下院選で自由民主党が第1党を維持

(オランダ)

アムステルダム事務所

2012年09月14日

下院総選挙(定数150議席)が9月12日実施され、与党の自由民主党(VVD)が勝利した。同党は国内では緊縮財政政策をとりつつ、ユーロ圏の債務問題では南欧諸国に財政規律を求め、追加支援に慎重な対応をしてきた。ただし、連立政権が不可避なことから、今後の他党との政策協議が注目される。

<財政政策が主な論点に>
今回の選挙は、2012年4月、下院第1党VVDのルッテ首相が「財政赤字GDP比3%以内」というEU基準に対応するため歳出を削減しようとしたことに対し、閣外協力していた自由党(PVV)が反対した結果、ルッテ内閣が総辞職したのを受けて行われた(2012年5月15日記事参照)。緊縮財政か否かといった論争や長引く不況、EUを取り巻く債務問題などを背景に、今回の選挙戦では「国内財政政策は緊縮か緩和か」「欧州債務問題ではEUの政策と協調すべきか否か」が主な論点となった。

選挙の結果は、与党のVVDが41議席(前回31議席)を確保し、第1党となった(9月13日時点の地元報道機関発表)。中道右派のVVDはルッテ首相の下、国内では緊縮財政政策をとり、債務に苦しむ南欧諸国には財政規律を求めるとともに、これらの国々への追加支援には慎重な対応をとってきた。

<労働党が躍進して第2党に>
また今回の選挙では、先の選挙で大敗した労働党(PvdA、中道左派)が躍進し、39議席(前回30)を確保し、第2党となった。PvdAは、欧州債務問題ではEUとの協調を主張し、国内政治では不況に苦しむ国民生活改善のため緊縮財政の見直しなどを唱えた。先の選挙ではテレビでの党首討論で支持を拡大できずに敗北したため、その後若く討論にたけたサムソン氏を党首に選出したことが功を奏した。今回の選挙では、サムソン党首はテレビでの党首討論で国民に好印象を与え、選挙戦終盤に社会党(SP、左派)の票を取り込んだ。

VVDとPvdAの両党は、国内財政政策では意見が分かれるが、EUとの関係では政策協調すべきと主張する点では同じ路線だ。

先の選挙で強硬な移民政策を主張し、多くの支持を集めて一躍注目されたPVVは15議席(前回24)と大きく後退した。前回の自由党の躍進で欧州の移民問題に世間の関心が集まり、その後一時期、移民問題は主要課題となった。しかし、閣外協力していたPVVが原因で政治が停滞したことや所属議員が問題を起こしたことに加え、人々の関心が移民問題から国内財政問題や欧州債務危機に移ったことなどが影響し、議席を大幅に減らす結果となった。

また、緊縮財政反対やEUとの協調反対など不況に苦しむ人々の関心を集める主張を展開したSPは、選挙戦序盤に大きくリードした。今回の選挙でSPが勝利すると、欧州債務問題に与える影響は大きいとして注目された。しかし、選挙戦中盤から行われたテレビでの党首討論会で政策を明確に示すことができず失速し、最終的に多くの支持票が他党に流れた。同党は第3位の15議席(前回15)にとどまった。

<連立政権目指し、他党と政策協議へ>
国内ではリーマン・ショックの深刻化につれて経済が低迷。行き過ぎた「労働者保護政策」が労働者の流動化を阻害し、それが若者の失業増加の原因と指摘されている。また、不況や失業など厳しい環境にある若い世代を中心に、「世代間の不公平感」や「世代間格差」といった新たな問題意識も芽生えてきた。リベラル政党であるVVDの勝利は、このような社会情勢を反映したものといえる。

今後、第1党のVVDが中心となり、連立政権づくりのための政策協議が各党と行われる。SPが失速し、VVDが第1党を維持したことで、欧州債務問題への悪影響はひとまず回避されたが、予断を許さない。下院選挙は比例代表制で多くの政党が立候補するため、1つの政党で過半数を確保することは難しい。第1党が下院での過半数獲得を目指して他党との連立内閣を構成することになる。今回の選挙では150議席を争って21の政党から972人が立候補した。この選挙に勝利したルッテ首相も直ちに政策協議に入ると述べたが、従来は政策協議を経て、連立政権を樹立するまで数ヵ月を要している。現与党の自由民主党が第1党となったとはいえ、新政権の方針は連立政権を構成する他党との政策協議を待たなければならない。

(川西智康)

(オランダ)

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