年後半に景気悪化は沈静化するも緊縮財政続く−2013年の経済見通し−

(スペイン)

マドリード事務所

2013年01月09日

3年目となる超緊縮財政と高止まりする失業率の影響で、さらなる内需低迷が確実視されるものの、バブルが崩壊した2008年ごろから続いていた景気悪化は2013年後半にかけて緩やかに沈静化し、2014年は回復に転じるとの見方が多い。主要国際機関が2013年のGDP成長率見通しを下方修正し、マイナス1.4%前後としている一方、政府見通しはマイナス0.5%とやや楽観的。緊縮財政により景気が下振れし、財政赤字の縮小がさらに遅れるという悪循環が続いており、2014年も引き続き追加の緊縮措置を迫られる可能性が濃厚だ。

<内需の低調は続きそう>
政府が予算案のベースとして2012年9月末に発表した2013年の実質GDP成長率見通しは、マイナス0.5%と12年7月時点から据え置かれた(2012年10月17日記事参照)

個人消費は、失業率の高止まりと公務員をはじめとする給与引き下げ・据え置き、直接・間接税増税の影響で前年比1.4%減。政府消費支出は、構造的に拡大する失業・年金と国債費支出をカバーするための緊縮で8.2%減。また公共投資が2012年同様、前年比4割減のペースで縮小し、住宅投資は新規着工が5年前の約10分の1の水準で推移、設備投資も民間企業の債務圧縮強化の影響で縮小することから、内需は総じて低調となる。他方、超緊縮財政の影響を受ける政府消費支出を除き、全ての項目で減少幅が2012年よりも縮小し、緩やかな回復感も出てきそうだ。

外需の寄与度は2011年および2012年並みの2.3%となっており、外需が引き続き経済を下支えする。輸出は2012年に過去最高を記録したが、今後は主要輸出先のEU経済の減速が懸念される。

<主要国際機関はマイナス1.4%前後の成長を予想>
欧州委員会やIMF、OECDといった主要国際機関は2012年秋、失業率はまだ天井を打っていないとして、2013年の実質GDP成長率見通しをマイナス1.4%、つまり政府見通しの3倍近いマイナス幅に下方修正した。

政府は純輸出および観光の好調による経常収支の大幅改善を根拠に、マクロ経済調整は急速に進んでいると主張する。バブル崩壊時の2008年にGDP比で9.6%の高水準に達していた経常赤字は、2012年には2.5%、2013年には0.5%まで縮小し、2014年には黒字化すると見込まれる。

しかし、観光収入や輸出はEUや世界景気に左右されるほか、国内景気が回復すればエネルギー資源その他の輸入も増加するため、貿易収支の改善にブレーキがかかる。また、国債金利が依然高い中、これに連動する企業の資金調達コスト(対外債務利子)負担の拡大も懸念要因だ。経常収支が黒字化するとしても一時的な現象との指摘も多い。

リンデ・スペイン(中央)銀行総裁は「スペイン経済の調整は依然難しい状況にあり、企業活動と雇用創出のいずれにおいても改善の兆候はみられない。政府の措置の多くは構造改革であり、これが効き目を発揮するには時間がかかる。従って、今後数四半期も景気は悪化し続ける」(2012年11月22日、上院予算委員会)と述べ、政府の「勇み足」に警鐘を鳴らしている。

<経済回復は構造改革の成否次第>
それでも2014年には3年ぶりのプラス成長が見込まれるというのが大方の予測だ。政府は、早ければ2013年の第3四半期または第4四半期にはプラス反転するとみている。

この回復の推進力となるのは外需だけではない。2013年中にいかに競争力向上と金融機能の回復が進むか、つまり2012年初めに導入された労働市場改革や、2013年初めから本格化する金融セクター再建といった構造改革の成否がカギを握る。

その半面、懸念されるのが財政収支目標の達成だ。国内外でスペインは2012年の収支目標(GDP比で6.3%以内の赤字)を達成できないとのコンセンサスが既に広がりつつある。

そうなると、さらなる緊縮を余儀なくされ、景気が下押しされてしまう。この点については、欧州委のレーン副委員長(経済・通貨問題担当)が2012年11月14日、「たとえスペインが2012年の財政赤字目標を達成できなかったとしても、2012〜2013年中の追加措置は不要」と目標未達成を容認する姿勢を示唆している。実質的なEU・欧州中央銀行(ECB)・IMF監視下ともいえる超緊縮措置を既に打ち出している一方、景気の下振れが食い止められない状況に配慮したかたちだ。

他方、同副委員長は「政府の2013年成長見通しは楽観的過ぎる上、社会保障の歳入見通しも甘い。自治州の赤字削減可能性も不透明」とし、「政府は2014年の追加緊縮財政計画を早急に示すべきだ」と述べた。現在の緊縮措置の多くは2012〜2013年の時限的措置で、このまま追加措置を講じなければ、財政再建がさらに遅れることとなる。

国債金利の低下と金融機能の正常化を促すべく、ECBに早急に国債買い入れ要請を行うべきだとする声も経済界をはじめとして強い。スペイン国債の金利は欧州債務危機の影響で、経済の実力よりも2ポイントほど割高となっており、この影響で企業の資金調達コストも依然高い水準にあるとされる。

政府はECBの国債購入プログラム(OMT)のアナウンス効果による国債金利の沈静化、2012年の国債発行が無事消化できたこと、また総選挙を控えるドイツの意向への配慮を背景に、「OMT発動要請は検討中」と不透明な姿勢を貫いてきた。しかし、2012年12月にイタリアのモンティ首相が辞任の意向を表明したことで、同国の政治不安が直ちにスペインの国債金利上昇や株価下落というかたちで波及。ECBへの要請をめぐる議論が再燃している。

主要経済指標

(伊藤裕規子)

(スペイン)

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