一時輸入時のIVA課税には企業認定制度の救済措置を導入へ−税制改正案が国会を通過−

(メキシコ)

メキシコ事務所

2013年11月20日

税制・社会保障制度改革法案が10月31日、国会を通過した。一時輸入への付加価値税(IVA)の課税は企業認定制度の救済措置が取られる見込み。また、非居住者への配当に追加税10%を課すとしていた当初案は配当源泉税に変わり、租税協定が適用可能となった。企業単一税(IETU)の廃止による法人所得税の一本化は、一方でマキラドーラオペレーション(保税委託加工)を行う企業にとっては増税効果を生むことになる。

<基礎食料品や医薬品へのIVA課税は見送り>
税制改正案は9月8日に国会に提出され、審議が行われてきた(2013年10月4日記事参照)。IVA分野では、当初案どおり基礎食料品・医薬品に対する課税が見送られた。低所得層への影響に配慮したかたちだ。そのほか、住宅関連や、私立学校の授業料にIVAを課税する案は反発が強く、今回は見送られた。

一方で、北部国境付近で用いられているIVA軽減税率(通常16%のところを11%)を16%に統一する内容はそのまま通った(表参照)。同地域に工場を持つ企業にとってワーカーの購買力の低下要因となり、賃金上昇圧力の懸念が残る。

税制改正の主な内容

影響が大きいとみられていた、「IMMEX、保税倉庫などの一時輸入に対するIVA課税」については、企業認定制度を設け、認定された企業はこれまでどおり保税輸入が可能となる。2014年中に制度の詳細が公布され、2015年から発効するとみられる。2014年中はこれまでどおりの保税輸入は続けられる見通し。IMMEXは、「輸出向け製造・マキラドーラ・サービス産業」を意味し、一定の要件を満たして登録すると、IVAなどを保税輸入することが可能なスキーム。工場の立ち上げ期などに設備、機材の輸入が集中して行われるケースでIVAの支払い繰り延べが可能だ。

<マキラドーラオペレーションの輸出義務改定>
所得税法改正案でもIMMEX分野が対象となっている。IMMEXプログラム登録企業の中には、a.部品と原材料を海外から購入し、加工した上で再輸出している企業(部材と製品の所有権が在メキシコ企業にある企業)と、b.外国企業から部品・原材料の貸与を受け、同様に外国企業から貸与された機械設備を用いて委託加工だけを行う企業(部材と製品の所有権は外国企業)の2種類がある。b.の企業が行うオペレーションを通常、「マキラドーラオペレーション」と呼ぶ。

このマキラドーラオペレーションには特別な課税ベースを用いることができる。操業に供される固定資産総額の6.9%と操業コスト総額の6.5%の大きい方か、または同省と事前に交渉して約定した特別な課税ベース(所得税法第216条BISで規定)を利用する。

今回の所得税法改正案では、このマキラドーラオペレーションの恩典を得るための輸出義務について、「マキラドーラの生産活動の売り上げは全てマキラドーラオペレーションから生じる必要がある」と規定した。

<企業単一税を廃止、所得税に一本化>
現行の税体系では法人所得税が2種類ある。伝統的な所得税(ISR)と、益金や損金をキャッシュフローベースで計算し、法人所得税に対するミニマムタックスとして機能する企業単一税(IETU)だ。2種類の計算を必要とし、企業にも評判の悪い制度だった。今回の改正案では、IETUを廃止し、ISRへの一本化が明記された。

ただし、当局としてもその影響で大幅な減収になることは避けたいところから、代わりに控除項目を少なくすることや、控除限度額を下げるなどして課税対象を広げる案となっている。例えば、社有車の損金算入限度額は現行17万5,000ペソ(約134万7,500円、1ペソ=約7.7円)だが、これを13万ペソに引き下げるとしている(レンタルの場合は1日当たり200ペソ)。また、特定報酬の損金算入限度を53%としている。特定報酬は、社会保険、残業代、貯蓄ファンド、年次ボーナス、休暇手当、労働者利益分配金(PTU)などにおいて受け取る側で課税されていないもの(個人所得税体系における非課税所得など)を指す。

また、前述のマキラドーラ企業は多くの場合、ISR上の課税所得にIETU税率17.5%を掛けた税額分のみ負担している(2011年10月18日記事参照)。IETUの廃止に伴い、マキラドーラ企業も他のメキシコ企業と同様にISR税率30%が適用されることとなる。

<配当源泉税10%を課税>
メキシコでは配当にかかる源泉税は、税務上の未処分利益(CUFIN)の枠内ではメキシコ国内向け、国外向けを問わず無税だ。CUFINを超えた場合も、法人税が未納となっている分について配当を行う側が法人税(30%)を支払えば配当が可能であり、源泉税はなかった。

当初の改正案では、非居住者への配当にかかる追加税として在メキシコ法人が10%の所得税を追加で納めるという案だったが、通過した案では配当源泉税10%と改めた。日本への配当の場合、日墨租税協定適用により0%または5%となる可能性がある(受領者である日本法人の株式保有状況による)。また、日本での税額控除はできないが、外国子会社益金不算入制度を利用して配当の95%を益金不算入とすることは可能だ。

(中島伸浩)

(メキシコ)

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