議長国リトアニアが2013年下半期の優先課題を列挙−EU大使が講演で−
ブリュッセル事務所
2013年06月27日
2013年下半期のEU議長国を務めるリトアニアのカロブリスEU大使は6月4日、欧州政策センター(EPC)主催のセミナーで講演し、優先課題として「信頼できる欧州」「成長と雇用」「オープンな欧州」の3つを挙げた。中期予算枠組み(MFF)の合意と銀行同盟の法制化に向けた取り組みを重要課題とし、通商政策では日本、米国との自由貿易協定(FTA)の必要性を強調した。
<MFFの合意と銀行同盟の取り組み強化を重視>
リトアニアは2004年5月にEUに加盟して以来、初めて議長国を務める。欧州債務危機が続く中、2014〜2020年の次期MFFの合意や、9月には国内で総選挙を控えているなど、難しい時期の議長国として手腕が試される。
カロブリス大使は冒頭、リトアニアは2014年5月の欧州議会選挙前に6ヵ月間の任期を務める最後の議長国で、新議会に移行する前に対処すべき課題や作業が山積していると強調した。特に、MFFの合意と銀行同盟への取り組み強化が重要な課題だと述べた。
MFFについては、現在の議長国アイルランドの任期終了(2013年6月末)までに全体予算額で合意する可能性はあるが、EU予算支出のためのプログラムに関する約75の法規を、リトアニアの議長国期間が終わる2013年末までに採択しなければならないと述べた。このうち、第1パッケージでは年内に採択しなければならない56の法規があり、第2パッケージではMFFに関連するものの第1パッケージほどMFF機能に不可欠ではない19の法規がある。
銀行同盟については、6月21日のEU経済・財務相(ECOFIN)理事会で、破綻処理に関する再建・破綻処理指令(RRD)および預金保険指令(DGSD)について進展がみられることに期待し、6月末までに欧州議会との合意を目指すと語った。
<「信頼」「成長と雇用」「オープン」の3つが重点項目>
カロブリス大使は議長国としての重点項目に、「信頼できる欧州」「成長と雇用」「オープンな欧州」の3つを挙げ、次のように述べた。
(1)信頼できる欧州
銀行同盟の構築に寄与する信頼できる金融システムや財政規律の向上に取り組む。また、特に司法と人権の分野において、市民にとって信頼できる欧州を目指す。
(2)成長と雇用
成長の具体策については、単一市場法案への取り組みが急務だ。まずは、単一市場法案I(2011年4月14日記事参照)の導入、続いて単一市場法案II(2012年10月4日記事参照)をさらに前進させることだ。単一市場法案IIの「新たな成長」のための12の優先行動の中でも、デジタル経済化とエネルギー単一市場に焦点を当て、取り組みをさらに強化する。同法案IIを欧州議会の任期(2014年6月末まで)が切れる前に採択することを目指す。
(3)オープンな欧州
EUの通商政策における優先課題は、東方パートナーシップ、FTA、EU拡大、の3つだ。
a.東方パートナーシップ
2013年11月28〜29日にEU加盟国と東方パートナーシップ諸国(アルメニア、アゼルバイジャン、グルジア、モルドバ、ウクライナ、ベラルーシ)の首脳会議が予定されている。同会議では、ウクライナとの安定化・連合協定(SAA)および包括的自由貿易協定(DCFTA)の署名を目指す(2013年3月19日記事参照)。
b.FTA
経済成長を図るためには輸出を向上させること、そして、経済大国とのFTA締結はEUにとって大きなプラスとなる。FTAについては、米国との包括的な貿易投資協定、いわゆるTTIP(注)および日本とのFTAを重視する。また、中国との投資協定の交渉開始に取り組む。
c.EU拡大
EU拡大は、6月の欧州理事会での結論次第だが、西バルカン諸国などのEU加盟候補国の進捗状況を注視する。
<アイルランド、ギリシャとトリオ議長国>
2009年12月にリスボン条約が発効してから、任期の連続する3ヵ国が「トリオ議長国」として協力するシステムが正式に導入された。これにより、1年半にわたる共通政策プログラムに3ヵ国が一体となって取り組むことになり、議長国制度の一貫性が高まった。
リトアニアは2013年1月から、アイルランド、ギリシャと協力して共通政策に取り組んでおり、トリオ議長国で約300の法案について検討が進んでいる。リトアニアがトリオ議長国として正式に共通政策に取り組み始めたのは2013年1月だが、既に2011年半ばから準備作業は始まっていた。
講演の最後にカロブリス大使は、EU機関が一体となって目標達成に取り組む必要があるとし、結果を出すのは欧州理事会の役割だけではないことに言及した。同大使は「われわれは課題に取り組む準備がある。そして他のEU機関も同様の覚悟で課題に取り組むことを期待する」と述べた。
(注)TTIPはTransatlantic Trade and Investment Partnershipの略。
(小林華鶴)
(EU・リトアニア)
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