欧州理事会、成長志向型の財政再建策継続で合意−各国の即効性ある具体策が急務−

(EU)

ブリュッセル事務所

2013年03月18日

EUの2013年度の政策の方向性を決める「春の欧州理事会」が3月14〜15日に開催された。「成長と雇用」の具体策、特に若者の雇用対策を短期的な優先課題とし、加盟各国に対し状況に応じた成長志向型の財政再建を求めた。加えて、緊縮財政で各国の予算が逼迫する中、成長と雇用のための即効性のある対策により多くの予算を割くよう求めた。しかし、現状では各国の具体策が乏しく、遅れていることが大きな課題となっている。

<「成長と雇用」促進に向けた4つの課題を指摘>
2013年3月14〜15日に「春の欧州理事会(EU首脳会議)」が開催された。春の首脳会議では、政策の方向性を決定するため、経済状況と見通しを注意深く検討し、EUと加盟国の政策を最も良い方向に導いていくことが習わしとなっている。

ファンロンパウ欧州理事会常任議長の初日第1セッション終了後の記者会見(PDF)での、「『春の首脳会議』と言われているが、外を見渡せば、今年は冬のようだ」という冒頭発言に示されるように、欧州の経済状況には大きな懸念がある。同常任議長は「危機を乗り切るための3年間のハードワークにより財政も比較的安定してきた。しかし、これらの結果はまだ力強い成長によって多くの雇用を創出するには至っていない」と説明。そのために、取り組むべき4つの課題を以下のとおり指摘した。

(1)財政安定の回復と維持:消費者や投資家の信頼を得るのに不可欠であり、国内需要と成長のための主要な条件だ
(2)健全な政府財政、構造的な健全さの保証
(3)失業対策が急務:特に、幾つかの加盟国では深刻な状況にある若者向けの対策が必要
(4)長期的な成長と競争力のための改革の実施:将来に向けた準備が必要

また、これら4つの課題に同時に取り組む必要があるとし、この戦略に関する広範なコンセンスを得たとした。

第1セッション終了後の記者会見に臨む欧州委員会のバローゾ委員長(左)と欧州理事会のファンロンパウ常任議長(右)

さらに、成長と雇用は政府が購入したりすることができるものではないとし、問題は優先課題の設定や正しい選択の良いバランスを見つけることで、こうしたことを欧州理事会で議論したと説明した。

なお、加盟国とEUは、2012年12月の欧州理事会で合意(2012年12月17日記事参照)した2013年の年次成長外観(2012年11月29日記事参照)で設定した次の優先課題に沿って、競争力と成長、雇用を促進する行動を取ることを再確認した。

(1)加盟各国の事情に応じた成長志向型の財政再建を追求する。
(2)経済への資金貸し出しを正常な状態に回復させる。
(3)現在と将来のための成長と競争力を促進・強化する。
(4)失業と危機による社会的影響に取り組む。
(5)公共行政を近代化する。

<「成長と雇用」予算の配分強化を各国に要請>
欧州理事会は、行動と結果にコミットし続ける必要性に合意し、実行することがカギだとした。構造的な均衡予算に向けてうまく前進させなければならず、個々の加盟国にとっては長期的に道理にかなった選択をすることだとした。欧州理事会は、安定成長協定の既存の財政ルールと新しい財政協定〔経済通貨同盟(EMU)の安定・強調・ガバナンスに関する条約(PDF)〕がもたらす可能性を想起しながら、特に加盟国によって異なる成長志向型の財政再建策の必要性を強調した。

具体的には以下を挙げた。

○(均衡予算に向けた)構造改革の追求
○脱税への厳格な対応。雇用ベースの税制からの転換
○イノベーションや教育のような極めて重要な分野を犠牲にしない、各国に見合った歳出削減
○成長と雇用(特に若年層に対して)を促進する即効性のある焦点を絞った対策の着手

また、ファンロンパウ常任議長は、EU中期予算枠組み合意の際に予算総額が微減したが、成長と雇用により多く予算を割いたとし(2013年2月12日記事参照)、各国政府も同じことができると主張、既にそうしている国もあると強調した。このような選択は、まさにEUが共通ルールで認めたものであり、共同決定として奨励するものだと付け加えた。

