欧州委、中国産太陽光パネルに対するAD暫定措置発動を決定−泥沼化するEU中国間の貿易紛争−
欧州ロシアCIS課
2013年06月07日
欧州委員会は6月4日、中国産の太陽光パネルおよび関連部材(太陽電池やウエハー)の輸入に対するアンチダンピング(AD)の暫定措置発動を正式に決定した。これに対し中国商務部は、中国側の不正な課税措置があるというEUの主張に反対するとともに、双方の協議によって問題を解決する意向を示した。他方、中国商務部はEU産ワインに対するADおよび相殺関税(CVD)調査を開始すると発表しており、EU・中国間の貿易紛争の泥沼化は避けられないとみられる。
<まずは2ヵ月間、低税率での課税>
今回のAD暫定措置発動の決定は、2012年9月にEUの太陽光発電産業を維持することを目的としたイニシアチブ「EU ProSun」からの要請を受けて開始した調査(2012年9月18日記事参照)の結果を踏まえてのもの。課税率については、2013年6月6日から2ヵ月間は11.8%で、2013年8月以降4ヵ月間は47.6%に引き上げられる。6月5日に公示された官報(PDF)によると、この段階的な税率の設定は安定的な供給を必要とするEU域内の太陽光パネルのユーザーに配慮して設定した。AD課税により中国からのパネルの輸入量が急増しても、既に損害を被っているEU製造者はすぐに必要量を供給できない可能性を考慮し、まずは2ヵ月間低税率を適用することで製造量を拡大する時間を確保するとしている。暫定措置は6ヵ月間有効で、2013年12月初めに最終措置が発表される。最終措置が採択されれば、AD税が最大5年間課されることになる。
欧州委は、EUの太陽光パネル市場の約8割を占める中国の輸出者との不公正な競争によりEU企業が倒産の危機にさらされていると指摘。事実、2011年末〜2012年初旬にかけてQセルズ、ソロン、ソーラーミレニウムなどドイツを中心に太陽光パネル大手の経営破綻が相次いだ(2012年7月11日記事参照)。中国企業の太陽光パネルの供給は過剰状態にあり、2012年にはEUの需要量の2倍に達しているという。今回の措置はEUの太陽光発電産業の2万5,000人の雇用を守り、新しい雇用も生み出すとともに、EUの再生可能エネルギー(RE)産業のための公平な競争の場の創出に貢献するとした。
<中国側はEU産ワインで対抗措置>
これに対し、中国商務部は6月5日に発表した欧州委のAD暫定措置に関する声明の中で、対話を通じて問題を解決するためにあらゆる努力をするとした。またEU側が中国の太陽光関連製品のEUへの輸出について不公平な課税措置が取られていると主張している点について、反対の意思を表した。同時に、中国とEUは戦略的パートナーであることを強調し、今回の太陽光産業の貿易摩擦が両者の関係全体に影響を及ぼすことは望んでいないとして、早期解決に意欲を示した。
しかし、こういった前向きな姿勢とは裏腹に、中国は対抗措置とも取れるような動きをみせている。同日付のプレスリリースで、EU産のワイン輸入についてADおよびCVD調査を開始することを決定したと発表。近年、EUからのワイン輸入が急増しており、中国国内のワイン業界からの要請に基づくとしている。「ユーラクティブ」紙(6月5日)によると、中国のワイン輸入(2012年は4億3,000万リットル)のうち3分の2がEUからのもので、発動された場合は特にフランスやイタリアが大きなダメージを受けるとみられる。
<ドイツをはじめ主要国は懸念>
欧州委による今回の措置に、ドイツをはじめEU加盟各国は懸念を示している。メルケル首相は5月26日に中国から李克強首相を迎え入れた際、欧州委が導入しようとしていた太陽光パネルに対するAD課税について言及し、ドイツは貿易紛争を防ぐためのあらゆる手立てをとる意向を示していた(「ユーラクティブ」紙5月27日)。また、「ユーロポリティクス」紙(5月28日)によると、少なくともEU加盟15ヵ国が本措置に反対しており、欧州委に対してAD課税発動をやめるよう求めていたという。EUのAD規則では欧州委は調査開始から9ヵ月以内に暫定措置を発動できると定められているが、その際EU閣僚理事会(理事会)や加盟国からの同意は不要で、決定の根拠を両者に通知するだけでよい。理事会は特定多数決で欧州委の決定を変更できる(規則7条6項)となっているが、今回の加盟各国の反対は理事会の決定まで持ち込まれなかったようだ。しかし、最終措置については理事会に決定権があり、欧州委の提案から1ヵ月以内に理事会が単純多数決で反対しない限り発動される(規則9条4項)。このため、今後の加盟国の動向によっては、最終措置が発動されない可能性がある。
また、AD措置の導入に反対する欧州企業の集まりであるAFASEもプレスリリースを発表(6月4日)し、今回の措置について遺憾の意を表すとともに、AD課税が調達コスト増大につながり欧州の太陽光発電産業にもダメージを与えると主張した。
欧州委のドゥ・グヒュト委員(通商担当)は6月5日にコメントを発表し、これは保護主義ではなく、中国企業にも適用されるWTOに基づく国際貿易のルールを確保するためのものだと主張。最近、米国が中国からの輸入に課税した例をあげ、欧州委の措置の正当性を主張した。
EUと中国の間の貿易に関する緊張感は高まっている。5月15日には、ドゥ・グヒュト委員が中国からの通信機器の輸入について、ADおよびCVDの職権による調査(注)を開始すると発表した。欧州委は中国当局との協議による平和的な解決を期待するとしており、正式な調査開始には至っていないが、中国に警鐘を鳴らした格好だ。貿易摩擦の激化はさらに悪化する恐れがある。
なお、太陽光パネルのCVD調査についても2012年11月に開始されており(2012年11月26日記事参照)、暫定措置があるとすれば2013年8月8日までに発表される。加えて、欧州委は中国産の太陽光発電用ガラスについてもAD(2013年2月28日から)およびCVD(2013年4月27日から)調査を進めている(2013年3月11日記事参照)。
(注)職権による調査とは、企業などからの正式な要請なしに、欧州委が自主的に貿易救済措置について立ち上げるもの。AD、CVDどちらも可能だ。欧州委は、調査開始を要請した欧州企業に対する報復のリスクが高い場合の盾を提供するものとして重要だとする。
(水野嘉那子)
(EU・中国)
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