原産地証明書発給手続きの簡素化をアピール−AFTA自己証明制度のセミナー・ワークショップ開催(1)−

(ASEAN、カンボジア、タイ、マレーシア)

バンコク事務所

2013年11月05日

ASEAN自由貿易地域(AFTA)原産地証明の自己証明制度導入のための準備が、各国で進められている。しかし、試験導入としてシンガポール、マレーシア、ブルネイおよびタイの4ヵ国で実施されている第1パイロットプロジェクト(SC1)は、利用する民間企業側の認知度が低く、活用実績は伸び悩んでいる。2013年内にも開始が見込まれる第2パイロットプロジェクト(SC2)との調整も、今後、難しい局面を迎えそうだ。SC1の運用状況と課題、2015年の本格導入を控えた各国政府の動向などについて2回に分けて報告する。

<日系企業や当局の担当者が受講>
ジェトロ・バンコク事務所、ASEAN日本人商工会議所連合会(FJCCIA)および日ASEAN経済産業協力委員会(AMEICC)事務局は10月22日、自己証明制度のメリットをアピールし、第1パイロットプロジェクト(SC1:Self-Certification Pilot Project 1、注)の利用を促進するため、バンコクで日系企業向けセミナーを開催した。また10月24〜25日には、カンボジア・プノンペンで、商業省ならびに税関職員向けに、制度構築のためのワークショップを実施した。

<2つの制度の調整が難問>
現在、ASEAN各国からの域内向け輸出がAFTAの特恵税率の適用を受けるためには、毎回の輸出時に、輸出者が政府当局などから原産地証明書(フォームD)を取得。これを輸入者に送付し、輸入者がそれを輸入国の税関に提示して貨物を通関する手続きが求められる。しかし、フォームD発行当局の発給事務は平日・日中に限られるため、タイミングによっては発給までに数日を要することも多い。また近年は、ASEAN域内の海上輸送網の整備に伴う輸送時間の短縮により、近隣諸国向けの輸送においては貨物の方が早く到着してしまい、通関の際にフォームDの提示が間に合わない事例も散見される。

これに対し、ASEANが導入を目指している自己証明制度は、フォームDの発給を受ける代わりに、輸出者自身がインボイスなどに自ら申告の文言を記載すれば、輸入国側でAFTA特恵税率の適用を認めるもの。つまり、同制度を導入することで、第三者による原産地証明書の発給を待たずに迅速に域内貿易が行えるようになり、域内に広範な生産ネットワークを構築している日系企業にも大きなメリットをもたらすことが期待される。ASEAN各国は2015年末のASEAN経済共同体(AEC)創設までに、全加盟国間で統一的な自己証明制度を採用するための準備を進めている。その試験導入と位置付けられているのが、2010年11月に運用が開始されたSC1だ。2013年10月末時点で、シンガポール、マレーシア、ブルネイおよびタイの4ヵ国で運用され、ミャンマーもSC1への参加の意向を表明している。

他方、ASEAN域内で統一的な制度を導入する上での課題は、加盟国の間で異なる制度の導入を主張する2種類のグループが存在することだ。SC1への参加を見送ったフィリピン、インドネシア、ラオスが主導するかたちで、ルールの異なるSC2についても覚書(MOU)が交わされ、運用開始に向けた準備が進められている。この動きに対し、既にSC1に参加するタイが同時にSC2へも参加することを表明(2013年3月6日記事3月7日記事参照)。さらに、ベトナムもSC2参加の意向を示しており、計5ヵ国の参加により運用が開始される見込みとなっている。2015年中の制度統一化に向けては、SC1とSC2の参加国がそれぞれ、互いの制度導入を主張し、調整が難しくなる局面も予想される。

<パイロットプロジェクトへの参加企業は限定的>
セミナーで講演したASEAN事務局貿易促進部のパナダ・ダサナンダ氏によると、2013年10月末時点で、SC1に参加する企業はタイが83社、シンガポール41社、マレーシア118社、ブルネイ10社の計252社。このうち、在タイ企業の自己証明制度を活用した輸出額は、2012年が1億5,486万ドル(申告件数は2,401件)、2013年1〜8月は1億7,053万ドル(2,301件)となっている。制度の活用実績は、輸出金額、インボイス件数ともに徐々に拡大しているものの、AFTAを活用した輸出額が年間約150億ドルに達することに比べると、活用状況は限定的だ。とりわけ、タイからの輸出ではマレーシア向け輸出での活用が9割近くを占めており、SC1への参加国が限られていることが活用上の阻害要因になっている状況がうかがえる。

また、ダサナンダ氏は導入が遅れているSC2の状況について、「2013年前半での運用開始を目指していたが、参加国の国内手続きの問題で遅れが出ている。2013年中の運用開始を目指して準備が進められている」と説明した。また、ASEAN域内で2015年中に統一的な自己証明制度を導入するためには、2014年中には加盟国間で、ルールや手続きに関する大枠の方向性に同意する必要があるとの見解を示し、そのためには「多くの企業になるべく早い段階でパイロットプロジェクトに参加いただき、より使いやすい制度にするための改善点を提案してほしい」と呼び掛けた。

ASEAN事務局が説明した、SC1とSC2による自己証明手続きの主要な相違点については表のとおり。SC2においては、a.そもそも制度を利用できる認定輸出者の資格が製造業者のみに限られること、b.申告書類が商業インボイスに限られること(第3者発行のインボイスの場合は制度を利用できない)、c.申告する輸出品目のリストをASEAN事務局に事前通知しなければならないこと、d.署名者の人数が1社当たり3人までに限定されること、などが規定されており、SC1に比べて利用できる企業の間口が狭く、手続き面での制約も強い内容になっている。

AFTAの自己証明制度導入に向けた第1パイロットプロジェクト、第2パイロットプロジェクトの主な相違点

前述のとおり、2013年10月末時点でどちらのプロジェクトにも参加をしていないミャンマー、ベトナム、カンボジアのうち、ミャンマーはSC1、ベトナムはSC2へ参加する意向を表明している。それぞれのプロジェクト参加国が、制度統一化に向けた交渉を優位に進めるための多数派工作を図る中、態度を正式に表明していないカンボジアの動向にも注目が集まっている。

(注)パイロットプロジェクトは以前は「PP1」「PP2」と略されていたが、最近は「SC1」「SC2」と略すことが多くなっている。

(伊藤博敏)

(タイ・マレーシア・カンボジア・ASEAN)

企業が使いやすい制度を要望−AFTA自己証明制度のセミナー・ワークショップ開催(2)−

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