違法外国人労働者の取り締まり猶予期間を4ヵ月延長
リヤド事務所
2013年07月19日
政府は違法就労している外国人労働者の取り締まりを、当初、猶予期限の7月3日以降に厳格に実施するとしていた。しかし、イカーマ(滞在許可証)の記載修正手続きが当局に殺到するなどの混乱が起きたため、期限前日の7月2日付で、国王が4ヵ月の猶予期間延長を決定した。当地日系企業も今回の延長措置を歓迎している。
<イカーマの記載修正が殺到、さばき切れず>
政府は3月以降、労働法下では違法就労と見なされる外国人労働者の取り締まりを厳格化し、国王が与えた猶予期間が終了する7月3日以降は、違反者の拘留や罰金徴収など、厳しく取り締まりを行うと通告していた(2013年5月16日記事参照)。
取り締まり対象の外国人労働者は、(1)正規のスポンサー(一種の身元保証人)ではなく別のスポンサーに雇われている外国人、(2)イカーマの記載とは異なる職業に従事している外国人、(3)正規のイカーマを持たない外国人だ。特に(1)(2)の外国人労働者は、猶予期限の7月3日までにスポンサーに依頼して、イカーマに記載されたスポンサーの名称や職業を修正することが義務付けられていた。
しかし、数百万人の出稼ぎ労働者が居住しているサウジアラビアでは、多くの外国人が(1)と(2)の条件を満たしていなかったため、管轄する労働省や内務省パスポート管轄局に記載修正の手続きが殺到した結果、期限の7月3日までに手続きが完了しなくなるという混乱に陥っていた。また、インド、バングラデシュ、パキスタン、フィリピンなど、イカーマの記載修正の見込みがなく本国に帰国せざるを得ない出稼ぎ労働者が多い国では、大使館が殺到する帰国者の出国手続きを処理し切れず、手続きの完了を待つ外国人労働者の長蛇の列ができていた。
このため手続きを完了できない企業や、各国大使館・外交団などから、政府に猶予期間の延長を訴える声が多数届くなど、今回の延長措置が発表される7月2日の直前まで混乱が続いていた。
<猶予期間を11月3日まで延長>
サウジ国営通信(SPA)によると、この事態を受けて、期限前日の7月2日付でアブドゥッラー国王は猶予期間をさらに4ヵ月延長し、イスラム歴1434年が終わる11月3日までとするよう指示した。
労働省のアル・ハクバニ次官も7月2日、国王が延長した猶予期間内にイカーマの変更手続きを済ませるよう、あらためてスポンサーや違法外国人労働者に通知した。また、月給3,000リヤル(約8万1,000円、1リヤル=約27円)以上のサウジ人を1人以上雇用している従業員9人以下の中小企業が、最大4人までの外国人労働者を新たに雇用可能とするなど、事態の収束を図るべく、猶予期間内に幾つかの優遇措置を与えると発表した。
今回の延長決定を受けて、手続きが完了していない多数の外国人労働者や企業は安堵(あんど)したようだ。英字紙「サウジ・ガゼット」は「数百万人の外国人労働者が、国王による猶予期間の延長を歓迎」「期限の到来を恐れていた多数の企業経営者、大使館や領事館も安堵のため息」と報じている。特に建設業や清掃業など、「労働者」としての経験がないサウジ人を外国人の代わりに雇うことが困難な職種では、多くのサウジ人企業経営者が対応に苦慮していたため、英字紙「アラブ・ニュース」は「猶予期間の延長は、全てのビジネスにとって利益となる」「国王の決定は疑いの余地なく賢明な措置だ」と指摘している。
<在リヤド日系企業も歓迎>
ジェトロが今回の決定の影響について、在リヤド日系企業に聞いたところ、9社(業種:商社、メーカー、金融、物流)から回答を得た。
今回の影響については、7社が「延長を歓迎する」との答えだった。7社のうち3社が「一部の従業員のスポンサー変更手続きが完了していなかったため、大変助かった」とし、1社が「既に修正措置は完了したが、見直しの時間など余裕を持つことができる」とした。
また、5社は「もとより従業員は当社のスポンサー下にあり、今回の取り締まりの措置で大きな影響はなかった」としているが、うち2社は「猶予期間中はスポンサーや職種の変更以外にも、イカーマの登録内容の変更を寛容に受け付けるとの通知があったため、その点で歓迎する」とし、別の1社は「他社で働いていた違法外国人労働者が弊社に職を求めてきており、容易に雇用できる」と答えた。
政府への要望については、2社が「あと1〜2年の延長を希望する」とし、3社が「猶予期間の延長よりも、窓口を多く設置するなど、政府窓口の手続きの迅速化の方が大きな課題だ」と指摘した。「本業に関係のないスタッフ(掃除人やお茶くみなど)を派遣できる公認派遣会社の認可を速やかに進めてほしい」という企業も1社あった。
なお、今回の外国人労働者の取り締まり強化という政府の施策そのものに対して、「外国人労働者が多い職種には、道路工事や清掃作業、運転手・家政婦などもともとサウジ人が好まない職業が多く、規制強化がすぐにサウジ人の失業率改善に結び付くものではない。むしろ必要な労働力が失われることで、国全体の生産性が低下し、経済成長率の落ち込みが懸念される」という意見や、「今回の取り締まりは、本来必要とされているサウジ人労働者の能力・質・やる気を高めるような施策ではなく、外国人労働者を追い出してサウジ人の雇用を増やそうという強引な施策だ」という批判、「スポンサー変更に当たり、優位な立場に乗じて外国人労働者に法外な手続き料を請求するスポンサーがいるため、その取り締まりの強化も希望する」という声も聞かれた。
(米倉大輔)
(サウジアラビア)
ビジネス短信 51e745d5c9a90