事前確認制度の活用などで推定課税のリスク回避を−移転価格税制セミナー開催(2)−

(ベトナム)

ハノイ事務所

2014年08月20日

ベトナムにおける移転価格税制セミナーの後編。最近の動向について、税務総局の担当官が解説した。2012年の法律改正以降、移転価格調査は強化される傾向にある。企業としてはリスク回避の一環として、事前確認制度の利用も検討する余地があるという。

<8割以上の企業が期限内に申告>
ベトナムにおける移転価税制の最近の動向について、ベトナム税務総局で移転価格を担当するグエン・ティ・ハイン氏が解説した。

移転価格税制申告の順守状況について、2013年は申告対象企業4,098社のうち、期限内に申告した企業は3,468社で全体の84.6%。また、関連者間取引に関する申告は、2012年までは独立企業間価格の算定がなされていない、または規定どおりの算定が行われていない企業が多かったが、2013年は企業自らが正確な方法で申告を行い、その質も向上した。これは、2012年11月20日付税務管理法の改正法(法律21/2012/QH13号)により、違反行為や申告遅延に対する罰則が強化され、当局が移転価格税制の調査に力を入れたことが影響している。移転価格の調査機関には、税務総局を含む税務当局のほか、政府調査委員会や財務省調査委員会、公安(公安省と市・省レベルの公安局)なども含まれ、特に最近は公安が移転価格の調査に高い関心を持つようになっている。

移転価格の税務調査対象となる企業の特徴としては、主として以下のような点が挙げられる。

○関連者との売買取引の頻度が高い、または取引額が大きい企業
○同じ業種・経営条件の企業と比較して利益率が低い企業
○優遇税制対象企業の関連者または租税回避地にある関連者と取引を行った企業
○独立企業間価格の算定時に適切でないデータを使用した企業
○比較対象取引に架空の取引を使用した企業
○通達66号の規定を順守しなかった企業

<25件の移転価格調査で約350億円の追徴課税>
税務総局では、2013年から2014年上半期にかけて、繊維、履物、その他製造業や不動産などの業種に属する100社に対する移転価格調査を行い、これまで25件の調査が完了、合計約7兆ドン(約350億円、1ドン=約0.005円)の追徴課税を行った。移転価格調査において最も追徴額が大きい案件としては、2012年に南部ドンナイ省の企業が1兆ドン余りの増額更正処分を受けた例がある。日系企業は、調査終了後に不服申し立てを行うケースが多いが、当局としては調査実施時に議論を行って認識の共有化を図ることが望ましいと考えている。

企業へのアドバイスとして、関連通達・規定などを十分に理解した上で「文書化」を行うこと、期限内に申告を行うとともに、申告内容に誤りを発見した場合は速やかに修正申告を行うことなどを強調した。また、質疑応答でのハイン氏の回答は以下のとおり。

問:物流業における移転価格調査の例はあるか。

答:企業名などの詳細は公開できないが、これまでに数社の事例がある。

問:親子会社間以外での取引が移転価格調査の対象となることはあるのか。

答:通達66号第3条に規定された「関連者」には、一方の企業が他方の売上総額(製品の種類ごとに算出)の50%以上を占める場合や原材料の50%以上を供給している場合が含まれるため、こうした取引がある場合には調査対象になる。過去には、こうした取引を関連者間取引と認識しておらず、独立企業間価格の算定が不十分だったケースがあるので注意が必要。

<悪質と見なされれば刑事事件にも>
フェアコンサルティングベトナムの讃岐修治氏は、企業側が推定課税を受けるリスクを回避する方法として、事前確認制度(Advanced Price Arrangement:APA)の利用を検討する余地があるとした。APAは、自らの移転価格の算定方法が独立企業間価格の算定方法として適正であることについて、企業が税務当局に確認を求め、課税当局がその適否を決定する制度だ。税務当局が適正と確認した算定方法により国外関連取引が行われる限りにおいては、移転価格課税が行われることはない。一方で、膨大な事務作業にもかかわらず税務当局が企業の望む算定方法を認めない場合もある。

移転価格税制については昨今、調査が強化されており、対策を怠ると多額の追徴課税を科されるばかりではなく、事案が悪質と判断される場合には、刑事事件として立件されたり企業名が公表されたりするリスクも伴う。一方、関連規定が複雑で実務面では専門性も要求されることから、専門家と相談の上、十分な対策を進めることが重要だ。

セミナー会場の様子(筆者撮影)

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