税制改革法修正案を上下院が承認、法人税率など引き上げ

(チリ)

サンティアゴ事務所

2014年10月01日

下院は9月10日、上院で税制改革法案に加えられた全ての修正を承認した。これにより、今後議会に提出される2015年予算案に、今回の改革による税収増分23億ドル(GDPの0.29%相当)が組み込まれることになった。上下院で承認された同法修正案の主な内容を紹介する。

<再投資収益基金を廃止、代替措置導入へ>
政府が4月1日に下院に提出した税制改革法案(2014年4月18日記事参照)は5月14日にいったんは下院で承認された。その後、上院で同法案に合計278件の大幅な修正が加えられたため、9月に下院で同法修正案の審議が行われていた。

同法案には再投資収益基金(FUT)の廃止や法人税率の引き上げ、外資法(DL600号)の廃止など企業活動に大きな影響を及ぼす内容が含まれており、経済界では法案提出当初から懸念の声が上がっていた。しかし、これらの内容を公約とするバチェレ大統領が2013年12月の大統領選挙決選投票で当選したことから、経済界の一部では織り込み済みとの意見もあるようだ。

企業の再投資に対して一部非課税措置を行うFUTは、2017年1月1日に廃止されることが決定した。累積しているFUTについては、2015年1月1日〜12月31日の1年間に限り、総合補完税または追加税の特別税率として32%が適用され、そこから既に支払われている第1カテゴリー所得税(法人税)の100%または65%が控除される。ちなみに、追加税はチリ国外居住者に対し賦課される。国内居住者の場合は追加税の代わりに総合補完税が賦課される。追加税、総合補完税ともに最高税率は35%となっている。

また、FUTに代わる投資インセンティブ措置として、「インテグラド方式」と「セミ・インテグラド方式」が導入されることになった。前者は企業の全収入に対し追加税が課税される方式、後者は配当・送金額に対してのみ追加税が課される方式で、企業はいずれかの方式を選択して納税することとなった。選択に際しては、その年の10〜12月の間に必要書類を国税庁(SII)に提出しなければならないが、その手続きが行われなかった場合は原則として、個人企業などはインテグラド方式、法人を株主とする株式会社などはセミ・インテグラド方式を選択したと見なされる。他方式への変更は、現在選択している方式に最低5年間とどまっていること、未納の税金を全額支払うことが条件となっている。

また、国外に投資を行った企業は投資先、投資額などの詳細を翌年の6月30日までにSIIに報告しなければならないことも、新たに決まった。

法人税については、現行税率20%を2014年に21%、2015年は22.5%、2016年は24%に引き上げる。その後、インテグラド方式では2017年以降25%、セミ・インテグラド方式では、2017年に25.5%、2018年以降は27%となる。また追加税からの控除に関しては、インテグラド方式では法人税の100%が控除されるのに対し、セミ・インテグラド方式では65%のみの控除となっている。そのため、インテグラド方式の税額は全所得の35%(現行と同じ)であるのに対し、セミ・インテグラド方式では配当・送金を行った場合は44.45%と高率になる一方、配当・送金されなかった所得に対しては追加税が課税されない。ただし、チリと租税協定が発効している国へ送金する場合は同協定内容が適用されるため、法人税の100%が控除される。2017年までの移行期間における両方式それぞれの税率の推移は表のとおり。

両方式における税率の推移

<2017年からは環境税を賦課>
粒子状物質(PM)、窒素酸化物(NOx)、二酸化硫黄(SO2)、二酸化炭素(CO2)を排出する火力発電用ボイラーやタービンが単独または全体で50メガワット(MW)以上の発電能力を有する施設に対して、環境税を新たに賦課する。ただし、燃料としてバイオマスを利用する場合はCO2排出による課税の対象外とする。適用開始は2017年からとなっている。

4月に政府が提出した法案ではディーゼル車輸入時の追加税賦課が盛り込まれていたが、同法修正案ではガソリン車およびディーゼル車の新車販売に対し、NOx、燃費、車両価格に応じた追加税を賦課することになった。追加税の算出に必要な車種ごとのNOx排出量(グラム/キロメートル)、都市部における燃費(キロメートル/リットル)および販売価格は運輸通信省が定め、SIIに通知する。この追加税の適用開始時期は運輸通信省の通知内容が官報に掲載された30日後からとされ、2015〜2017年の間に毎年税額〔UTM(注)建て〕が段階的に引き上げられる。ガソリン車の場合は車両価格の1〜2%、ディーゼル車の場合は8%を超える可能性もあると試算されている。

ただし、付加価値税(IVA)が支払われているミニバス(運転手用も含め9席を超えるもの)、タクシー、トラック(最大有効積載量が2トン以上)、バンなどは課税の対象外とされている。

<たばこやアルコール飲料の課税も強化>
たばこ税、非アルコール・アルコール飲料税の税額や税率も、税制改革法の発効と同時に引き上げられる。たばこの場合、特別税額を8倍に引き上げ、従価税率を60.5%から30%に引き下げられる。これにより、たばこ1箱(20本入り)当たりの特別税額は109ペソ(約20円、1ペソ=約0.18円)から870ペソとなり、現在1,500ペソで販売されている1箱の価格は2,060ペソとなる。

非アルコール飲料に対する追加税率は現行の13%から10%に引き下げる。ただし、砂糖の含有量が高い(240ミリリットル当たりの砂糖含有量が15グラムを超える)非アルコール飲料の場合は18%に引き上げられる。

アルコール飲料に関しては、ワイン、スパークリングワイン、シャンパン、ビールなどの追加税率は15%から20.5%に、ピスコ(ぶどうで作った蒸留酒)、ウイスキー、そのほかの蒸留酒などは27%から31.5%に引き上げられる。

<外資法廃止後の新制度を提案へ>
2016年1月1日以降の外資法(DL600号)の廃止について、これに代わる対内直接投資に関する新制度や機関設置のための法案が2015年1月31日までに議会に提出されることも同法修正案に盛り込まれている。ルイス・フェリペ・セスペデス経済相は9月8日、新制度・機関に関する提案を行うため、さまざまな分野の専門家で構成される委員会のメンバー13人を発表し、9月15日に同委員会の第1回会合が開催された。同会合は今後5回開催の予定で、1月までに提案が行われる見込みだ。

(注)UTMとは、月間課税単位(Unidad Tributario Mensual)を意味し、2ヵ月前の消費者物価上昇率に応じて毎月改定されている。2014年9月の1UTMは4万2,304ペソ。

(堀之内貴治、小竹めぐみ)

(チリ)

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