大企業向けの課税、控除引き下げを強化−「2013年予算法:在フランス日系企業に係る最近の税制」セミナー−

(フランス)

パリ事務所

2013年03月08日

ジェトロは2月6日、在フランス日系企業を対象に「2013年予算法:在フランス日系企業に係る最近の税制/社会保険関連措置」に関するセミナーを開催した。法律事務所ランドウェルの横田文志ジャパンデスク責任者による税制の最近の変更点に関する講演を紹介する。

<法人税率:33.33%に据え置き>
法人税については2013年度(注)も税率の変更はなく、33.33%と定められている。76万3,000ユーロ以上の法人税を支払う企業では、法人税額の3.3%の社会保険拠出金を支払う義務がある。

<法人特別税:2年延長>
2013年で終了予定だった時限法人特別税が2年間延長され、2015年12月30日までの決算が対象となる。暦年決算の企業の場合は、2014年度(1月1日〜12月31日)までの決算が対象となる。年間売上高が2億5,000万ユーロ以上の企業を対象とし、法人税額の5.0%が特別税として課税される。受取利息・配当金と特別収益は特別税の課税対象となる売上高には含まれない。連結納税(資本参加が95%を超える場合は連結納税が可能)の場合、グループ企業の売上高合計が基準となる。

<年間割当税:2014年まで延長>
2011年に廃止予定だった年間割当税が2014年まで延長された。年間割当税は法人税の課税対象となる企業に対する税金で、売上高に基づいて計算される(表1参照)。売上高が1,500万ユーロ未満の場合は課税されない。損失を出している企業でも売上高が1,500万ユーロ以上であれば課税される。割当税は損金として繰り入れることが可能。

表1年間割当税の税額

<欠損金の繰越額:上限を設定>
欠損金の繰越額について、2012年12月31日以降の決算に関しては、1年間の相殺金額に100万ユーロに残額の50%を加算したものという上限が設定された。このため、繰り越しの総額は同じだが、1年間の金額の上限設定により、例えばこれまでは3年間で消化したものが5年で消化するようになるなど、企業にとっては相殺が以前よりも均等に行われるため、キャッシュフローの流れが変わる。

欠損金繰戻額の上限は2011年から設定され、繰り戻し対象となる還付所得事業年度は欠損が出た年の前年度に限定、欠損繰戻額は100万ユーロを上限とする。繰戻額に対して支払った税金は税務当局に対する債権となり、翌期以降5年間に支払う法人税と相殺できる。欠損金繰り戻し還付はオプションであり、強制ではない。利益が数年見越せない場合、欠損金を繰り戻し還付しておくと、その後5年間は法人税の支払いに当てられ、その間に相殺できなかった債権が現金で還付される。現金還付は収益とは見なされない。

<支払金利の損金算入:上限を設定>
支払った金利が300万ユーロ以上だった場合、2012年12月31日以降の決算については金利の損金算入は85%に制限される。また、2014年1月1日以降に開始する事業年度については、損金算入は75%に制限される。フランスでは金利の損金算入の規制が緩く、M&Aで融資を受けた際の金利を買収した会社に負担させることも可能だ。ドイツ企業を買収する際に、フランスに子会社を設立して、フランスの子会社にドイツ企業を買収させる例もある。

<株式譲渡税:益金に算入しない場合も>
事業の上で購入した株式(例:取引先を子会社にするなど)の譲渡税は、2年以上所有かつ関連会社株式(出資比率5%以上)であれば益金には算入しない。ただし、費用は法人税課税の対象となる。課税対象となる費用割り当てが譲渡益の10%から12%に変更された。上記の条件を満たす関連会社株式の譲渡損が出たとしても、費用割り当て計算の際、譲渡益との相殺はできなくなった。従って、12%の費用割り当ては譲渡損があっても相殺されず、譲渡益を基準として計算される。

<国外移転における含み益:課税のケースも>
会社住所の国外移転において、EU27ヵ国とアイスランド、ノルウェーへの移転で資産の移転を伴う場合、含み益に課税されることになった。EU域外への移転は以前と同様に廃業と見なされ、課税はない。税額は資産移転時に決定、支払いは移転時に全額、もしくは5年の分割払いのどちらかを選択することが可能。2012年11月14日以降の移転に適用される。

