ペーパーレス通関を3月1日から本格始動−輸出入業者は事前にデジタル窓口登録を−

(メキシコ)

メキシコ発

2012年02月17日

3月1日から貿易手続きの電子化が義務化される。通関の際に輸出入申告書に添付する書類は、すべてPDF形式にして税関の電子システムに事前送信する必要があるほか、インボイスなど商品価格を証明する書類も、輸出入申告前に電子データとして送信しなければならない。3月1日から従来の方式での手続きは不可能になるため、輸出入業者は、事前に国税庁が管理する「メキシコ貿易デジタル窓口」〔単一窓口(VU)〕の利用者登録をしておく必要がある。

<1月16日から先行運用開始>
VU計画は2011年1月14日に官報公示され、経済省、大蔵公債省(SAT)、公共行政省、農牧省、保健省、国防省、環境省、エネルギー省、公共教育省の9省からなる省庁間委員会が設立されて、さまざまな貿易手続きを電子化するための準備を進めてきた(2011年10月11日記事参照)

電子化への移行期間は当初12年1月31日までとされ、2月1日から電子手続きが義務化される予定だったが、1ヵ月延長され、3月1日から義務化される。なお、港や空港などの税関では既に1月16日からペーパーレス通関が可能になっており、2月末までは輸入者が選択すれば実施できるようになっている。

3月1日から義務化される具体的な内容は、1月13日付官報で公示された「2011年度の貿易に関する一般規則(SAT貿易細則)の第6次改定」で追加された第3.1.30則と第3.1.31則が定める以下の2項だ。第6次改定決議の附則1条に基づき、3月1日から適用される。

(1)通関時に、貨物と同時に税関に提示する書類(船荷証券や非関税規制順守を証明する書類など)を、事前に電子媒体で税関電子システムに送付すること(第3.1.30則)
(2)インボイスなど貨物の価格を証明する書類の情報を電子化し、事前に税関電子システムに送信すること(第3.1.31則)

(1)と(2)ではVUを利用するため、事前に輸出者、または輸入者としてユーザー登録をしておく必要がある。ポータルサイトへの入力を通関士などに代行させる場合は、輸出入業者(企業)としてのユーザー登録に加え、データ入力代行者の登録が必要。いずれの登録もポータルサイトで行う。

<通関関連書類はPDF形式で事前送信>
税関法36条は、輸出入通関に際して税関に提示する書類として、以下のように定めている。

(1)輸入通関
a.インボイス、b.船荷証券(B/L)あるいは航空貨物運送状(AWB)、c.非関税輸入規制を順守していることを証明する書類(必要に応じて)、d.原産地証明書(同左)、e.保証金の入金証明書(中古車を推定価格以下で輸入する場合)、f.重量や体積を証明する書類(バルク貨物を港の税関で輸入する場合)、g.識別・分析・管理を行うための情報(必要に応じて)

(2)輸出通関
a.インボイス、または商品価格を証明する書類、b.非関税輸出規制を順守していることを証明する書類

12年3月1日からはこれらの通関関連書類はすべて電子化し、VUを通じてSATの税関電子システムに事前に送信しなければならない。SATが12年1月下旬に発表した指針(Lineamiento)によると、電子化は以下の要領で行わなければならない。ただし、インボイスなど商品価格を証明する書類については、後述の「電子価格証明書(COVE)」のかたちで事前送信する。

(1)OLEを利用したオブジェクトやJavaスクリプトを含まないPDFファイル
(2)8ビットのグレースケール
(3)解像度は300ドット・パー・インチ(dpi)
(4)光学式文字認識(OCR)を適用しない
(5)白紙のページを入れない

輸出入業者はこの要領を満たした電子ファイルをVUの指定サイトにアップロードし、自らの高度電子署名(FIEL)を用いて送信する。電子文書の署名(送信)後、VUは電子文書(ED)コードを文書ごとに自動発行する。

輸出入業者は各文書のEDコードを登録通関士に伝え、登録通関士は輸出入電子申告の際に同コードを所定欄に入力する。税関の輸出入申告承認システム(VOCE)が通関士の入力した申告データを承認する際は、申告書に入力された文書が事前に送信済みで、税関システム内に存在するかどうかが確認される。

