違法就労の外国人労働者の取り締まりを強化−混乱招き、国王が3ヵ月間の猶予を指示−
リヤド事務所
2013年05月16日
政府は3月より、違法就労している外国人労働者の取り締まりを強化した。小売店などで働く外国人労働者の一斉検挙を始めたことや、厳しい罰則を定めたことから、国内に大きな混乱が生じた。そのため、アブドゥッラー国王は4月6日付で、取り締まりに3ヵ月間の猶予期間を置くよう労働省と内務省に指示した。
添付ファイル:
資料( B)
<一斉検挙の実施により大混乱に>
今回の取り締まりの対象は、(1)正規のイカーマ(滞在許可証)を持たずに不法滞在している外国人(偽造イカーマの保有者も含む)、(2)イカーマに記載された職業とは異なる職業に従事している外国人労働者(労働法第38条違反)、(3)正規のスポンサー(一種の身元保証人)に雇用されずに働いている外国人労働者(第39条違反)だ。
取り締まり強化の動きを、新聞報道を基に時系列にみると以下のとおりだ。まず2013年1月に諮問評議会が、不法滞在者の数が約500万人に上り犯罪の約6割に関わっていると報告し、外務省、内務省、社会政策省、労働省の4省からなる委員会を組織し、取り締まりを強化すべきと国王に進言した(英字紙「アラブニュース」1月19日)。この不法滞在者には、国境付近を出入りする移民や、聖地巡礼後そのまま国内に居ついた巡礼者が多く含まれているとされる。2月には、内務省パスポート管轄局が滞在期間を過ぎた外国人労働者をメードや運転手として雇わないよう警告を発した。
さらに、内務省は各州知事に対して、外国人労働者が実際に従事している職業がイカーマに記録されている職業と合致しているかどうか報告するよう指示した(「アラブニュース」紙2月15日)。これを受けて、各州知事、労働省、商工業省、都市村落省、内務省(警察およびパスポート管轄局)、商工会議所などから構成されるサウダイゼーション委員会が、外国人労働者の店主が多い野菜小売店や携帯電話ショップの検挙を、政府の任務として定めた。
3月に入ると、国内の小売・サービス業者(食料雑貨店、理髪店、美容院、カフェテリア、電気店など)やいくつかの企業・団体(私立学校を含む)を対象に、パスポート管轄局と労働省による一斉検挙が始まった。この手入れにより、イカーマに記録された職業と実際の職業が異なる(イカーマの職業欄に運転手とあるのに食料雑貨店の店主を務めているなど)外国人労働者や、自らのスポンサーに直接雇用されていない(勤務する小売店の雇用主が自身のスポンサーとは違う人物であるなど)労働者は、停職や解雇を余儀なくされることになった。
この措置により、出稼ぎでサウジアラビアに来ている外国人労働者の生活に大混乱がもたらされ、外国人労働者を雇用していたサウジ人オーナーも突然の小売店の閉鎖や売上金の紛失など大きな被害を受けることになった。また港湾や建設業など外国人の労働力に大きく依存している現場では、労働者不足により大幅な作業の遅れが生じているという報道もなされた(英字紙「サウジ・ガゼット」4月6日)。
港湾の状況について、当地の日系物流企業2社にヒアリングしたところ、1社は自社貨物の通関は特段遅れていないとのことだったが、もう1社によると、コンテナの荷さばきに通常以上の時間がかかっており、船会社からの配送指示書の発行が遅れているという。また、港湾からの荷物引き取りに使うトラック会社の運転手がアルバイトの場合、スポンサーが異なるため、猶予期間後に港湾への立ち入りができなくなる危険性もあるという。さらに、例年ラマダン(断食月)前は貨物の量が増えるため、5〜7月の物流にも注意が必要だ。
<内務省は違反時の罰則を規定>
さらに、内務省はウェブサイトを通じて、「イカーマ制度における違反と罰則」についての規定(添付資料参照)を発表した。同規定では、合計34件の違反事例と罰則が定められている。例えば、政府の求めに対し正規のイカーマを提示できなかった者は1,000リヤル(1リヤル=約26円)の罰金(2度目は2,000リヤル、3度目は3,000リヤルに増額)(第2条)、偽造イカーマを持つ者は1万リヤルの罰金または3ヵ月の拘留(第8条)、イカーマの滞在期限を超えている不法滞在者をかくまった者は1万リヤルの罰金または2週間以上の拘留(第14条)など、外国人だけでなくサウジ人に対しても罰則を科すことを明らかにしている。
一方、混乱した事態を沈静化するために、アブドゥッラー国王は4月6日付で労働省と内務省に3ヵ月間の猶予期間を置くよう指示した。この指示により外国人労働者は多少安堵(あんど)したようだが、3ヵ月の間にスポンサーを雇用先に移すなど実態と合ったイカーマに修正する必要がある。
<性急な措置に現地紙も批判的>
今回の取り締まり強化の背景には、サウダイゼーション(サウジ人雇用義務化)を少しでも早く推し進めたいサウジ政府の思惑がみて取れる。アデル・アル・ファキーフ労働相は、総人口の26.6%を占める外国人労働者の数を20.0%まで減らし、サウジ人の雇用を促進することが労働省の目標だと述べている。
しかし、今回の性急ともいえる措置に現地紙は批判的だ。特に「サウジ・ガゼット」紙の社説では、「外国人労働者は、サウジ人の雇用が進まない国のスケープゴートにされたにすぎない。彼らがいなくなったら工場、建設業、清掃業、空港サービスなどがどうなるか、真剣に考えるべきだ」という主張や、「スポンサー制度が問題の根源にある。同制度を利用して多くのサウジ人スポンサーが外国人にビザを売りつけ、労働者としてサウジに連れてきている。外国人労働者はどのような仕事にでも従事し、稼ぎの一部を毎月スポンサーに納めなければならない」という指摘など、外国人労働者に対する取り締まりだけでは根本的な解決にはならないという見方を掲載している。
<一部の日系企業からは懸念の声も>
当地に進出している日系企業の多くは小規模な事務所であるため、すぐに大きな影響はないとみられる。しかし、工場やプラント建設現場など多くの外国人労働者を雇用している一部の企業にとっては深刻な問題となっている。ジェトロが製造業などを中心に、外国人労働者の従業員数が多いとみられる当地日系企業5社にヒアリングしたところ、2社は「特段の影響はない」とのことだったが、その他の企業からは「一部の外国人労働者は、以前の勤め先からのスポンサーの変更が済んでいなかったり、人材派遣業者から派遣されているなどの理由でスポンサーが異なっていたり、3ヵ月という短い猶予期間で修正することは困難で、対応に苦慮している」との声が寄せられた。
(米倉大輔)
(サウジアラビア)
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