法人税率引き上げなどを含む税制改革法案を下院に提出−外資法の廃止も−

(チリ)

サンティアゴ事務所

2014年04月18日

バチェレ大統領は4月1日、下院に税制改革法案を提出した。同法案は緊急案件に指定されており、政府は5月21日までの承認を期待している。また、アレナス財務相とロレンジーニ下院財務委員長は、2015年予算案の審議に税制改革の成果が反映されるよう9月18日までに同法案の公布を目指す意向だ。同法案には、大統領選の公約になかった砂糖入り非アルコール飲料の税率引き上げや国税庁(SII)の権限強化などが含まれており、議論を呼びそうだ。

<法人税率を25%へ段階的に引き上げ>
政府は今回の税制改革によりGDPの約3%に相当する82億ドルの増収を見込んでおり、増収分は教育改革・社会開発プロジェクトや財政赤字の解消に充てる予定だ。おおむね2013年の大統領選挙時の公約に沿って、以下の改革案が提案されている。

○法人税(第1カテゴリー税)率の引き上げ
現行税率20%を2014年に21%、2015年に22.5%、2016年に24%、2017年に25%と段階的に引き上げる。

○再投資収益基金(FUT)の廃止
企業の再投資に対して一部非課税措置を行うFUTを2018年に廃止する。政府は、課税所得が7,600万ペソ(約1,368万円、1ペソ=約0.18円)を下回る企業(全体の95%が該当)への影響はないとしている。累積しているFUTの取り扱いに関しては、これまでの規則が継続して適用される。SIIによると、FUTがスタートした1980年代以降のFUT累積額は2,470億ドルを超えている。

○即時償却制度の導入
2014年から即時償却制度を導入し、年間売上高が2万5,000UF(約1億円、注1)を超えない企業は1年目に一括して固定資産の減価償却を行うことができる。

<代わりの投資刺激策などを検討>
○外資法(DL600号)の廃止
2016年1月1日以降、DL600号に基づく投資契約の締結を行わない。既に契約済みの案件に関しては、引き続き現行法が適用される。DL600号による最低投資額は原則500万ドル以上であることから、鉱山開発など大型案件の多くがDL600号に基づき、政府機関であるチリ外資委員会との間で投資契約が締結されている。DL600号の廃止はチリの主要産業の1つである鉱業分野に大きな影響を与えかねないことから、ウィリアム鉱業相は、DL600号に代わる投資刺激策や国営銅公社(コデルコ)への支援などを検討中とコメントしている。

○個人所得税(第2カテゴリー税)率を引き下げ
月収が120UTM(約90万円、注2)〜150UTMおよび150UTMを超える個人に対する所得税率を、現行の35.5%および40%から、2017年には一律35%に引き下げる。ただし、大統領、大臣、次官、上下議員に対しては5%の追加税を適用し、現行税率40%が維持される。

○住宅建設時の付加価値税(IVA)税額控除基準額の引き下げ
現行の基準額4,500UF未満から、2016年には2,000 UF以下に引き下げる(政令910号第21条の修正)。

○印紙税率の引き上げ
現行税率0.4%を2016年から0.8%とする(政令3475号第1〜3条を修正)。アレナス財務相は、同税は金融サービスに対するIVAの代替と位置付けているものの、小規模企業に対しては、法20259号第3条によりIVAの支払いから同税額分が差し引かれるため、影響はないと述べている。

○環境保護関連税の導入・強化
(1)粒子状物質(PM)、窒素酸化物(NOx)、二酸化硫黄(SO2)、二酸化炭素(CO2)を排出する火力発電用ボイラー・タービンへの課税
50メガワット以上の発電能力を有する火力発電所に対し、排出量に応じて課税する。チリ全体では約500基が課税対象となる。OECD諸国での導入事例に基づき、クリーンエネルギー利用への転換を喚起するのが目的だ。

(2)ディーゼル車輸入時の追加税賦課
1台当たり540UTMを都市部における燃費(キロ/リットル)で割った額の追加税を賦課する(例:燃費10キロ/リットルの場合、税額は54UTM)。ただし、運転手を含む10人以上の人員輸送用車両、有効積載量が2トンを超えるトラック・バン、特殊車両は課税の対象外となっている(政令825号第46条の修正)。チリ自動車産業協会(ANAC)の調査によると、2013年の同国自動車市場でのディーゼル車のシェアは約25%で、そのうちの85%が今回の追加税賦課の対象になると見込んでいる。国内の自動車販売店の間では早くも、税額が高過ぎるとの批判が出ている。

<砂糖入り非アルコール飲料に5%の追加税>
○砂糖入り非アルコール飲料、アルコールを含む飲料への追加税賦課
砂糖含有量が高い非アルコール飲料に対し5%の追加税を賦課し、税率を現行の13%から18%に引き上げる。アルコールが含まれている飲料に対しては18%を課税し、さらにアルコール度数に応じて0.5%の従価税および純アルコール含有量1リットルにつき0.03UTMの追加税を賦課する(IVA法第42条の修正)。アレナス財務相は、これら飲料への課税強化は過剰摂取による健康への悪影響を予防するのが目的と説明している。

○租税回避および脱税行為の防止(SIIの権限強化)
(1)租税回避および脱税行為の防止規則を税法に追加する。
(2)個人の電子取引(クレジットカード、デビットカードなど)による購入データへのアクセス権をSIIに与える。

<業界団体は法案に懸念を表明>
この税制改革法案に対して、日本の経団連に相当する生産商工連合(CPC)傘下の各業界団体は、4月7日の下院財務委員会で懸念を表明した(表参照)。

主要業界団体の税制改革法案に対する主な懸念事項

全国鉱業協会(SONAMI)は、DL600号に代わる政策を大統領および下院財務委員会に提言する予定だという。

その他詳細は、チリ政府および下院のウェブサイトで閲覧可能となっている。

(注1)UF:消費者物価指数の変動率に応じて調整されるインデックス。 Unidad de Fomentoの略。毎月9日に発表され、翌10日から翌月9日まで適用される。2014年4月1日の1UFは2万3,610.77ペソ。
(注2)UTM:月間課税単位(Unidad Tributario Mensual)を意味し、2ヵ月前の消費者物価上昇率に応じて毎月改定される。2014年4月の1UTMは4万1,169ペソ。

(堀之内貴治、小竹めぐみ)

(チリ)

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