ビジネスは好調だが、残る治安や競合などの課題−セミナー「日本企業のアフリカ展開とマリ・アルジェリア情勢」(1)−
中東アフリカ課
2013年03月19日
ジェトロは3月5日、「日本企業のアフリカ展開とマリ・アルジェリア情勢」セミナーを東京で開催した。製造業、商社などの企業・関係機関から153人が出席した。講演の概要を3回に分けて報告する。1回目は海外調査部中東アフリカ課の的場真太郎課長。2012年8〜10月に実施した「在アフリカ進出日系企業実態調査」(以下、ジェトロ調査)の結果を基に、日本企業の対アフリカ・ビジネスの捉え方、課題などについて解説した。
<ひとくくりにできないアフリカ大陸>
的場課長は冒頭、アルジェリア・イナメナスで2013年1月に起きた事件の犠牲者に哀悼の意を表した後、同事件を受けてアフリカ大陸全体を「危険」「リスクが高い」とする報道が多くみられたため、そのように捉えてしまうと誤解が生じかねないとの懸念を示した。アフリカ大陸は、米国、中国、インドをも内包できる広大な面積を持ち、また公用語もアラビア語、英語、フランス語、ポルトガル語など多様であるなど、地域ごと、あるいは国ごとに文化・社会的背景が異なるからだ。
アフリカ諸国は2000年代に入り、資源価格の高騰によって投資が拡大し、中国やインドよりも高い年平均経済成長率を記録してきた。例えば、産油国のアンゴラは2001〜11年の年平均成長率が10.7%で、中国の10.4%を上回る(国連)。このように、マクロ経済の好調さに注目が集まるが、アフリカの経済規模を国ごとにみていくと、日本の1つの県(南アフリカ共和国のGDPは愛知県とほぼ同規模)か、あるいはそれ以下だ。各国で政治体制や法制度が異なっており、日本企業にとっては非常に攻めづらい市場だといえる。
<日本企業の攻め方に多様化の兆し>
この難しいアフリカ大陸に対し、日本企業はどのように取り組んでいるのか。ジェトロ調査(2013年1月28日記事参照)によると、過去5年間の業績については半数以上の企業が「改善した」(51.6%)と回答、また今後の対アフリカ・ビジネスの重要度については、7割近い企業が「増す」(67.3%)と回答した。注目すべきは、長期政権が崩壊し政情が安定しない国を含む北アフリカやODA案件の獲得において競争が激化している東アフリカでは、過去の業績が改善したと回答した企業の割合が3割程度と低かった一方で、7割以上が今後の重要度は「増す」と回答している点だ。従来の資源・ODAだけでなく、ビジネスの形態がより広がっていくことが期待される。
加えて、アフリカ経済を好調な家計消費支出の伸びが牽引している点、また人口も2050年時点でも依然として若年層の層が厚いという構造が維持される点が指摘された。ジェトロ調査では、「中間層」「若年層」「女性」などのキーワードが注目市場として挙げられたことも取り上げられた。併せて、味の素、川商フーズ、東芝、パイロットペンなど、アフリカの消費市場を積極的に攻める日本企業の動きも紹介された。
<競合相手として浮上する中国系や韓国系企業>
ビジネスの可能性が広がるアフリカだが、既に先進国・新興国企業が参入し、日本企業同士でも競合している。ジェトロ調査では、最も競合関係がある企業は「欧州系企業」(23.9%)、「日系企業」(17.2%)との回答が多かった。その一方で、「中国系企業」や「韓国系企業」が浮上してきたことが注目すべき点として指摘された。なお中国については、統計上もアフリカにとって最大の貿易相手国となり、存在感を示している〔アフリカでの中国の割合:輸入11.6%、輸出13.1%(2011年)〕。
2013年1月に発生したアルジェリアの事件以降、メディアの関心の多くはアフリカの治安や政治リスクに集まった。確かにジェトロ調査では、約9割の企業が「政治的・社会的安定性」(87.8%)を経営上の問題点として挙げており、アフリカのビジネス環境が依然として厳しいことが示されたという。ただ、同項目には「汚職・賄賂」なども含まれている点には留意が必要とされる。
的場課長は最後に、対アフリカ・ビジネスでの日本側の課題などについて、現地駐在員の声を代弁するかたちで紹介した。日本本社の理解やコミュニケーションが不足している点や、新規プロジェクトの決定に時間がかかり商機をうまくつかめていないなどの問題がある。アフリカの現場で働き、現地に貢献している日本人駐在員が多くいる一方で、「ハードシップの高いアフリカ駐在を躊躇(ちゅうちょ)する社員が多い」など、「人材不足(日本人駐在員)」(26.4%)も指摘された。また日本政府に対しても、アフリカを訪問しトップセールスを行ってほしい、などの声も聞かれたという。なお、中国の習近平国家主席の初外遊先(3月下旬)には、南アフリカ共和国、タンザニア、コンゴ共和国が含まれている。
(高松晃子)
(アフリカ・アルジェリア・マリ)
マリ情勢を左右するイスラム武装勢力の動き−セミナー「日本企業のアフリカ展開とマリ・アルジェリア情勢」(2)−
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