戦略的業種への外資参入を承認制に

(モンゴル)

北京発

2012年07月27日

国会は5月17日に「戦略的業種への外国投資管理法」を可決し、即日施行された。戦略的業種への外資参入を承認制にするもので、外交貿易省は6月4日、ウェブサイトで、同法施行の背景などを発表した。

<背景には中国による鉱山買収への警戒感>
「戦略的業種への外国投資管理法」の施行から半月余りの6月4日、外交貿易省のウェブサイトに英文で外国人投資家向けに、同法施行の背景などが発表された。

法案は3年前に国会に提出されていたが、それがなぜ今になって急に成立したのか。発表によると、同法の成立を急いだ理由は「公正な競争に基づいた健全な市場を保証し、独占会社が生まれるのを予防し、買い手が売り値を設定するなどの独占会社による市場の支配を予防し、モンゴルの戦略的分野において外国の国有会社が優位を獲得することを防止する」ことにあるという。

この背景として、2012年4月に中国のアルミ最大手企業チャルコが、カナダのアイバンホー・マインズが所有するサウスゴビ・リソーシズの株式を最大60%取得して買収すると発表したことがある(ブルームバーグ4月2日)。

サウスゴビ・リソーシズの経営権が中国企業に移ると、サウスゴビ・リソーシズが所有するモンゴル企業サウスゴビ・サンズの経営権も中国企業に移ってしまうため、モンゴル政府はサウスゴビ・サンズがモンゴル国内に持つ全ての鉱山権益を保留した(「Unuudur」紙電子版4月17日)。

保留された権益の中には、モンゴルの戦略的鉱山であるオボート・トルゴイ炭鉱も含まれている。モンゴルの戦略的鉱山の経営権が中国に渡ってしまうことは、モンゴルの国家安全保障上、重大な意味を持つ。鉱物資源庁のM・アリオンボルド長官代理は「『戦略的業種への外国投資管理法』が成立すれば、サウスゴビ・サンズの問題も対応可能だ」と述べたという。

サウスゴビ・サンズの石炭は主に中国に輸出されており、同社の経営の主導権を中国が持つと、「買い手(中国)が売り値を設定する」ことが可能となる。このためモンゴル政府が中国による買収への対策をかなり意識して、急ぎ同法を成立させたとの見方がある。

<「外国投資家の排除を意味しない」>
発表によると、同法の目的は「国家安全保障と経済的利益に関わる戦略的業種への外国投資を調査・監視すること」で、同法の目指すところは「国家安全保障および経済的利益と外国投資との整然としたオペレーションを保証すること」と記されている。法案の作成者の1人、G・ザンダンシャタル外交貿易相は「これは外国投資家を排除することを意味するものではない」と強調している。

また発表では、モンゴルに限らず、ほかの国々でも外国投資を規制している例を挙げており、中国とロシアという両大国に挟まれたモンゴルの地政学的立場からも、同法が必要だと特記している。

<日本など「第3の隣国」からの投資は歓迎>
モンゴルの外交政策としては、南北の両大国の直接的・間接的影響を緩和するために、日本をはじめ、米国、ドイツ、韓国などの「第3の隣国」との関係を強化し、均衡の取れた外交を目指している。つまり、これら「第3の隣国」からの投資は歓迎したいのがモンゴル側の本心だ。従って日本企業としては、同法に対して必要以上に神経質になる必要はない、とみられる。

同法に該当する業種(鉱物資源、金融、報道・情報通信)をモンゴルで展開する、または該当する企業に投資する場合、所轄機関(外国投資庁)に申請し、承認を得ることになる。同法の第7条第3項に審査条件に関する規定が示されており、この規定に該当しなければ、申請は承認されるとみてよいだろう。正当な理由なく申請を却下することは、同法第7条第7項で禁止されている。

ただ、同法第7条第2項にある「承認可否の決定をするに際して関連する細則」がまだ定まっていない。外国投資貿易庁(FIFTA)に確認したところ、「規則の原案は国会に提出済みだが、選挙で政権が変わったため、新政権による審議を待っている状態」とのことだった。前政権が急ごしらえで法を作ったものの、6月28日の総選挙以降、新政権の組閣が進行中のため、細則が審議され、同法が有効に機能し始めるのは新政権が正式に発足してからになる。

なお、先の発表には「法律は過去にさかのぼって適用されない」とも記されており、既に戦略的業種で事業または投資を行っている日系企業が、投資の承認を新たに申請する必要はない。ただし同法第8条第2項によると、「本法に該当する企業は、本法施行日から180日以内に、該当するモンゴル企業を通じて外国投資を管轄する政府機関に申告する必要がある」とも記されており、この点は要注意だ。

(藤井一範)

(モンゴル)

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