第3次メルケル政権が発足、閣僚ポストも決定
ベルリン事務所
2013年12月18日
社会民主党(SPD)の党員投票の結果、キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)との大連立が承認されたため、12月17日に第3次メルケル政権が発足した。SPDのガブリエル党首が経済・エネルギー相に就任し、エネルギーシフト(再生可能エネルギーへの転換)に意気込みをみせている。
<最大の関門「SPD党員投票」で大連立が承認>
9月22日に行われた連邦議会選挙(2013年9月26日記事参照)でCDU/CSUに次いで第2党となったSPDは、11月27日に合意した大連立(2013年12月4日記事参照)の是非について党員投票を実施。SPDは第1次メルケル政権でCDU/CSUと連立を組んだ際(2005〜2009年)、同党の多くの政策がCDU/CSUに取り込まれて、大幅に存在感が低下した苦い経験があり、大連立には慎重ではないかともみられていたが、12月14日の開票結果では76%の賛成多数(投票率77.9%)で政権参加が承認された。
<第3次メルケル内閣の顔ぶれ>
CDU/CSUはそれぞれの党幹部会で、既に大連立政権樹立を承認していたため、SPDの党員投票の結果を受け、12月17日に第3次メルケル政権が発足した。第3次メルケル政権の顔ぶれは以下のとおり(かっこ内は政党、前職など、年齢。*印は女性)。
首相:アンゲラ・メルケル(CDU、留任、59)*
副首相兼経済・エネルギー相:ジグマール・ガブリエル(SPD、党首、54)
外相:フランク・バルター・シュタインマイヤー(SPD、院内総務、57)
内相:トーマス・デメジエール(CDU、国防相、59)
司法・消費者保護相:ハイコ・マース(SPD、ザールラント州経済・労働・交通・エネルギー相、47)
財務相:ボルフガング・ショイブレ(CDU、留任、71)
労働・社会相:アンドレア・ナーレス(SPD、幹事長、43)*
食料・農業相:ハンス=ペーター・フリードリッヒ(CSU、内相、56)
国防相:ウルズラ・フォン・デア・ライエン(CDU、労働・社会相、55)*
家族・老人・婦人・若者相:マヌエラ・シュベーズィヒ(SPD、メクレンブルク・フォアポンメルン州SPD副党首、同州労働・平等・社会相、39)*
保健相:ヘルマン・グローエ(CDU、幹事長、52)
交通・デジタルインフラ相:アレクサンドル・ドブリント(CSU、幹事長、43)
環境・自然保護・建設・原子力安全相:バルバラ・ヘンドリクス(SPD、経理担当、61)*
教育・研究相:ヨハンナ・バンカ(CDU、留任、62)*
経済協力・開発相:ゲルト・ミュラー(CSU、食料・農業省次官、58)
首相府長官:ペーター・アルトマイヤー(CDU、環境・自然保護・原子力安全相、55)
<ガブリエルSPD党首が経済・エネルギー相に>
事前の予想どおり、CDUが6つ(首相府長官を含む)、CSUが3つ、SPDが6つの閣僚ポストを獲得した。議席数ではCDUに遠く及ばないSPDが経済・エネルギー相、外相、環境相などの重要ポストを獲得し、2ヵ月にわたる連立交渉の中でSPDにCDU/CSUが大幅に譲歩したとみられる。同時に、SPD内ではガブリエル党首の手腕が高く評価されており、同氏は「エネルギーシフト」について全ての権限を環境省から経済技術省に移行した上で、経済・エネルギー相として就任した。同氏は「再生可能エネルギー法は将来への障害になってしまっている」(「ハンデルスブラット」紙12月16日)と発言するなど、早急に同法の抜本的改正に取り組むとみられている。
経済・エネルギー省は12月17日、政務次官にウベ・ベックマイヤー氏(SPD、元ブレーメンSPD議長、64歳、男性)、イリス・グライケ氏(SPD、連邦議会議員、49歳、女性)、ブリギッテ・ツィプリース氏(SPD、第1次メルケル政権司法相、60歳、女性)が就任したことを発表した。
同省の3つの事務次官ポストについては、「南ドイツ新聞」(12月16日)が「ライナー・バーケ氏(緑の党党員、元環境省事務次官、58歳、男性)がエネルギー専門家として事務次官に就任することになるだろう」という予測を報道。また、「フランクフルター・アルゲマイネ」紙(12月17日)は「ガブリエルSPD党首は閣僚に就任後、12月17日の省内会議においてシュテファン・カプフェラー事務次官(FDP、48歳、男性)の留任を発表した」と報道している。なお、事務次官については2014年1月中旬までに決まるのでは、とされている。
一方でCDUは、当初からSPDが要求していた財務相ポストは譲らなかった。ユーロ政策を所管するこのポストは、ショイブレ財務相の留任となり、ドイツの欧州債務危機への対応の方針に大きな変更はないとみられている。また、フォン・デア・ライエン労働・社会相がドイツで女性初の国防相に就任したことは、現地メディアにサプライズ人事として取り上げられた。なお、女性閣僚は首相を含め6人で第2次メルケル政権から増減はなかった。
<産業界は競争力低下を懸念>
SPDの政権入りを受けて、産業界は競争力の低下を懸念している。ドイツ産業連盟(BDI)のウルリッヒ・グリロ会長は「ドイツの産業界は、産業立地拠点としてのドイツの将来性への深刻な疑問に対する答えを要求する」(BDIウェブサイト12月16日)との声明を発表し、全国一律の最低賃金制の導入や電力コストの上昇に対して懸念を示した。また、ドイツ商工会議所連合会(DIHK)のエリック・シュバイツァー会頭は「ドイツ経済にとって、エネルギーシフトが最重要課題だ。電力コストがこれ以上増加しないようにあらゆる努力をするべきだ」(DIHKウェブサイト11月27日)との声明を発表し、市場競争力のある再生可能エネルギーの追求を訴えた。そのほか、ドイツ中小企業連盟(BVMW)のマリオ・オーフェン会長は「年金受給年齢の引き下げだけで2030年までに1,300億ユーロの追加負担が必要となり、これはドイツの国際競争力を損なうと同時に次の世代への負担になる」(「ハンデルスブラット」紙12月16日)と述べ、SPDが主張して連立協定に明記された政策を批判している。
一方で、ドイツ労働総同盟(DGB)のミヒャエル・ゾンマー会長は「全国一律の最低賃金制の導入、正規雇用の拡大などが実行されるかどうかを注視する」(DGBウェブサイト12月14日)と表明した。
(望月智治、ユリア・クリューガー)
(ドイツ)
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