帯同家族のビザ発給基準も引き上げ−外国人雇用規制の強化続く−
シンガポール発
2012年07月19日
人材省は2012年9月1日から、管理・専門職向けの外国人就労許可証「エンプロイメント・パス(EP)」と中技能向けの外国人就労許可書「Sパス」の、帯同家族向けのビザ発給基準を引き上げる。政府は10年から、低熟練労働者から幹部職に至るあらゆるレベルで外国人の受け入れ基準を徐々に厳しくしている。
<妻子の帯同ビザ発給、月給4,000Sドル以上が条件>
人材省は7月9日、EPとSパスを保持する外国人が配偶者と子ども(21歳以下)を帯同する場合、EP・Sパス保持者の月給を一律4,000シンガポール・ドル(Sドル、1Sドル=約63円)以上に変更し、帯同ビザの発給基準を引き上げる、と同省のウェブサイトを通じて告知した。また、同省は両親の帯同について、EPの中でも「P1パス(月給8,000Sドル以上)」のみ認めるとし、義理の両親の帯同は認めないとしている。新基準は、2012年9月1日以降の入国者が対象となり、9月1日以前の入国・ビザ申請分についてはこれまでの基準が適用される。
同省は、管理・専門職種にEP、中技能職向けにSパス、建設労働者や工場労働者などの低技能者向けに「ワーク・パミット(WP)」と、外国人の技能、学歴や賃金に応じて異なる種類の就労許可証を発給している。また、EPについて、月給に応じて8,000Sドル以上を「P1パス」、4,500Sドル以上を「P2パス」、3,000Sドル以上を「Q1パス」と分けている。同省はこれまでEP保持者と月給2,800Sドル以上のSパス保持者の妻と子どもに対し帯同ビザを発給していたが、9月1日からEPとSパスとも一律月給4,000Sドル以上を得ていることを帯同ビザ発給の条件とする。
<外国人ビザ発給基準を次々に強化、外国人の増加を抑制>
人材省は今回の帯同ビザの発給基準強化について、「外国人の人口の伸びを抑制するという政府の方針の一環で、社会インフラへの負担を軽減するのが狙いだ」と説明している。総人口は、2001年は413万8,000人だったのが、11年に518万3,700人と100万人以上増加した。この増加を牽引したのが外国人だ(図参照)。政府の積極的な外国人移民の誘致策は高い経済成長を支える一方、住宅価格の高騰や交通渋滞、所得格差の拡大などの要因ともなり、国民からの反発も生んだ。政府は2010年、国民の労働生産性を引き上げるという新経済戦略に基づき、外国人労働者への過度な依存を抑制し、外国人労働者を全労働人口の3分の1に抑えるという目標を設定した。これを受け、政府は低熟練労働者から幹部職、永住権(PR)に至るあらゆるレベルの外国人の受け入れ基準を徐々に厳しくしている。
人材省はこれまでにEPとSパスの発給基準を2度にわたり引き上げたほか、SパスとWPの雇用主に課す外国人雇用税も段階的に引き上げた(2012年1月5日記事参照)。しかし、EP保持者は2011年末時点で17万6,000人と、前年の14万2,000人から増加。Sパスも11年末に11万3,000人と、前年の9万8,000人から増加している。
また、政府は、国民とほぼ同様の待遇が認められるPRの発給基準も引き上げている。シンガポール通貨金融庁(MAS、中央銀行に相当)は12年4月末で、富裕層向けのPR発給制度「ファイナンシャル・インベスター・スキーム(FIS)」を廃止した。同制度は、2,000万Sドル以上の純資産を保有し、シンガポールへ1,000万Sドル以上投資(このうち、不動産物件への投資は200万Sドルまで)した富裕層に、PRの申請を認めるというもの。さらに、経済開発庁(EDB)が管轄する起業家向けのPR発給制度「グローバル・インベスター・プログラム(GIP)」も12年4月15日から、発給基準が強化された。申請者の事業の売上高の最低水準について、これまで一律、年間3,000万Sドルとしていたのを、不動産・建設関連事業について過去3年の年間平均売上高を2億Sドル、その他の業種については過去3年の年間平均売上高を5,000万Sドルへと引き上げていた。
(本田智津絵)
(シンガポール)
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