投資法と投資基金法が11月から施行、対内投資の回復図る

(モンゴル)

北京事務所

2013年10月31日

モンゴル政府は、外資系企業の対内投資減少による外貨準備高の減少や通貨トゥグルク安などへの対策として、10月3日の秋期国会で「投資法」と「投資基金法」を成立させるとともに関連する規則も修正し、11月1日から施行する。これに伴い、「外国投資法」や投資減少の要因の1つとなっていた「戦略的業種への外国投資管理法」は廃止される。

<投資不振で外貨準備高が減少>
政府は中国国有企業による鉱山の間接的買収を阻止するため、2012年5月に戦略的業種への外国投資管理法を急きょ施行した(2012年7月27日記事参照)。これにより買収は回避できたものの、法律を十分周知しなかったことや、関連する規則の発効が遅れたことなどから、外国の投資家に不信感を抱かせることとなった。

それ以前にも政府は、2009年7月に「河川の水源地保護区および森林保護区での資源探査・採掘を禁止する法律」、2010年6月に「資源探査ライセンスの新規発行を停止する法律」を施行した。これにより、資源探査ライセンスは有効期限の3年を過ぎた場合に、新規発行されなくなったため、外資系企業による鉱山権益への投資や砂金鉱山の操業が停止し、金採掘による税収入や外貨準備高への繰り入れも減少した。

こうした要因が重なり、2012年第3四半期以降、外国からの投資は減少した。さらに、オユトルゴイ鉱山投資の第1フェーズが終了したこともあり、2013年上半期の対内投資は前年同期比42.0%減となった。投資の落ち込みに加え、貿易赤字により外貨準備高が減少しており、トゥグルク安による輸入品の物価上昇もあって経済に大きな影響が生じている。

政府は対内投資の増加によって苦境を脱するため、投資環境改善を目的とした法改正を行い、従来の外国投資法、戦略的業種への外国投資管理法を廃止し、新たに投資法を成立させた。

<外国の国有企業による買収には引き続き警戒>
10月9日現在、法律の最終的な条文は公開されていない。投資法の審議を行った作業部会のゾリクト議員のインタビューや国会広報によると、以下6つの内容が盛り込まれたとされる。

(1)国内外の投資家を区別することなく、共通の法規制を適用する。
(2)投資法の改正条件を国会議員の3分の2以上の賛成に引き上げ(従来は過半数)、頻繁な改正を防止する。
(3)外国投資企業証明書の記載事項の変更および鉱山、金融、マスコミ・通信分野で事業を行う法人を外国政府の保有法人が33%以上出資して設立する場合(既存企業の33%以上の株式取得を含む)は、投資を管轄する行政機関の許可を得ること。
(4)モンゴル経済の発展に寄与し、自然環境への負荷が低く、新技術を導入し雇用を創出するプロジェクトには、各種の税率を変更しない税環境安定化証明書を発行する。証明書の有効期間中は税率の引き上げや新税の導入が行われても従来の税率に変更は生じない。証明書の有効期間は、投資額、投資期間、投資する地域に応じて設定する(表参照)。
(5)経済開発省内に投資・ビジネス開発庁を創設する。
(6)外資系法人設立における外国人投資家の最低出資額を、従来の2万5,000ドルから10万ドルへ引き上げる。

(2)については、法改正の基準を引き上げることで、投資家に対し投資環境の安定化をアピールする狙いがある。

(3)について、従来は鉱山、金融、マスコミ・通信分野などの戦略的業種で、外国投資企業を設立する際には投資を管轄する行政機関の許可が必要だったが、今後は、外資系企業でも民間企業であれば、他のモンゴル法人と同様に登記だけとなり、投資家の負担が軽減される。一方、外国政府保有法人、例えば中国国有企業が33%以上出資して設立する場合などには、モンゴル政府の許可を得る必要がある、とした。

(4)は、従来の外国投資法における安定化協定に代わるものだ(注)。ウランバートルの投資額の基準を引き上げ、証明書の有効期間を短くする一方、地方における基準を引き下げることにより、ウランバートルへの一極集中の緩和と地方への投資促進を意図している。安定化証明書の発給は評価委員会を設立し判断する。

投資額・地域・期間による税環境安定化証明書の有効期限

(5)では、2012年の政権交代後、外国投資貿易庁(FIFTA)に代わり、経済開発省内に外国投資調整・登録局(DFIRR)が設立されたが、これを新たな組織に再編し、モンゴル国内の投資環境に関する全ての情報を発信し、積極的に投資家を呼び込むとしている。

(6)については、外資系企業への規制を緩和しつつ、モンゴル市場参入の最低投資額を引き上げることで、飲食業、美容院など地場の中小企業を保護する目的がある。

<投資基金法で中小企業の資金調達の選択肢を増やす>
これまでモンゴルでは、投資ファンドについての法律が制定されておらず、関連する問題の一部は証券市場法で規定されていた。しかし個人年金基金や個人の会員制投資ファンドが増加し、法整備の必要が生じていた。

そこで、適切な市場を形成し、資本市場の発展を促進・支援する条件を整えるため、共同出資機関の法的ステータス、要求事項、事業原則を明確にし、外国投資機関がモンゴルで事業を行う際の問題に対処できるよう、投資基金法を制定した。

これにより、中小企業にとっては銀行融資以外にも資金調達源ができ、国民にとっては新しい資産運用方法として投資信託会社の活用や専門的投資マネジメントサービスを受けることが可能になる。

投資基金法は全11章で構成され、投資ファンドの事業についての総合的規定、形態・種類、基金の運営、設立および清算のプロセス・手順、投資ファンドの活動、政府の調整、投資マネジメント会社、基金の資本登録・保管などの基本的問題が盛り込まれた。

投資基金法の主な内容は以下のとおり。

(1)投資ファンドは共同投資と個人投資の2種類に分類される。
(2)投資ファンドや関連サービス提供業者に対し政府が与えた事業認可は、収益の保証とは見なさず、これらの活動によりもたらされた損害を政府は保証しない。
(3)投資ファンドの活動期間は、投資ファンドの形態にかかわりなく10年以下とする。
(4)投資ファンドの運用益については、投資ファンドにではなく、投資家に対して所得税として課税する。

また、投資家保護とシステムリスクの低減のため、投資ファンドに対する監査を活動の全ての段階で行うことができるとした。監査は投資家自身と関係者の代表を含む理事会、金融調整委員会、カストディアン(有価証券を保管・管理を行う金融機関)、監査法人などの関係者がそれぞれの制度に基づき実施する。

政府としては、今回の法改正で長期的には投資家が戻ってくることを期待している。しかし、現時点では法律の最終的な条文が明らかになっておらず、また安定化証明書に記載される税率については、2014年2月10日までの今国会会期中に審議予定の税包括法案の中で規定されるため、投資家にとっては不明確な部分も残り、ゾリクト議員も短期間で投資家が戻ってくるとは考えていない、と述べている。

(注)従来の外国投資法でも200万ドル以上の投資であれば、申請によって税環境を安定化させる安定化協定があった。200万〜1,000万ドルの場合、協定の有効期間は10年、1,000万ドル以上の場合は15年だった。

(藤井一範)

(モンゴル)

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