原産地証明書へのFOB価格記載が不要に−ASEAN物品貿易協定とAKFTAに適用−

(シンガポール、日本)

シンガポール事務所

2014年06月10日

シンガポール税関は6月1日、ASEAN物品貿易協定(ATIGA)とASEAN韓国自由貿易協定(AKFTA)の原産地証明書へのFOB価格記載を不要とする新フォームを発給した。これにより、両協定の原産地証明書では、これまで必須とされてきたFOB価格の記載が不要となり、FTAの利用促進やビジネス活動の円滑化につながると期待される。

<FOB価格の記載が貿易阻害の要因にも>
これまで、ATIGAとAKFTAでは、FTA利用時に各国税関や商業省など第三者機関から取得する原産地証明書にFOB価格を掲載することが義務付けられてきた。それぞれ、ATIGAの原産地証明書は「Form D」、AKFTAの原産地証明書は「Form AK」と呼ばれる。

原産地証明書へのFOB価格の記載については長年、日系企業などから撤廃を求める声が出されてきた。輸出国の輸出者(メーカーもしくは商社など)の輸出価格であるFOB価格の商品がそのまま輸入国の顧客に販売され、輸出者が顧客に発出するインボイス価格とFOB価格が一致している場合には問題はない。

しかし問題は、商品がいったん第三者に売却され、その第三者がこの商品を販売する場合だ。第三者は輸出者から購入した商品に利益を乗せた上で販売するため、原産地証明書に記載された価格との間に差異が生じる。この2つの価格を顧客が知り得た場合には、この第三者の利益率が明らかとなってしまい、円滑な取引を阻害することにもなる。

こうした取引は一般にリインボイスと呼ばれ、貿易取引で幅広く行われている。特に地域統括拠点が集中するシンガポールでは、地域統括拠点が域内のグループ企業などから商品を購入し、販売していることが多い。

<ATIGAとAKFTAで例外を除き実現>
シンガポール税関は5月23日に発出した通達(Circular No:09/2014)で、Form D、Form AKにおけるFOB価格の記載を不要とする新フォームを発表し、6月1日から発給した。具体的には、これまでそれぞれの原産地証明書の第9欄(Box 9)で数量情報とともにFOB価格の記載が義務付けられていたが、今後は付加価値基準を利用する場合を除き、数量情報の記載のみでよいと変更された。

ただし、上記のとおり、「付加価値基準を利用する場合を除き」と明記されている。これは適用されている複数の原産地規則のうち、完全生産基準、関税番号変更基準、加工工程基準を利用する場合にはFOB価格を記載する必要はなくなったが、付加価値基準を利用する場合には引き続き、FOB価格の記載が求められるとの意味だ。また、カンボジアとミャンマー向け輸出については、今後2年間、引き続きいずれの原産地規則を利用してもFOB価格の記載が求められる例外規定も盛り込まれている。

今回のFOB価格の記載義務の撤廃は、2013年8月に開催されたASEAN経済相会合、ASEAN・韓国経済相会合の合意に基づくもので、2014年1月1日に実現した。なお、6ヵ月の猶予期間があるため、シンガポールでは6月1日に新フォームが発給される運びとなった。また、上記の例外規定は、ASEAN域内、ASEAN・韓国間の交渉の結果として盛り込まれた。付加価値基準についてのみ引き続きFOB価格の記載を求める理由は、累積(FTA締結国の原産品である原材料をその他のFTA締結国で利用する場合は、同原材料を原産材料と見なす規定)を利用する際に価格情報が必要なことが理由とみられる。また、カンボジアとミャンマーについては、実施までの猶予期間を与えることが合意されたためだ。

ASEAN経済相会合で合意に至った背景には、在ASEAN企業からの要望がある。在ASEAN日系商工会議所の連合体であるASEAN日本人商工会議所連合会(FJCCIA)は、毎年行われているASEAN事務総長との対話の場において、長年にわたり原産地証明書へのFOB価格記載義務の撤廃を要望しており、こうした要望が実現したものと位置付けられる。

<AJCEPでも10月から記載不要に>
ASEANはATIGA、AKFTAに加え、日本、オーストラリア・ニュージーランド、中国、インドとそれぞれFTAを締結している。これらのFTAの中で、オーストラリア・ニュージーランドとのFTAでは、2013年8月の経済相会合でFOB価格記載義務を撤廃する方向で基本合意している。

日ASEAN包括的経済連携協定(AJCEP)では、ASEAN各国が発給する原産地証明書にFOB価格を記載することが義務付けられていたが、日本の外務省は6月2日、付加価値基準を利用する場合を除いて、同FTAの原産地証明書である「Form AJ」へのFOB価格記載義務を2014年10月1日から撤廃することを発表した(2014年6月10日記事参照)。これにより、日本側、ASEAN側双方で発行されるForm AJへのFOB価格の不記載化が実現することとなる。

一方、中国とインドとの間では、FOB価格記載義務の撤廃についての合意はなされておらず、引き続き記載が求められる。ASEAN中国FTAで適用されている原産地規則は付加価値基準のみ、ASEANインドFTAでは付加価値基準と関税番号変更基準の双方を求める併用型が採用されている。いずれにおいても付加価値基準の利用が義務付けられていることから、FOB価格記載義務撤廃の実現は容易ではないとみられる。

(椎野幸平)

(シンガポール・日本)

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