鋼材や鉄鋼製品の輸入に事前通知を義務付け−不正輸入の監視が目的−

(メキシコ)

中南米課

2013年12月17日

経済省は12月5日、「経済省が定める貿易に関する一般規則と基準」(以下、経済省貿易細則)を改定する省令を官報公示し、特定の鋼材や鉄鋼製品を輸入する際に経済省に事前通知する制度を義務付けた。近年増えているアンダーバリュー(過小評価)などの不正輸入の監視を目的とするものだが、通知には製鉄所が作成したミルシート(鋼材検査証明書)を添付する必要があるため、貿易手続きが煩雑になることが懸念される。

添付ファイル: 資料PDFファイル( B)

<メキシコのHS8桁分類で対象は113品目>
12月5日付官報で公示された経済省貿易細則の改定は、HS72類(鋼材)と73類(鉄鋼製品)の輸入に際し、経済省に対して事前に通知することを義務付けるもの。同制度は「輸入自動通知」と呼ばれ、WTOの「輸入許可手続きに関する協定」における「輸入自動許可」の一種。2000年代前半までは中古機械などさまざまな品目に適用されていたが、カルデロン前政権下の規制緩和により、実質的に廃止されていた。

輸入自動通知制度では、輸入者が「メキシコ貿易デジタル窓口」(2012年2月17日記事参照)を通じて情報を提出すれば、即時に経済省の受領通知が届き、受領通知の5営業日後に経済省からの認定コードが輸入者に通知される。輸入者は当該認定コードを輸入申告書の所定欄に記入(入力)することで、輸入を行うことができる。

輸入自動通知により提出された情報に虚偽がある場合には、経済省は輸入者に対して認定コードを通知せず、輸入を許可しないことができる。その場合、経済省はその旨を輸入者に通知し、輸入者は通知の受領後、10営業日以内に経済省に対して反証を行う必要がある。経済省は反証の受領後3ヵ月以内に、反証を認めるかどうかの裁定を下す。

輸入自動通知の対象品目は、フェロアロイ、スラブ、熱延鋼板、冷延鋼板、棒鋼、合金鋼板、鋼管、金網、鎖、くぎ・びょうなどであり、対象品目はメキシコのHS8桁分類で113品目ある(表1参照)。日本からの輸入が最も多い亜鉛めっき鋼板や缶用材は含まれていないが、日本からの輸入が比較的多い熱延鋼板や冷延鋼板などが含まれているため、日本企業にも少なからず影響がありそうだ。具体的な対象品目のHSコードは添付資料を参照。

表1輸入自動通知の対象品目数

<輸入自動通知にはミルシートの添付が必要>
改定された経済省貿易細則の第5.3.1則のA.6.によると、輸入自動通知により経済省に提出する情報は以下のとおり。

(1)関税分類(HS)コード
(2)輸入数量
(3)商品価格(原則FOB、ドル建て)
(4)原産国
(5)輸出国
(6)鋼材検査証明書(ミルシート)あるいは品質証明書の番号
(7)ミルシートあるいは品質証明書の発行日
(8)生産者の名称と住所
(9)商品の詳細(スペイン語、ミルシートなどに記載されている内容)
(10)備考(必要な場合)

輸入自動通知を提出(電子送信)する際、製鉄所が発行したミルシート(HS7207〜7304項が対象)、あるいは品質証明書(HS7202およびHS7305〜7317項が対象)を電子文書(PDF)化した上で添付送信する必要がある。ミルシート、あるいは品質証明書に記載する内容は以下のとおり(経済省貿易細則第2.2.20則)。

(1)商品の詳細〔寸法、技術的・物理的・化学的・冶金(やきん)的仕様・特性など〕
(2)商品の原産国
(3)生産者・製造者の名称およびコンタクトデータ(住所、電話番号、Eメールアドレス)
(4)証明書番号
(5)発行日
(6)商品の数量
(7)輸出国
(8)ロット番号、あるいは生産指示番号
(9)商品価格
(10)ヒート番号

上記のうち、(7)〜(10)についてはデータがなくても構わないが、その場合は輸入自動通知の備考欄に、なぜ当該データがないのか、その理由を記入する必要がある。

なお、輸入自動通知が義務付けられるのは確定輸入だけであり、IMMEXプログラム(再輸出を条件とした一時輸入制度)などを活用した一時輸入には適用されない。また、輸入自動通知が義務化されるのは今回の省令の官報公示(12月5日)から10営業日後(改定省令附則1条)、ミルシートあるいは品質証明書の添付が義務付けられるのは輸入自動通知の義務化から10営業日後となっている(同上2条)。

<虚偽申告など違法輸入の監視が目的>
経済省は12月5日付で官報公示した省令の前文において、鋼材や鉄鋼製品に輸入自動通知制度を導入した理由について、関税分類の虚偽の申告、アンダーバリュー、虚偽の原産地の申告など違法輸入を取り締まるためと説明している。

この背景には鉄鋼業界の圧力がある。全国鉄鋼産業会議所(CANACERO)は2012年末以降、メキシコが自由貿易協定(FTA)を締結していない国からの鋼材や鉄鋼製品の輸入急増に対する懸念を表明し、経済省など当局に対し、適切な貿易救済措置を取るよう強く求めてきた(CANACEROプレスリリース2012年12月20日、2013年3月20日、6月17日)。

経済省は2013年3月、メキシコ資本の高炉大手AHMSAの要請に基づき、ロシアやウクライナから輸入される鉄板のアンチダンピング(AD)調査を開始した。2013年4月には、イタリア・アルゼンチン資本のテルニウムの現地法人の要請で2012年10月に開始したAD調査の結果に基づき、韓国のポスコ(Posco)と現代製鉄の冷延鋼板に対し、それぞれ60.4%と6.4%の暫定AD税を課す決定を下している。また6月には、中国製の亜鉛めっき処理された金網に対するAD調査が開始されている。

経済省はCANACEROの要請に基づきAD調査などの対応を進めているが、原産地を偽ってAD税を回避する違法輸入も横行しているとされ、違法輸入の監視体制を強化する必要性が指摘されていた。今回の輸入自動通知制度の導入は、これらの業界の声を反映したものといえる。

2008〜2012年の鋼材の輸入数量をみると、米国、日本、カナダ、ドイツ、イタリアなどFTA締結相手国からの輸入よりも、韓国、ロシア、中国、ウクライナなどFTA非締結国からの輸入が急増していることが分かる(表2参照)。CANACEROもFTA非締結国からの輸入増を問題視しており、FTA締結国以外に適用される一般関税率の引き上げも求めている。

表2原産国別鋼材(HS72類)輸入

(中畑貴雄)

(メキシコ)

ビジネス短信 52ae68b7cb200