サービスや投資の自由化が着実に進展−経済相会議でのASEAN経済共同体の進捗報告(1)−

(ASEAN)

バンコク事務所

2014年09月02日

ASEAN経済相会議において、2015年中を期限とするASEAN経済共同体(AEC)の発足に向けた統合措置の進捗と今後の課題が議論された。今回の経済相会議の最大の成果として期待されていたサービス貿易の自由化については、ASEANサービス枠組み協定(AFAS)に基づく第9パッケージの合意に向け、フィリピンを除く9ヵ国による自由化約束が完了したことが確認された。また、ASEAN包括的投資協定(ACIA)修正のための議定書が署名された。経済相会議で報告されたAEC実現への取り組みの進捗について、2回に分けて紹介する。

<2013年中に実施すべき統合措置の82%が完了>
8月25日に開催された第46回ASEAN経済相会議では、AEC発足に向けた工程表であるAECブループリントの実施状況の評価、同ブループリントの後継となるAECポスト2015ビジョンの策定に向けた議論に加え、AECによる経済統合措置の骨格を成す物品貿易やサービス貿易、基準・認証、投資、中小企業、知的財産、官民連携などの主要分野別の課題、さらにはASEAN+1FTAや東アジア地域包括的経済連携(RCEP)などの対外経済関係の推進などが議論された。

8月28日に発表された共同声明によると、今回の経済相会議においてAECブループリントに対する包括的な成果指標として、2013年中の完了を目標とする全229項目の統合措置のうち、82.1%(188項目)が実施されたことが報告された(注)。また、2015年までの期間をターゲットとした既存のブループリントに代わり、2015年以降の10年間の新たな工程表となる「AECポスト2015ビジョン」を策定するため、高級事務レベルタスクフォースによる作業を進めていることが紹介された。

<サービス自由化第9パッケージはフィリピンを除いて合意か>
AECブループリントに従ったサービス貿易の自由化の進捗については、共同声明の中で「ASEANサービス枠組み協定(AFAS:ASEAN Framework Agreement on Services)の下、第9パッケージの自由化交渉の完了に向けた進展を評価する」と報告された。サービス貿易の自由化交渉におけるターゲットは、(1)WTOのサービス分類に従った全155のサブセクター(分野)のうち128の分野を対象に、加盟各国がASEAN域内企業からの出資を段階的に自由化すること、(2)第10パッケージの完了時(2015年中を期限)には、全ての業種において70%以上の外資出資を容認すること、の2点に集約される。その中で、今回の経済相会議では、第9パッケージの自由化(各国が最低104分野の開放を約束)に合意し、署名を完了することが最大の課題の1つとなっていた。しかし、採択された共同声明では、第9パッケージの合意・署名が完了したことは明記されず、第9パッケージの完了を前提とした各国別の自由化の約束表も公開されていない。

他方、タイ商務省・貿易交渉局(DTN)の8月26日付プレスリリースでは、8月25日のASEAN経済相会議に合わせ、第9パッケージの署名が行われ、タイが第8パッケージの下で2012年に開放を約束した81分野に加え、新たに25分野の開放を約束したことが公表されている。本件について、ジェトロがDTNの担当官に聴取したところによると、「8月25日にフィリピンを除くASEAN9ヵ国が第9パッケージまでの交渉完了に合意し、署名を完了させた」ことが確認された。ただし、各国が約束した開放分野の内訳や、分野ごとの業種別の開放状況を含む約束表の公開時期については「現時点では未定」とされた。

<各国の運用実態を入念に確認する必要>
第9パッケージの交渉完了に伴い、各国は128分野のうち、少なくとも104分野について自由化の約束を行う必要がある(表参照)。その内訳は、優先統合分野(29分野)ならびにロジスティクス関連分野(9分野)の38分野について70%まで、その他サービスに含まれる66分野について51%までの外資出資の容認であり、自由化の約束とともに分野別の詳細な約束表を公開することが求められる。

サービス貿易自由化交渉のスケジュール

なお、2012年時点で合意された第8パッケージに基づく自由化措置の実施状況では、各国政府が開放の対象となる分野の中身をさらに業種別に細分化し、その一部の自由化をもって当該分野の自由化とカウント・報告している実態が問題視されている。そのため、運用実態として、国によって自由化の達成度に大きなばらつきがあり、不平等問題も発生している。このため、各国へのサービス分野への出資を検討する企業は、当該国の約束表の中身を、現行の投資規制・規則と照合し、細分化された業種別の開放状況や出資上限を入念に確認する作業が求められる。

<包括投資協定修正のための議定書に署名>
経済相会議ではまた、域内の投資促進・保護、内国民待遇、パフォーマンス要求の禁止などを規定するASEAN包括的投資協定(ACIA:ASEAN Comprehensive Investment Agreement)の修正のための議定書が署名された。ACIAは2012年3月に、従来のASEAN投資促進保護協定およびASEAN投資地域枠組み協定を統合するかたちで発効した協定で、自由化の対象業種が定められ、各国のネガティブリスト(自由化の対象外となる業種リスト)が添付されている。今回の議定書への署名は、同協定に添付する各国のネガティブリストの対象を削減していくための手続き上のプロセスと位置付けられる。

(注)これまでAECブループリントの達成状況は、ASEAN事務局がブループリントを構成する全77措置の実施状況を段階的に採点するスコアカードによって評価してきた。しかし同スコアカードによる評価は、2008〜2011年の期間の達成状況(67.5%)が公表されて以降、公式に更新されていない。今回発表された成果指標は、同スコアカードとは異なる手法によって達成状況が評価されている点に留意する必要がある。

(伊藤博敏)

(ASEAN)

物品貿易の自由化は手続きの簡素化に焦点−経済相会議でのASEAN経済共同体の進捗報告(2)−

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