外国人就労パス基準厳格化で、申請・更新の却下が増加
シンガポール事務所
2012年10月01日
外国人就労許可証の発給基準厳格化などに伴い、新規申請や更新の却下が増えている。多くの外国人労働者に依存する業界では人材の確保が厳しさを増しているが、政府は引き続き外国人労働者の増加を抑制する方針だ。一方、外国人労働者雇用法が改正され、外国人労働者の違法雇用や就労許可証の不正取得などの違法行為に対する罰則が強化される。
<発給基準の基本月給引き上げなどが影響>
管理・専門職向け外国人就労許可証「エンプロイメント・パス(EP)」と、中技能向け外国人就労許可証「Sパス」の発給基準厳格化に伴い、2012年に入って申請が却下されるケースが増えている。タン・チュアンジン人材相代行の9月11日の国会答弁によると、12年1月1日から7月31日までにEPとSパスの申請が却下された割合は30%と、11年通年の26%から上昇した。また、却下された外国人のうち29%は就労許可の更新が却下された人で、11年通年の更新却下者21%を上回った。
人材省は、管理・専門職種の外国人にEP、中技能向けにSパス、建設労働者や工場労働者など低技能向けに「ワーク・パミット(WP)」と、外国人の技能や学歴、賃金に応じて異なる種類の就労許可証を発給している。2011年末時点の人口は526万人、このうち永住権者を除く外国人は28%。また、外国人のうち、WP保持者が46%と最も多く、EPとSパスは合計で20%だ(図参照)。
政府は2010年以降、EPとSパスの発給基準を引き上げたほか、WPとSパスを持つ外国人の雇用主に課す雇用税の段階的引き上げや、雇用限度率の引き下げなど、外国人労働者の増加を抑制するための対策を打ち出している(2012年3月5日記事、7月19日記事参照)。タン人材相代行は国会答弁で、却下が増えた理由として、EPとSパスについて11年7月から発給基準となる基本月給を引き上げたこと、EPの学歴基準を12年1月から高めたことなどを挙げた。
<飲食店業界の人手不足が特に深刻>
人材省の2012年第2四半期の雇用統計(9月14日発表)によると、6月の失業率は2.0%と、3月の2.1%と比べて低下している。飲食店や小売りなどサービス業や建設業など、もともと地元労働者の採用が難しく、外国人労働者に大きく依存してきた業界では、外国人労働者の雇用引き締めで人材の確保が厳しさを増している。
このうち飲食店業界は、2011年に新規開店したレストランが642店と、1日当たり約2店が新たにオープンする出店ラッシュとなった。12年に入ってもその勢いは衰えておらず、人材のニーズが増える一方で、外国人の雇用抑制策により、人材の確保がますます困難となっている(「ストレーツ・タイムズ」紙8月12日)。こうした状況に対し、規格・生産性・革新庁(SPRING)と全国労働組合会議(NTUC)は9月12日、飲食と小売業界の中小企業が地元幹部候補生の採用と訓練を資金援助する新たな共同プログラム(注1)を開始した。しかし、幹部だけでなく、食器洗いやホール係などあらゆるレベルで人材の不足が指摘されている。
<外国人労働者抑制方針は変わらず>
ターマン・シャンムガラトナム副首相兼財務相は9月14日、「政府の外国人労働者に対する政策は変えない。政策は長期的な目的に基づいている」(「ビジネス・タイムズ」紙9月15日)と強調しており、外国人労働者の抑制政策は当面継続される見通しだ。ただ、タン人材相代行は、外国人労働者の抑制に伴う中小企業への影響に関する国会質問に対し、9月10日付の書面回答で「外国人労働者の抑制は、中小企業をターゲットにしたものではない」と述べている。同氏は、中小企業の要請を受けて、2012年7月1日からWP保持者のうち「未熟練労働者(注2)」の雇用年数をそれまでの最長6年から10年に延長したと説明した。この結果、企業が経験を積んだ外国人労働者をより長期に雇用することが可能になり、未経験の労働者を新規採用して、教育するコストを抑制できるとしている。
一方、政府は9月11日、外国人雇用法(注3)を改正し、外国人の違法雇用や不正行為に対する罰則を厳格化し、違法行為を取り締まる人材省の権限を強化した。一連の改正では、EPとSパスの申請者が学歴詐称した場合の罰則を、最高罰金刑2万シンガポール・ドル(Sドル、1Sドル=約63.2円)か禁錮刑2年、またはその両方を科すほか、外国人の採用を増やすために架空の地元労働者に社会保障基金を支払うなどの違法行為に対する罰金を最高2万Sドルに引き上げるなど、罰則を厳しくした。同改正法は2012年末までに施行される。人材省は改正について、「国民のための雇用創出と賃金上昇に向けて持続的な経済成長を支える就労制度の精度を高め、国民が労働力の中心であり続けることを保証するのが狙いだ」と説明している。
(注1)同プログラム「Core Executive Programme for Food Services and Retail Sector」は、中小の飲食・小売業者に対し、地元の新卒大卒者の採用や訓練に1人当たり最大2万1,000Sドル、高等専門学校の新卒者(ディプロマ)の場合だと同1万5,000Sドルを訓練などに支援するもの。年間500人のシンガポール人幹部候補生の育成支援を計画している。詳細はSPRINGのウェブサイト参照。
(注2)WP保持者は一定の学歴を持ち、技術試験に合格すると「熟練労働者」、それ以外は「未熟練労働者」と分類される。雇用主に課せられる外国人雇用税は、熟練労働者と未熟練労働者とでは税率が異なる。
(注3)「外国人雇用法〔Employment of Foreign Manpower Act(EFMA)〕」の改正に関する詳細は人材省のウェブサイト参照。
(本田智津絵)
(シンガポール)
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