第三国市場に向けた日系企業との提携が活発に−欧州最新ビジネス動向セミナー(4)−
マドリード事務所・欧州ロシアCIS課
2013年12月25日
シリーズの最終回は、ジェトロ・マドリード事務所の加藤辰也所長の報告。2013年のスペイン経済は、第3四半期の実質GDPが10四半期ぶりにプラス成長に転じ、景気底打ちの兆しがみられる。マリアノ・ラホイ政権による構造改革政策が進む中、日本とスペイン両国企業の中南米など第三国市場での協業や提携の動きが活発化している。
<景気底打ちの兆しも>
スペイン経済は、2013年第3四半期の実質GDP成長率が0.1%となり、10四半期ぶりにわずかではあるがプラス成長に転じた。輸出・観光の好調が大きな要因となっており、欧州経済全体の底打ち感や製造業・設備投資の回復、個人消費の下げ止まり傾向もみられる。また、家計・企業・政府のバランスシートの調整も進んでいる。債務については、2008年以降、政府部門は急速に拡大したが、民間部門は、2011〜2013年に少しずつ改善傾向にある。
2014年については、政府はGDP成長率を0.7%と予測している。欧州委員会やIMFなどの予測はもう少し低いが、それでもいよいよ通年で、6年ぶりにプラス成長に転じると期待されている。外需の寄与度は依然として大きく、輸出も堅調が見込まれるが、内需面でも、個人消費や固定資本形成がプラスに転じると見込まれる。ただ、雇用の拡大や財政赤字削減の目標達成は困難な見通しだ。
スペイン経済の長期不調の根源ともいわれる住宅部門は、バブルの崩壊で販売件数、着工件数が縮小を続けており、回復の兆しはみられない。ただ、住宅価格はピーク時の約3割減まで落ち込んだが、価格低下に底打ちの兆しがみられる。不良債権の比率は過去最悪の12.7%(2013年9月)となり、不動産関連が占める割合も2006年の32.0%から2013年6月には65.5%と大幅に拡大しており、住宅バブル崩壊の後遺症の大きさを表している。
公的債務については、増加傾向が止まらず、2014年にはGDP比100%に近い値になると予測される。ただ、詳細をみると、市町村や自治州レベルでは減少傾向にある。また、最大の懸念事項である失業問題は根が深く、若者の失業率は高水準だ。長期失業者の増加も問題視されている。しかし、傾向としては減少に転じつつある。
<ラホイ政権の構造改革進む>
現ラホイ政権は発足から2年目を迎えている。1年目は(1)財政健全化、(2)労働市場改革、(3)金融再編・強化、の3本柱を実行してきた。財政面は3年連続の超緊縮策を実施したが、思ったように税収が伸びず、引き続き行う必要があるとみられる。また、労働面では集団解雇規制の緩和や正規解雇コスト引き下げなどにより、硬直的といわれる制度の改正を進めている。金融面では、EUの金融セクター支援を受けるなど、不良債権処理を加速させるなどしている。
こうした改革が一部順調に進んだことを受け、ラホイ首相は2年目の方針として持続的な再成長を目指すことを掲げた。具体的には起業・中小企業の支援や(市町村の)行政機構改革、電力システム改革などを打ち出している。また、年金改革にも着手する必要があるとの認識のようだ。2014年も増税や公務員の人件費削減など、緊縮財政に変わりはないが、教育や研究開発(R&D)への予算配分を多くすることで、十分とはいえないがめりはりをつけ、政府として成長重視の意思表示をしている。
<スペイン企業の強みは国外展開>
スペインでは、従来経常収支は赤字だったが、内需の低迷と輸出増大により、ここ数年は黒字化している。外国旅行者受け入れ数は2012年に過去最高を記録し、世界シェア4位となっており、この観光収入の拡大も要因となっている。輸出の主要品目としては、鉄道車両や産業機械、軍用機、風力発電機などの資本財のシェアが最大。そのほか、食料品や自動車、化学品、鉱物エネルギー、消費財などがある。近年、域外への輸出が好調で、域内のシェアは縮小傾向となっている。
主力産業の1つである自動車については、スペインは年間生産200万台程度の水準を維持しており、世界12位、欧州2位の自動車生産国だ。生産台数の9割を輸出しており、スペイン経済の根幹を支える。日系企業の進出・活動は近年でも活発で、例えば日産自動車は電気商用車の新モデルをスペインのバルセロナ工場で生産するとしている。
投資状況をみると、2012年は欧州債務危機の影響で対内投資・対外投資ともに引き揚げ超過となったが、金融再編や債務圧縮が進み、2013年は回復が見込まれる。内容としては、米国系の投資ファンドによるバッドバンクが抱える不動産・不良債権のバルク買いや、中国やメキシコなど新興国企業の買収もみられる。例えば、中国の海南航空集団はホテル大手NHグループに20%出資する、と2013年4月に発表した。
スペイン産業・企業の強みは、国外に活路を見いだすのが得意な点だ。1980年代から国外展開が活発で、業種としては特に交通インフラや水処理、エンジニアリング関連企業が多い。また、再生可能エネルギー分野でも、南アフリカ共和国の独立系発電事業者(IPP)調達プログラムの25%をスペイン企業が占めるなど、活躍が目立つ。この国外展開はリーマン・ショック、欧州債務危機以降、急速に拡大しており、スペイン証券取引委員会(CNMV)の統計によると、主要大手企業の海外売上比率は2007年の48.1%から、2012年には62.4%にまで増えた。
<日西企業が互いの強みを補完し第三国に展開>
日本企業のスペイン進出の手法としてはM&Aが主流となっている。最近の事例には、2013年10月にNTTデータがスペインのITサービス大手エヴェリスを子会社化し、スペインおよび中南米でのエヴェリスの存在感を活用して、市場開拓につなげるとしている。また、楽天は同月にインターネットショッピングモールを開設し、スペインでの電子商取引事業に本格的に乗り出した。
また、近年、日本とスペインの企業による、中南米をはじめ第三国での協業や提携の動きが活発になっている。例えば、2013年1月、三井物産が自動車部品大手ヘスタンプの米州事業に30%出資することを決定したほか、NECとテレフォニカによる中南米地域でのクラウドコンピューティング事業開始などがある。
<治安の悪化はみられず>
日本のメディアではデモやストライキの様子が重点的に取り上げられるため、危険なイメージを持たれているかもしれないが、景気悪化に伴う治安の悪化などはない。2007年と2013年の世論調査を比べると、スペイン人が問題と感じていることは、治安や移民、テロなどが大きく減り、逆に、失業や経済、腐敗、政治に問題を感じている人が急増した。
今後のスペインの経済動向を占う上でポイントとなるのは内需回復、雇用情勢(特に若者の失業率)の改善が進むかどうかだろう。そこで重要となるのが、政府の構造改革で、年金改革や医療制度などどこまで切り込むことができるか、手腕が問われる。
なお、日本とスペインは2013年に交流400周年を迎えた。ジェトロはスペインのカウンターパートであるスペイン貿易投資庁(ICEX)と2013年10月に覚書を締結した。今後も第三国連携をはじめ、双方の貿易・投資の促進を図るべく、協力強化を進める。
(伊藤裕規子、水野嘉那子)
(スペイン)
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