AJCEPの原産地証明書のフォームが10月から変更−日本側の要望受け止め、FOB価格の記載が不要に−

(ASEAN、日本)

バンコク事務所

2014年06月10日

日ASEAN包括的経済連携協定(AJCEP)におけるASEAN側の原産地証明書のフォームが10月1日から変更される。新たなフォームでは、原産地基準として付加価値基準を採用する場合を除き、原産地証明書へのFOB価格の記載が不要となる。これまで、第三国を経由する仲介取引などにおいて、FOB価格の記載義務が自由貿易協定(FTA)利用の阻害要因になっていた面もあり、今回のフォーム変更は高まるユーザー企業のニーズに対応した措置といえる。

<付加価値基準採用の場合除き記載は不要>
日本政府(外務省)とASEAN事務局の6月2日付の発表によると、AJCEPの下、ASEAN各国で発給される原産地証明書「Form AJ」が改正され、2014年10月1日から適用されることとなった。フォームの改正は、3月20日にミャンマーで開催された「AJCEP第9回原産地規則に関する小委員会」において日本とASEAN間で合意されたもの。

今回の改正で、ASEAN各国では輸出製品の原産性を証明する際、その判定方法(基準)として付加価値基準(RVC: Regional Value Content、注)を採用する場合を除いて、フォームへのFOB価格の記載が不要となった。改正後のフォームは、外務省ASEAN事務局のウェブサイトで確認できる。AJCEPの原産地証明書は、第9欄(Box 9)に総重量またはその他の数量・価格(Gross weight or other quantity and value)を記載する方式となっているが、新フォームにおいては、同欄に「付加価値基準を利用する場合のみFOB価格を記載」(FOB only when RVC criterion is used)と明記されている。

AJCEPにおける原産地規則は、農産品など一部の品目に対して完全生産基準(WO)が採用されている一方、大半の工業製品については、関税番号変更基準(4桁レベル)もしくは付加価値基準(締約国間の累積で40%以上)の選択方式が取られている。すなわち、新フォームの運用が開始されれば、関税番号変更基準などの方法を用いて原産性の証明を行う場合にはフォームへのFOB価格の記載は不要となる。

なお、外務省の発表によると、今回の改正において、フォームの第9欄に記載されていた「net weight」の文言が削除されたが、ASEANと日本では仮に「net weight」と記載されたままの原産地証明書であっても受け付けることで合意している。

フォームの変更は6ヵ月間の移行期間をおいて適用されるため、加盟国は各国の裁量によって新フォームの発給開始時期を2015年4月1日まで延期することができる。さらに、カンボジアおよびミャンマー向け輸出については、適用開始から2年間、旧フォームによる扱いが継続され、引き続きFOB価格の記載が求められる。

<現地日系企業の要望に対応>
Form AJのFOB価格記載義務は、日本企業を含む多くのユーザーからFTA利用上の阻害要因として指摘されていた。とりわけ、第三国の商社などを介した仲介貿易の場合、輸入者は原産地証明書上に記載されたFOB価格(輸出国の出荷額)と仲介者が発給したインボイス(第三国インボイス)の双方を輸入通関の際の申告書類として用いることになるため、仲介者側にすれば、輸入者に自らのマージンが開示される事態が生じていた。そのため、一部の商社などからは「FTAを活用することによって仲介マージンが明示されてしまうのであれば、FTAを活用するメリットはない」との意見も出ていた。

また一部の輸入国税関では担当官の裁量によって、原産地証明書に記載されているFOB価格と仲介者を経由したインボイスの価格が異なることを理由に、特恵税率の適用を認めないケースも生じていた。

このようなビジネス上の実態から、ASEANでビジネスを展開する日本企業の間では、ASEAN日本人商工会議所連合会(FJCCIA)がASEAN事務局と毎年開催している対話の機会などを通じ、ASEANが締結する各種のFTA/EPAにおいて、原産地証明書のフォームからFOB価格の記載義務を撤廃するよう要望を続けてきた。この結果、2014年1月1日からASEAN物品貿易協定(ATIGA)とASEAN韓国FTA(AKFTA)で、FOB価格の記載義務が撤廃された。なお、運用の開始に当たっては、6ヵ月の猶予期間があるため、例えばタイでは7月1日から新フォームの発給が開始される。今回のAJCEPでのFOB価格記載義務の撤廃に至る一連の措置は、FJCCIAをはじめとするビジネス界や日本政府側からの要望をASEAN側が真剣に受け止め、運用の改善に取り組んできた成果といえる。

(注)輸出品の製造工程において、締約国間で付加された価値が一定の要求基準を満たした場合に、原産地品と認める方法。AJCEPにおいては、輸出製品の価値(FOB価格)のうち40%以上の価値(累積ベース)が締約国間で付加されれば、輸出国の原産品として認められる基準が多くの品目で採用されている。

(伊藤博敏)

(ASEAN・日本)

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