輸出入貨物を運搬する輸送業者は通関ゲートを通過する際に、バーコードが記載された輸出入申告書の表紙だけを印刷し、税関の自動選別システム(バーコードリーダー)にかける。同システムで赤信号が表示された場合は、税関の貨物検査員による検査が行われるが、その際には検査員が持つタブレット状の端末で事前に送信済みの添付文書が見られるようになっており、ペーパーレスで貨物検査が行われる。

なお、VUプロジェクトにより、将来的には、経済省、保健省、国防省など政府当局が発行する輸出入許可証の証明書類は、電子文書として発行される予定だ。証明書自体が電子化された後は、その電子証明書のコードを通関士が輸出入申告時に入力すればよく、紙媒体のものをスキャナーで読み込んでPDF化して送信する必要はない。

<従来のインボイスとほぼ同じ情報を入力>
電子化された価格証明書類はCOVEと呼ばれる。

輸出入業者(または権限を委譲された輸出入業者の代理人)は、通関士による輸出入申告データ入力に先立ち、VUサイトにCOVEとして必要なデータを入力するか、または税関のシステムとリンクしている民間のウェブサービス(ソフトウエア)経由でXML形式の電子データを送信しなければならない。

COVEとして入力すべき情報は主に以下のようなもので、おおむね従来のコマーシャル・インボイスなどに記載されている内容だ。

(1)証明書:輸入手続き用か輸出手続き用か、登録通関士の免許番号、文書番号、発行日など
(2)証明書発行者:発行者の識別(ID)コード(該当する場合)、氏名、住所など
(3)証明書の宛先:宛先のIDコード(該当する場合)、氏名、会社名、住所など
(4)商品:品名、数量単位、数量、単価、総額、通貨単位、ドル換算、商標(該当する場合)、モデル名(該当する場合)、シリアル番号(該当する場合)など

VUサイトで上記データの入力を終える際、あるいはウェブサービス経由で電子ファイルを送信する際は、輸出入者のFIELを用いて署名する必要がある。入力や送信されたデータに不備がなければ、VUシステムは13ケタのEDコードを発行する。当該コードは通関士が輸出入申告データを電子入力する際に、所定欄に入力される必要がある。

なお、1つのインボイスが複数の輸出入申告をカバーする場合は、その旨をVUサイト、またはウェブサービス経由で入力する必要がある。また、EU・メキシコ自由貿易協定(FTA)や改定後の日本メキシコ経済連携協定(日墨EPA)に基づき、認定輸出者の「原産の宣誓」(2011年9月30日記事参照)がインボイス内に記載されている場合は、COVEが「原産地証明書」としての役割を持つことを入力した上で、宣誓文章を「備考欄」に入力する必要がある。

入力・送信されたCOVEは正規通関書類として認識されるため、オリジナルのインボイスをPDF化して税関システムに送信する必要はない。また、諸外国で利用されている電子インボイスをデータで受け取った場合は、ウェブサービス業者のソフトウエアなどを介してCOVEに変換できる。

<登録通関士による代行手続きも可能>
通関添付書類を電子化して事前送信する際、COVEの事前送信には、VUサイトで利用者登録を済ませた輸出入業者のFIELによる認証が必要になる。従って、データ入力と保存までは「データ入力者」としてVUに登録された個人が代行できるが、最終的にSATの電子システムに送信する際は、輸出入業者(法人)のFIELによる認証が必要になる。

ただし、登録通関士など個人に輸出入業者の代行としての「デジタル印章(Sello Digital)」を与え、認証手続きを代行させることも可能だ。

「デジタル印章」は、a.VUのすべての手続きに用いることができるもの、b.COVEの電子送信だけに利用できるもの、の2種類がある。輸出入業者の判断で選択でき、当該手続きで輸出入業者のFIELと同じ機能を持つことになる(SAT情報告示1月23日)。「デジタル印章」は、SATのウェブサイトから取得できる。

メキシコで輸出入を行う場合は、少なくともVUのユーザー登録を行い、必要に応じて登録通関士などに「デジタル印章」を与えておかなければならない。3月1日からVUの利用が義務化されるため、それまでに手続きを済ませておくことが重要だ。報道によると、2月中旬までにVUサイトのユーザー登録を済ませた貿易関連企業の数は、全体の約4分の1にすぎない(「エル・フィナンシエロ」紙2月15日)。

(中畑貴雄)

(メキシコ)

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