との整合性を確保することの難しさがある。多国間自由貿易協定(FTA)のサービス交渉における国内調整の役割を担う国家経済開発庁(NEDA)に、国内産業界との調整の進捗と今後の見通しについて聞いた。FTA交渉を担当する貿易産業省(DTI)へのインタビューと併せ2回に分けて報告する。

<サービス分野の外資規制緩和が焦点>
ASEAN各国は現在、ASEANサービス枠組み協定(AFAS)に従い、10段階(パッケージ)で構成される自由化の約束表を、パッケージごとの目標期限までに段階的に公表(当該分野を開放)するかたちで自由化を進めている。その自由化交渉における最大の焦点は、ASEAN域内からのサービス業分野への投資に対する外資規制の緩和だ。第10パッケージの完了時(2015年中を期限)に、対象となる128業種において70%の外資出資を容認することがそのターゲットとなる。

しかし、2014年8月のASEAN経済相会議では、予定されていた全加盟国による第9パッケージへの合意・署名が見送られ、目標スケジュールに従った自由化の進捗に遅れが出ていることが明らかとなった。また、その理由としてフィリピンが国内調整の難航を理由に署名を見送ったことが確認されており、今後の自由化交渉の進捗は、フィリピンの動向が大きなカギを握る(2014年9月2日記事参照)

<小規模サービス業保護の観点で利害を調整>
NEDAのブレンダ・メンドーザ担当部長に、第9パッケージの自由化約束に向けた国内調整の進捗状況、ならびに今後の見通しについて聞いた(10月30日)。

問:ASEANのサービス自由化交渉におけるNEDAの役割は。

答:NEDAは、WTOサービス交渉における窓口機能。AFASに関しては、政府間交渉を担当するDTIと国内関係省庁・産業界・関連団体との間の調整窓口としての機能を果たしている。かつては交渉窓口の役割を果たしていたが、現在、2国間、多国間のいずれにおいても、他国とのFTA交渉の窓口はDTIに一元化されている。

交渉に臨む際に、国内法や各種の規制を管轄する省庁との調整を図るプロセスはNEDAに一任されている。また、国内の産業界の要望を吸い上げ、DTIに対してそれらの要望を交渉に反映させるよう調整を図るのもNEDAの重要な役割となっている。大統領府を除きある省庁がほかより権限があることはなく、どこも平等な立場として、NEDAとしても要請ベースで各省庁との合意形成に努めている。

問:AFASの第9パッケージに従った自由化約束の見通しは。

答:準備は着実に進めているが、第9パッケージに署名できる状況には至っていない。11月のASEAN首脳会議での署名も予定していない。パッケージが進むごとに、国内産業界との調整が難しくなっているが、とりわけ外資規制緩和の約束に関する部分で国内産業界との調整が難航している。

一方、具体的にどの業種で調整が難航しているかを特定するのは困難だ。一部の限られた業種というよりは、小規模サービス業種をいかに保護するかという観点で、関連業界団体の利害を調整している。また、フィリピン政府側としての作業は、いかに現行の憲法と国内法を改正することなく、第9パッケージへの約束を完了させるかという調整に苦心している状況にある。

問:いずれの加盟国でも国内調整の難しさはある。なぜフィリピンだけコミットできないのか。

答:ASEANの加盟国の中では、自由化の対象とする業種の中身をさらに細分化し、その一部の業種の開放をコミットすることで当該セクターの開放としている事例(見せかけの自由化)がみられる。フィリピンにおいては、こうした見せかけの自由化ではなく、開放を約束した業種については、運用面でも例外なく自由化すべく、調整を図っている。調整の遅れはその本気度の表れであり、運用面も含めた実態を評価してほしい。

インドネシアなどフィリピン以外のASEAN加盟国から、全業種に対する15%の範囲で認められている柔軟措置(自由化対象の例外扱い)の上限をさらに引き上げるように要請が出ていると聞いている。他の加盟国でも、現行の法体系の中でAFASへのコミットメントが難しくなってきているものと推察している。

<法改正に相当の時間と労力>
問:国内関係機関との調整に加え、フィリピン特有の事情があるのか。

答:フィリピンにおいては、例えば運輸業の場合、鉄道、航空、陸上輸送のそれぞれに別個の法規制が存在する。通信、金融、保険などもしかりだ。一部の業種(広告、教育など)では、憲法によって外資出資に対する制限措置が定められる。また、フィリピンは、消費者に直接影響を与えるようなサービス業については、外資参入に対し特に高いハードルを設けている。国内法の改正を伴わずに外資上限を引き上げられる業種は極めて限られているのが実態だ。こうした国内法との関係や改正の難しさは、ASEAN域内でも加盟国によって事情が異なるものと考えている。

そのため、AFASのパッケージに沿った自由化の実現には、国内産業界との調整に加え、立法機関との調整も必要となる。仮にAFAS対象の128業種を全て70%まで開放した場合、憲法や国内法に抵触する産業(法改正が求められる部分)がどの程度あるのかが問題だ。法改正には議会での承認が必要となるため、相当の時間と労力を要する。

サービス提供者の移動の自由化にも大きな課題が残る。エンジニアと建築士について資格の相互承認協定(MRA)が既に発効しているが、実際に有資格者の国境を越えた移動を運用面で自由化するには、受け入れ国側でさまざまな問題が発生する。フィリピンにおいても言語やビジネス慣習の問題により、有資格者が当該国でのビジネス面で求められる役割を果たせるかは疑問であり、スムーズな受け入れが進むとは考えにくい。

問:AECに向けて自由化が進展している分野はあるか。

答:2014年に入り、銀行分野への外資規制緩和(60%上限である現行規制を改正し、100%出資を認める)に関する法案が可決されている(注)。これはASEAN域内からの投資に限った措置ではないが、AECに向けた国内法制度整備とも位置付けられている。フィリピン中央銀行のイニシアチブによって進められたが、このように自由化に向けた着実な進展がみられる業種もある。

また、2国間FTAの関係でより高いレベルの自由化を実現している例もある。例えば日本・フィリピン経済連携協定(JPEPA)では、一部のサービス業種(金融サービス、保険など)で現行の外資規制を上回る自由化レベルの提供を約束している。サービス分野に対する投資規制の緩和の実態で比較すれば、2014年11月時点において、AFASでの枠組みよりJPEPAの方が自由化のレベルは高い。

(注)外国銀行の国内市場参入制限を撤廃する法令(共和国法第10641号)は2014年7月発効。その後、11月14日、金融政策委員会(Monetary Board)が施行細則(IRR)を承認したことにより、外国銀行の支店や100%出資法人設立の新規申請が可能となった。

(伊藤博敏、石川雅啓)

(ASEAN・フィリピン)

第9パッケージ合意・署名への道筋立つ−FTAのサービス貿易自由化に向けた取り組みの進捗(2)−

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