物品貿易の自由化は手続きの簡素化に焦点−経済相会議でのASEAN経済共同体の進捗報告(2)−
バンコク事務所
2014年09月03日
2015年のASEAN経済共同体(AEC)発足に向けた物品貿易の自由化措置として、原産地証明の自己証明制度導入に向けた2つのパイロットプロジェクトが運用されている。ASEAN経済相会議では、カンボジアがミャンマーとともに第1パイロットプロジェクトに参加する方針を正式に表明した。物品貿易関連では、ASEANシングルウインドー(ASW)の構築や非関税措置・障壁(NTM/NTBs)の撤廃に向けた取り組みの進捗も報告された。連載の後編。
<カンボジアの決定は日系企業の要望に合致>
ASEAN加盟国間では現在、ASEAN物品貿易協定(ATIGA)を活用する際の原産地証明取得手続きを、輸出者の自己申告で行う自己証明制度の導入に向け、2種類のパイロットプロジェクト(第1、第2)が試験的に導入されている。2015年末のAEC発足までに、全加盟国間で統一的な自己証明制度の採用を目指しており、2014年8月現在、第1パイロットプロジェクトはシンガポール、マレーシア、ブルネイ、タイの4ヵ国、第2パイロットプロジェクトはフィリピン、インドネシア、ラオスの3ヵ国が参加して運用されている(2013年11月5日記事、11月6日記事参照)。
8月25日に開催されたASEAN経済相会議の共同声明では、第1パイロットプロジェクトにカンボジアとミャンマーが、第2パイロットプロジェクトにタイ(第1と第2の両方に参加)とベトナムが新たに参加することが確認された。なお、それぞれのプロジェクトに登録されている認定輸出者は、2014年8月時点で第1パイロットプロジェクトが302社、第2パイロットプロジェクトが14社と報告されている。
これまで、いずれのプロジェクトにも参加していないミャンマー、ベトナム、カンボジアのうち、ミャンマーは第1プロジェクト、ベトナムは第2プロジェクトに参加する意向を既に表明していたため、態度を表明していなかったカンボジアの動向が注目されていた。カンボジアが第1プロジェクトへの参加を正式に表明したことにより、第1プロジェクトの参加国が6ヵ国となった。
なお、在ASEAN日系企業の間では、2015年末までの統一制度の導入に向け、利用企業の間口が広く、手続き上の制約が少ない第1プロジェクトをベースとした制度導入への期待が高い。そのため、在ASEAN日本人商工会議所連合会(FJCCIA)によるASEAN事務局への要望書などを通じ、第1プロジェクトをベースとした制度を採用するよう継続的に働き掛けを行っている。またFJCCIAからの要望に対し、ASEAN事務局は2014年6月、「ASEANワイドの自己証明制度導入に向け、ASEANは日本企業からの要望(提案)を十分に考慮し、現行のパイロットプロジェクトの評価を行う」と回答している。こうした状況の中、今回のカンボジアの決定が、在ASEAN日系企業の要望する第1プロジェクト推進への追い風となることが期待される。
<シングルウインドー構築へ第2弾プロジェクト>
物品貿易関連ではそのほか、貿易・通関手続きに係るASWの構築に向けた取り組みの進捗が報告された。ASWは、各国において電子化・一元化された貿易・通関手続きの加盟国間での標準化を図るとともに、加盟国間での貿易関連情報の相互交換を実現する枠組みだ。カンボジア、ラオス、ミャンマーを除く7ヵ国の参加により既に実施されたパイロットプロジェクト(第1弾)では、ATIGAの原産地証明書(フォームD)と通関申告書の相互交換が試験的に行われている。
今回の経済相会議の共同声明では、原産地証明書と通関申告書以外の通関関連書類をデータ交換の適用対象に含む第2弾のパイロットプロジェクト(本格版)を早期に運用し、全加盟国でのASW導入につなげる方針が確認された。なお、ASEAN事務局によると、第2弾のパイロットプロジェクトは2014年第3四半期の試験運用開始を目指しており、運用に向けた準備・要件の詳細を記した仕様書の内容を精査している段階にあるという。
他方、現状においてはナショナルシングルウインドー(NSW)と呼ばれる加盟各国内での貿易関連書類・手続きの電子化・一元化に課題が残る。多くの国では、税関と他省庁が別個にシステムを有して相互にリンクしていない状況にあり、マニュアルによる作業と関係機関をつなぐ手間がユーザー側で発生する。また、国ごとの電子化・一元化の進展にも大きなばらつきが生じている。ASW導入の前提として、各国がNSWを早期に導入し、運用面での課題を改善する取り組みの推進が求められる。
<ビジネス界が直面する非関税措置・障壁を特定>
AEC発足に向けたASEAN各国による取り組みの中で、とりわけ進出日系企業の関心が高いNTM/NTBsの撤廃に向けた取り組みについては、共同声明の中で、(1)ASEAN NTMsデータベース(ASEAN事務局ウェブサイト上に公開)に登録された案件を国連貿易開発会議(UNCTAD)のNTM分類に従って再分類すること、(2)ASEAN各国内でNTM/NTBsの削減・撤廃に取り組む機関(省庁間の横断的組織)を設立すること、(3)ビジネス界が直面する具体的な事案を取りまとめた「NTM/NTBs事例マトリクス」(Matrix of Actual Cases of NTM/NTBs)に掲載された事案の解決に向けた取り組みを強化すること、が約束された。
近年、ASEAN域内では、国内産業と競合しない製品も対象に含めたアンチダンピング税の賦課・調査開始の乱発、新たな強制規格・輸入ライセンスの導入、船積み前検査の強化など、保護主義的な措置が多数報告され、日本と各国とのビジネス環境整備委員会などの場を通じ、これらの措置に対する改善要望が繰り返し提出されている。また、FJCCIAとジェトロが2014年3月、ブルネイを除くASEAN9ヵ国の進出日系企業を対象に実施したASEAN非関税障壁調査(有効回答188社)では、貿易を阻害する各種措置の中でも、とりわけ「不要な船積み前検査」などが問題視されている。調査結果を受け、FJCCIAからASEAN事務局に対して「検査実施の必要性を踏まえた対象品目の見直しや二重検査防止の徹底」が要望されている。2015年に向けて、上述のNTM/NTBs事例マトリクスのような取り組みを通じ、産業界にとっての具体的障害をあらためて特定するとともに、それを除去する有効な措置の提示が望まれる。
(伊藤博敏)
(ASEAN)
サービスや投資の自由化が着実に進展−経済相会議でのASEAN経済共同体の進捗報告(1)−
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