<R&D費税額控除:対象額が変更>
研究開発(R&D)に投資している企業に対するR&D費税額控除の対象額が2013年から変更され、費用全額の30%となる。ただし、1億ユーロを超える部分の費用については、5%で変更はない。控除の対象となる費用は基礎研究、応用研究、実験的開発業務の減価償却費、給与、運営費および業務委託費が出費年度の法人税と相殺される。出費年度以降3年間の法人税額との相殺が可能で、それでも残った場合には現金で還付される。

<税額控除:競争力強化・雇用創出を目的に導入>
このほか2013年予算法では、競争力強化および雇用創出を目的とした税額控除(CICE)が導入された。当該控除は、1月から12月までの1年間に支払った給与(残業代、賞与、現物給与を含む)のうち、最低賃金の2.5倍までの給与を受け取った従業員の給与が法人税の控除対象となる(2013年1月15日記事参照)。2.5倍までの部分が対象ということではなく、2.5倍を超えた従業員の給与が対象外となる。残業が発生した場合、対象か否かの基準額の算式には、残業の割増分はカウントされない。一方、控除額の算式の基準となる給与総額には、割増分を含めた残業代がカウントされる。

2013年は給与総額の4.0%、2014年以降は給与総額の6.0%を、原則として、給与が支払われた年度の税額と相殺できる。相殺できなかった額については、その後3年間の税額と相殺、それでも相殺しきれない場合には還付となる。また、控除権は譲渡が可能だ。年間控除額は200億ユーロに上ると推定され、うち半分は付加価値税(VAT)の増額により、残りは関係省庁のコスト削減により財源を確保するとされる。

<VAT一般税率:2014年から引き上げ>
2014年1月1日から、付加価値税(VAT)税率が下記のとおり変更となる。

○一般税率:19.6%→20.0%
○軽減税率:7.0%→10.0%(レストランでの外食など)
○軽減税率:5.5%→5.0%(食品、ガス・電気代などの生活必需品)

フランスに事業所を持たない外国企業がフランスで開催される見本市に出展した場合、出展費用に伴うVAT還付権を持つ。還付は、自国において消費税の支払いおよび請求を行っている企業に限られる。EU域内企業についてはEU指令2008/9/CEに基づき各自還付を自国の税務署に申請すること、これまでEU域外企業については、EU指令86/560/CEに基づき税務代理人を立ててフランス当局に還付申請を行うことが義務付けられていた。しかし、2013年1月1日からEU域外企業についても税務代理人が不要となった(租税法289AI)。税務代理人が不要となる対象国は経済・財務相が発表する予定。日本については、日仏租税条約にVATに関する条項がないため、対象国とならないのではと推察される。

<個人所得税:15万ユーロ以上の所得に45%課税>
フランスの個人所得税は家族単位を原則とする。適用税率(係数1)は下記のとおり累進課税で、15万ユーロ以上の所得に対する45%課税が新設された(表2参照)。

表2個人所得税の税率

高額所得への特別課税は2012年に支払う2011年の収入から課税されている。例えば60万ユーロの所得のある単身者の場合、通常の所得税が60万ユーロに対し45%かかり、加えて特別課税が25万1〜50万ユーロの部分に対し3%、50万1〜60万ユーロの部分に対し4%かかる。

なお、新政権が試みた100万ユーロを超える所得に対する75%課税は、夫婦で各50万ユーロ合計100万ユーロの場合は課税されないのに、1人が100万ユーロの収入で、もう1人が仕事をしていない家庭では課税されるのは不公平だとして違憲と判断され、撤回された。

<資本所得:所得に加算して課税>
資本所得は所得税と統合もしくは源泉分離課税の選択が可能だったのが、所得に加算して課税されることになった。ただし、1年後に支払う所得税の前払いとして資本所得を得た時点で源泉税が課税され、翌年の所得税支払い時に調整(還付または追加課税)されることとなった。源泉税は配当21%、利子は24%となる。配当5万ユーロ未満、利子2万5,000ユーロ未満の所得については、源泉税は免除され所得税で一括して支払う。

(注)フランスの財政年度は1〜12月。

(後藤尚美)

(フランス)

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