<競争力強化に向けてテーマ別5分野の議論を予告>
今回の欧州理事会の議長総括(PDF)は、第1セッション終了後の14日夜に会議終了を待たずに発表された。議長総括の冒頭で、2013年の経済停滞予測と受け入れがたい高失業率を受けて、成長志向型の財政再建を進めながら優先項目として成長を支える努力を加速することがいかに重要かをまず指摘した。特に、「成長・雇用協定」(2012年7月2日記事参照)に関連した決定の実施に集中すべきだとした。また、個別の優先課題として、若者の雇用支援、成長と競争力の促進を挙げた。欧州理事会は今後数ヵ月の間、成長と雇用を促す潜在力が高い個別のテーマを議論することで合意したとした。

成長と競争力促進の具体策としては、単一市場法案I(2011年4月14日記事参照)の早期決着と欧州委員会が同法案II(2012年10月4日記事参照)を欧州議会の任期(2014年6月)が切れる前に採択できるよう提案することを確認した。また、中小企業に対するEUおよび各国レベルでの規制負担の軽減のための行動を求めた。

さらに、欧州理事会は成長と競争力のための分野別の取り組みとして以下の5優先分野について、今後数ヵ月のうちに討議することを確認した(かっこ内は予定時期)。

(1)エネルギー分野(2013年5月):域内エネルギー市場の完成と欧州エネルギー市場の相互接続に関する作業を継続中。2015年以降は欧州ガス・電力ネットワークから孤立する加盟国がないようにすべきだ。欧州は近代的なエネルギー・インフラへの投資が必要であり、競争力を妨げる高いエネルギー価格への対策が必要。

(2)イノベーション分野(2013年10月):欧州委による欧州研究領域の進捗報告書と、単一イノベーション指数を含む「イノベーション連合2012年の状況」に関するコミュニケーション(連絡文書)の発表と、それらに関する議論を期待している。

(3)デジタルおよびその他のサービス分野(2013年10月):2015年までに単一デジタル市場の十分な機能の完成を保証するために取り組むべき残された課題と現状を10月までに報告するとともに、できるだけ早く単一情報通信技術(ICT)市場を確立するための対策を具体化しようとする欧州委の意思に留意している。

(4)防衛分野(2013年12月):より統合され、革新的で、競争力のある欧州防衛技術・産業基盤の発展を模索している。

(5)産業競争力と政策(2013年6月〜2014年2月):製造と投資の拠点として欧州の競争力を高めることの重要性を強調し、欧州委が最近発表した産業政策や個別の詳細な産業分野に関する指針(コミュニケーション)をフォローアップすることを期待する。と同時に、欧州の競争力についての報告書や優先的な産業政策の実施に関する報告書、工業製品のための単一市場の見直し結果といったものを欧州委が発表し、この議論にさらなる情報提供をすることを期待する。

<成長・雇用協定の即効性評価を6月に実施>
成長・雇用協定については、欧州理事会で決定したガイドラインで特に成長と競争力を促進するために、環境ビジネス分野(グリーンエコノミー)の潜在力開拓を強調している。また、最近の欧州投資銀行(EIB)の100億ユーロの増資により、成長と雇用の支援のために銀行に対する600億ユーロの追加融資が可能になったことを確認した。さらに、欧州理事会は成長・雇用協定について、特に雇用創出を目的とした措置や即効性のある成長対策への融資促進に関する実施評価を2013年6月に行うことを確認した。

他方、より良い経済ガバナンスの枠組みの完成と導入が急務であるとし、財政やマクロ経済の監視に関する新しい法制(6つの法案「シックスパック」や2つの法案、新財政協定)を十分に導入し、2013年度の各国予算のサイクルから適用できるよう、必要な全ての準備作業を成し遂げなければならないとした。

加えて、2013年6月の欧州理事会を目指し、銀行同盟の立ち上げに関する内容も含め、EMUの深化に関する継続中の作業を検証した。

<戦略的パートナーのロシアとの関係も協議>
15日午前中のセッションでは、戦略的パートナーの国々との関係について意見が交わされた。特に、ロシアとの関係の現状に関する協議がトピックとなった。今回の議論は、定期的な戦略的パートナーに関する意見交換の一環だとしている。ロシアとの関係は広範にわたっており、ファンロンパウ常任議長は会議後の記者会見で「戦略的パートナーとして互いにとても重要だ」と強調し、「共通の利益と課題、関係強化の最善策について実り多い議論をした」と補足した。また、2012年10月の欧州理事会では中国との関係について議論しており、2013年後半には米国との関係についても議論するとしている。

さらに、欧州理事会は内戦の続くシリアの状況についても協議し、次週のダブリンでの非公式な外相理事会の優先課題としてシリアの状況を精査するよう要請した。

(田中晋)

(EU)

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