独立企業間価格の算定方法に関する「文書化」がポイント−移転価格税制セミナー開催(1)−
ハノイ事務所
2014年08月19日
ジェトロは7月30日、ベトナム日本商工会(JBAV)と共催で「ベトナム移転価格税制の動向と日系企業が取るべきリスク対策について」と題するセミナーをハノイ市内で開催した。税務調査が厳格化している中で、この問題に対する進出日系企業の関心は高く、出席者は122人に上った。概要を2回に分けて解説する。前編は、移転価格税制の概要と「文書化」のポイントについて。
<関連者間の取引を行う企業に「文書化」を義務付け>
セミナーでは、フェアコンサルティングベトナム(Fair Consulting Vietnam)の讃岐修治氏が「移転価格税制」の概要について解説した。
移転価格税制とは、親会社・子会社など「関連者」間の取引価格(移転価格)が、関連者以外の独立企業間価格と異なるために課税所得が減少している場合に適用される。税務当局が関連者間の取引を独立企業間で行ったものと見なして所得計算を行う制度だ。具体的には、ベトナムにある日本法人の子会社が、その親会社に対して製品を独立企業間価格より安価で販売したり、親会社から原材料を独立企業間価格より高い価格で仕入れたりすると、ベトナム法人の利益が目減りし、ベトナム側の法人所得税収が減少する。そこで、ベトナムの税務当局は当該取引を独立企業間で行われたものとして法人所得税の計算を行うこととなる(図参照)。
関連者の定義については、財政省通達66/2010/TT−BTC号(以下、通達66号)の第3条に13類型が列挙されており、a.一方の企業が他方の資本の20%以上を直接または間接に所有している場合、b.双方の企業が第三者によって直接または間接に資本の20%以上を所有されている場合、などが該当する。
通達66号の第7条2項では、関連者間取引を行う企業は、当該取引で扱われる製品に関し、独立企業間価格の決定方法を算定する根拠となる文書を整備し、税務当局から要請があった場合には提出する、「文書化」の義務が規定されている。また、税務当局から文書の提出要求があった場合には、企業は書面で要求を受けた日から30日以内に提出しなければならない(ただし、合理的な理由がある場合には最大30日間の延長が認められる)。この場合、当該文書の提出要求に応じない、または当該文書の内容が算定根拠に関する合理的な説明となっていない場合は、独立企業間価格に基づく推定課税を受けるリスクが高まる。
<ポイントとなる独立企業間価格の算定>
この独立企業間価格の算定には、(1)独立価格比準法、(2)再販売価格基準法、(3)原価基準法、(4)取引単位営業利益法、(5)利益分割法、の5つの方法が定められており、企業自らが最適な方法を選択する必要がある。選定の際には、取引対象・役務の特性、契約条件、経済環境、経営戦略、当事者の機能や負担するリスクなど諸条件を併せて勘案することとなる。ただ、「基本三法」と呼ばれる(1)〜(3)については、他社の取引価格事例など入手困難なデータを要することから、実務上は利用が制約される。そのため、利用が多いのは(4)で、これは、国外関連取引の利益水準を、比較対象取引(独立企業間価格の算定の基礎となる取引)の利益水準と比較する方法だ。実務的には、企業財務データベースなどを基に比較対象取引の利益率の幅を抽出し、それと国外関連取引による利益率を比較して適正な利益率を決定し、適正な利益率に基づいた取引価格を算定することになる。
<「文書化」に当たっては親会社との連携が重要>
続いて、企業にとって実務上重要な「文書化」について、フェアコンサルティングの萩谷忠氏から説明があった。最もポイントとなるのは、海外拠点同士の独立企業間価格決定方法における整合性などの観点から、日本の親会社と連携して作業を進めることだ。文書化の内容は表のとおり。
特に特許、ノウハウなど無形資産に関するロイヤルティー料率の算定と技術者などの派遣に係る独立企業間価格の算定においては注意が必要となる。前者においては、国外関連者に支払っているロイヤルティー料率が、取引単位営業利益法によって算出された適正な営業利益率の範囲に収まるかどうか確認する必要がある。また後者については、親会社の子会社に対する収益責任の有無や、非関連者からの技術者派遣への代替可否など、親会社と子会社の取引関係によって算定方法の考え方が異なるため、慎重な検討を要する。
(竹内直生)
(ベトナム)
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